子会社の金は親会社の金?

1 今回のブログでは、会社の金は社長の金?に関連して、親会社と子会社間でのお金のやり取りについて、ピックアップします。

2 親会社が、100%出資している子会社からお金を受け取った場合にどうなるかについて、実例をカスタマイズして、お話いたします。

1 X社は、貸切バス事業を行う株式会社であり、Y社の100%出資会社(つまり、Y社の100%子会社)です。
Y社は、旅館・ホテルを経営する会社であり、X社に対して、Y社の旅館等のお客さんの送迎業務を外注していました(以下「本件送迎業務」といいます)。

2 X社は、本件送迎業務の代金について、毎月末にY社に請求書を発行し、Y社は翌月末にX社へ支払いをしていました。

3 X社は、Y社に対して、たびたびお金を交付していました(以下「本件交付金」といいます)。
X社は、本件交付金について、短期貸付金勘定で経理処理していました。
もっとも、本件交付金のやり取りについて、X社とY社との間で金銭消費貸借契約書は作成されておらず、X社はY社から利息を受け取っていませんでした。

4 税務署長は、本件交付金が、X社のY社に対する貸付金であると認定しました。
そして、X社がY社に対し、本件交付金を貸し付けた以上、相応の利息を取る必要があるのに取っていないから、Y社に対して、経済的利益の無償供与をしたとして、利息相当額を寄附金として、X社の益金に算入するという更正処分をしたのです。

1 今回の実例においては、そもそも、本件交付金が、X社のY社に対する貸付金なのか、という点が争点になりました。

2 この点、X社は、本件交付金について、Y社がX社に対して支払っていた本件送迎業務の代金を、一部Y社に返金してきたものであり、Y社への貸付金ではないと主張しました。
しかし、そもそも、X社は、Y社から本件送迎業務を委託され、その対価を得ていたという取引関係なのに、あえて、Y社に一部の代金を返還しなければならない合理的な理由はありません(Y社がX社に過分に支払い、それをY社に返金したというのであれば理解できますが、そのような事情はありませんでした)。
したがって、X社の主張は、苦し紛れの言い逃れと言わざるを得ないでしょう。

3 今回の実例では、税務調査の結果、X社が、本件交付金について、短期貸付金勘定で経理処理し、各事業年度末の本件交付金の残高を、短期貸付金として貸借対照表に記載していました。
また、Y社への反面調査の結果、Y社は、本件交付金について、短期借入金勘定で経理処理しており、Y社の事業年度末の本件交付金の残高を、短期借入金として、貸借対照表に記載していることが、判明しました。
このような点からすれば、X社とY社の両方共が、本件交付金について、貸付金だと認識していたことが、客観的に認められます。

4 さすがに、当事者双方の経理処理方法が合致しているという事実は動かしがたく、この実例においても、本件交付金が、X社のY社に対する貸付金であると認定されました。

1 会社法5条により、会社の行為は商行為となります。
X社は株式会社ですから、本件交付金が、Y社に対する貸付金であるとすると、相当額の利息もY社から取る必要があります。
今回の実例では、X社はY社から、相応の利息を取っていませんでした。更正処分の理由は、この点にありました。

2 この問題の前提として、以下の点をお話をいたします。
法人税法37条では、寄附金の損金不算入が規定されていますが、法人税法37条7項では、経済的利益の無償の供与も、寄附金の範囲に含まれると規定されています。
つまり、法人間のお金の貸し借りの場合、当然相当額の利息を付けなければなりません。
にもかかわらず、無利息でお金を貸したということは、貸主が、利息に相当する経済的利益を、無償で借主に提供したということになります(借主として、払う必要のある利息を払わなくて良いから)。
そして、このようなやり取りは、税法上、貸主が借主に対して、利息相当額のお金を寄附したのと同じ扱いをされるのです。
その結果、法人税法22条2項により、利息相当金額が、寄附金として、貸主の益金に算入されることになります。

3 本件についていえば、X社は、Y社に対して、本件交付金を貸し付けたわけですから、それに見合う相当額の利息をY社に請求する必要があります。
しかし、本件で、X社は、Y社に対し、利息を請求していません。
これは、X社が、Y社に対して、本件交付金の利息に相当する経済的利益を無償で提供していたことになります。
いいかえれば、X社が、Y社に対して、本件交付金の利息相当額のお金を寄附したのと同じ扱いになります。

4 したがって、寄附金の損金不算入の規定に従い、本件交付金の利息相当額を、X社の益金に算入する必要があったのです。

5 今回の実例の特殊性は、X社が、Y社の100%子会社であり、Y社がX社を完全支配できる状況にあったという点です。
実際に、X社からは、「X社とY社は、一心同体の会社であり、X社がY社に貸付をする際に利息を取らないことについて合理的な理由があるので、利息を取らないことが寄附金にあたらない」という主張がなされました。
これはまさに、「子どもが親にお金を貸す際に、普通は、利息を取らないでしょ」という道義論にも近い主張といえると思います。
しかし、国税不服審判所は、このX社の主張を否定ました。
そもそも、家族間の親子関係と、会社法でいう親会社・子会社の関係は、全く次元の違うものなので、それを同レベルで考えている点で、X社の主張は、的外れと言わざるを得ません。
いくら100%出資している子会社であるといっても、別の法人格であることに、変わりはありません。
特に、今回の実例においては、親会社であるY社は、旅館やホテルを経営する事業をしています。そして、子会社であるX社は、貸切バス事業をしていて、それぞれ別の事業を、独立して営んでいました。
したがって、国税不服審判所は、「100%子会社といえども、利息を取らないことについて、合理的な理由とは言えない」と判断しました。
結局、子会社のお金は、親会社のお金という訳ではないのです。

1 以上のように、本件交付金の利息相当額を、損金不算入に規定にしたがって益金に算入するのですが、具体的にいくら算入するべきなのでしょうか。
今回の実例のように、当事者間で利息額の合意が無い場合に、「本件交付金の利息相当額」をどうやって算出するのか、が問題となります。

2 この点、X社が、第三者からお金を借りてきて、それをY社に貸し付けていた、という場合には、X社が第三者から借り入れをした際の利息が、X社のY社に対する利息に相当すると考えられます。
しかし、今回の実例では、このような分かりやすい事情はありませんでした。

3 端的にいえば、この相当な利息を認定する上での明確な基準や規定は、ありません。
というのも、借り入れる会社の規模や経済的信用状況、これまでの取引実績、借り入れる金額や、返済期間など多数の要素を総合的に考慮しなければ、正確な「本件交付金の利息相当額」を算出することができないからです。

4 そこで、実際には、借主である法人が、第三者である金融機関から融資を受けている場合には、その融資における利息が、「相当の利息」と認定されるケースが多いといえます。
また、世間一般の市中金利の動向も、「相当の利息」の額の判断に影響します。
結局は、借主である法人が金融機関から受けている融資の利息の額や、市中金利の動向を総合考慮して、「相当な利息」の額を決定することになります。

5 今回の実例でいえば、借主であるY社は、複数の金融機関から融資を受けていましたが、その利息の平均額が、「本件交付金の利息相当額」と認定されました。
このように認定しても、この利息の平均額が、当時の市中金利の平均額より低かったので、X社にとって特段の不利益は無いと判断されました。
結局のところ、Y社が金融機関から受けている融資の利息の平均額が、「本件交付金の利息相当額」となり、この利率に基づいて算出された金額が、寄附金に当たるので、寄附金不算入の規定にしたがって、X社の益金に算入されたのです。

特に、同族会社での親子会社の場合、資金のやり取りがあいまいとなり、混同しやすくなります。
しかし、100%子会社であっても、別個独立した法人であり、子会社との取引も商取引にあたるので、お金を貸し付けるのであれば、利息を取るというのが、国税不服審判所の基本スタンスです
利息を取らない場合、その利息相当額が、寄附金と認定され、ダメージがブーメランとして、自社に返ってくることになるので、注意が必要と言えます。

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