会社の金は社長の金?

1 特に中小企業のオーナー社長の方にとっては、耳が痛い話かもしれませんが、会社の資金と、代表者個人のお金は別物であり、きちんと区別して管理しなければなりません。
いくら、会社の代表者といえども、会社の資金を勝手に使うことはできません(勝手に使うと、適式な手続きを経ていない役員賞与と認定され、損金に算入されず、複雑な問題が発生します)。

2 そこで、会社代表者が、本来の役員報酬以外に会社のお金を使うために、会社が代表者にお金を貸し付ける(代表者貸付)という形態をとることがあります。

3 この点、いくら代表者といえども、会社からお金を借りるわけですから、応分の利息を支払う必要があります(会社が利息を取らないと、認定賞与の問題になります)。
具体的な利率については、会社の規模や、代表者に貸し付ける金額などによってケースバイケースですが、市中金利を考慮して、同程度の利率を設定することが多いと思われます。

1 会社が、代表者にお金を貸しつけた場合、このように応分の利息をつける必要があります。
そして、法人税基本通達(以下「本件通達」といいます)2-1-24では、「貸付金から生じる利子の額は、その利子の計算期間の経過に応じ、その事業年度の益金に算入する」と定められています。

2 つまり、年利で代表者貸付をしている場合には、その年間に発生した利息の額を、たとえ代表者が実際に支払っていなくても、その事業年度の会社の益金に算入する必要があるのです。 

1 もっとも、法人の有する貸付金については、例外として、以下の場合には、利息を、その事業年度の益金に算入しなくても良いとされています(本件通達2-1-25)。
債務者が債務超過に陥っていたり、その他相当の理由があったりして、法人が支払いの督促をしたのに、貸付金の利子の額のうち、その事業年度終了の日の原則6か月前以内に支払期日が来たものの全額が、その事業年度終了時点で未収となり、かつ、直近6か月以内に、それ以前の利子についても支払いが無い場合(またはほんのわずかな支払しかない場合)
債務者について、債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見通しがない場合、その債務者が、天災事故、経済事情の急変等により、多大の損失を蒙った場合、その他これらに類する事由が生じたため、その貸付金の額の全部または相当部分について、その回収が危ぶまれるに至った場合

2 この例外に該当する場合には、実際に利息が支払われた時点の事業年度の益金に算入すればよいことになります。

3 上記のように、法人の貸付において、例外的に、利息を益金に算入しなくても良い場合があるのですが、この場合に該当するか否かの当てはめ・評価はケースバイケースであり、個別に判断せざるを得ません。
今回は、実例をカスタマイズして、この例外規定の当てはめについて、お話いたします。

1 X社は、パチンコホールを経営する株式会社であり、Aは、X社の代表取締役です。
またAは、X社の株式の75.75%を保有しており、残りの株式は、Aの妻など親戚が保有している同族会社でした。

2 X社は、Aに対し、多額の代表者貸付(以下「本件貸付」といいます)をしており、市中金利を考慮した相応の利息(以下「本件利息」といいます)も付していました。
X社は、本件貸付にあたり、Aとの間で金銭消費貸借契約書を作成しておらず、取締役会決議もなく、担保も取っていませんでした。X社は、Aが株式の75.75%も保有している、オーナー会社に近い経営実態でしたから、よくある話だと思われます。

3 Aが、X社から、本件貸付を受けたのは、Aの個人的な投資資金に充てるためでした。
X社としては、Aに対して、本業とは関係のない本件貸付をしたわけですから、きちんと本件利息を回収すべきですが、経営実態からして、回収することができませんでした。
X社は、本件通達2-1-24に基づき、本件利息について、その発生都度、X社の益金に算入しなければならないのに、算入していなかったので、更正処分を受けたのです。

1 今回の実例において、X社は、本件通達2-1-25で定める上記の①か②に該当し、例外として本件利息を益金に算入しなくて良いので、X社への更正処分は違法であると主張しました。

2 上記のように、本件通達2-1-25の規定が抽象的なので、本件にこの規定が適用されるかが、問題となったのです。

1 まず、①から検討いたします。

2 ①は、要するに、債務者(本件でいえばA)が、債務超過その他相当の理由があって、法人(本件でいえばX社)が支払いを督促したにもかかわらず、原則6か月以内に利息の支払いが無い場合を指します。
そして、ここにいう「債務超過その他相当の理由」とは、元本そのものが不良債権化し、債務者が利息すらも支払えないことについて、客観的にやむを得ないと認められる事情がある場合をいうと、国税不服審判所は判断しています。
つまり、①に該当するためには、そもそも債務者が債務超過等の理由で、元本が不良債権になっていることが、前提なのです。

3 そして、A個人が、債務超過に陥っているか否かを検討すると、Aは、X社からの本件貸付以外に、めぼしい債務を負っていませんでした。
他方、Aは、有価証券や不動産を保有しており、その評価額を一番低い基準で算出しても、本件貸付金額を上回っていました。
つまり、Aは、債務超過の状況ではなかったということになります。

4 次に、「相当の理由」があるか否かについて、検討することになります。
債務者の資産が不動産ばかりで、帳簿上の価格としては相応の評価がなされ、債務超過にならないとしても、処分して現金化できないので、債務の支払い原資に充てられない、というような場合には、「相当の理由」があるといえると思います。
しかし、今回の実例において、Aは、取引市場で簡単に現金化できる上場株や、換価価値の高い不動産を保有しており、本件貸付の回収可能性は十分にありました。

5 また、Aは、X社から、相当高額の役員報酬を得ていること、以前に、A自身の保有する有価証券を現金化して本件貸付の一部返済をしたこと、X社が、Aに対して返済の督促をした形跡が無いこと、といった事情も、税務調査の結果から明らかになりました

6 以上の点を全体的に考慮すれば、本件貸付の元本が不良債権化しているとは、到底評価できません。
したがって、Aは、「債務超過」ではないし、「相当の理由」も見いだせないので、①の条件には合致しないことになります。

1 次に、②について、検討することになります。

2 まず、Aがそもそも債務超過の状態ではないことは、前述のとおりです。

3 前述したように、Aは、個人的な投資の資金に充てるために、本件貸付を受けたのですが、投資は失敗に終わり、損失となりました。
X社としては、このAの投資の損失を「多大の損失を蒙った場合」に当たり、「本件貸付金の額の全部または相当部分について、その回収が危ぶまれるに至った場合」と言えるので、②の条件に合致する、と主張しました。

4 この点、②の条件に合致するか否かについても、貸付金の元本が不良債権化するか否かを基準に判断するという見解を、国税不服審判所は示しました。

5 今回の実例についてみると、確かに、本件貸付の金額が、A個人の投資の損失として消滅したのかもしれません。
しかし、前述のように、Aは、取引市場で簡単に現金化できる上場株や、換価価値の高い不動産を保有しており、本件貸付の回収可能性は十分にありました。

6 また、前述のように、AがX社から相当高額の役員報酬を得ていること、以前にA自身の保有する有価証券を現金化して本件貸付の一部返済をしたこと、X社が、Aに対して返済の督促をした形跡が無いこと、といった事情も考慮されます。

7 このような点から、Aが、投資の失敗により本件貸付の金額に相当するような損失を出したとしても、「貸付金の額の全部または相当部分について、その回収が危ぶまれるに至った場合」とまでは評価できず、②の条件にも合致しないと判断されたのです。

1 以上のとおり、例外条件の①及び②に該当しない以上、X社としては、本件利息を、発生する都度、その時点の事業年度の益金に算入する必要があったので、X社に対する更正処分は適法と判断されました。

2 なお、今回の実例において、X社は、「A自身の可処分所得から返済に充てられる金額はごくわずかであり、可処分所得を基準にすれば、利息すらも払えない状況にあることが客観的に明らかなので、本件通達の例外条件に合致する」という主張をしました。
しかし、国税不服審判所は、「本件通達の例外条件に合致するか否かは、可処分所得ではなく、債務者の全体の財産・負債の内容を総合的に考慮して、支払い能力の有無を判断する」という見解を示し、X社の主張を否定しました。

3 この点、いざ本番の債権回収になった場合、可処分所得は関係なく、債務者の全体の財産が対象になるのが原則です。
したがって、債務者の所有する全財産を対象にして、貸付金元本が不良債権化しているか否かを判断することは、理に適っていると思います。

1 今回の実例では、X社に対し更正処分とともに、過少申告加算税の賦課決定がなされましたので、最後に付言します。

2 国税通則法65条1項により、本来の納税額よりも少なく納税した場合(過少申告)、本来の納税額に加え、その原則10%をプラスして納税しなければなりません。

3 ご注意いただきたいのは、過少申告だったという客観的事実があれば、それだけで、過少申告加算税が課せられます。
「制度を知らなかった」とか、「誤解していた」というような主観的要素は、弁明として通用しない、というのが国税不服審判所の判断です。

4 このように、結果論だったとしても過少申告となってしまった場合、過少申告加算税を覚悟しなければなりません。
その意味で、申告の際には、都合の悪いことも含めてすべて税理士先生に説明し、慎重に検討・算出していただくことが、重要と言えます。

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