形式的な法律関係と実態課税

1 民事法と税法で解釈が異なるという例は、これまでこのブログにおいてもご紹介してきました。

2 今回は、形式上は異なる法律関係ですが、経済的・実質的にみて、実態課税の原則から課税されたという例を、実例をカスタマイズしてお話いたします。

3 なお、この例では、外国法人が複数出てきます。
以前にもお話ししましたが、複雑な事案の場合、時系列表を作成して、事実関係を一つ一つ分解していくと、理解が深まります。
前後関係や、当事者の地位(売主か買主かなど)といった重要な要素を誤解すると、とんでもない考え違いをすることがあるので、留意致しましょう。

1 X社は、貸金業等を事業とする株式会社であり、日本の会社です。
Y社は、香港で設立された会社であり、その発行済み株式総数1,900,000株のうち、X社が1,899,999株を保有していました(残り1株は、X社の代表取締役の夫Aが保有していました)。
Z社は、いわゆるタックスヘイブン地であるイギリス領ヴァージン諸島に、会社所得税が免除される国際事業会社として設立され、Aが唯一の役員でした。

2 Y社は、発行可能株式総数を、1,900,000株から、19,000,000株に変更した上で、発行済み株式と同じ内容の新規の株式17,100,000株を、1株当たり1香港ドルで追加発行しました。
そして、Y社は、新規に発行した株式17,100,000株全部を、17,100,000香港ドルでZ社に割り当て、Z社はこれを引き受けて、Y社に17,100,000香港ドルを払い込みました(以下「本件増資」といいます)。

3 X社は、本件増資から約2か月後に、Y社の株式を、代金98,999,095円で売却しました。

Y社が本件増資をした結果について、見てみます。

1 本件増資前は、Y社の発行済み株式総数が1,900,000株でしたが、本件増資後は、19,000,000株になりました。
X社のY社に対する持ち株比率は、本件増資前は約99.99%(1,899,999株÷1,900,000株)でしたが、本件増資後は、約9.99%(1,899,999株÷19,000,000株)になりました。

2 本件増資が、適正な株価算定に基づいてなされていれば、X社に財産上の損失は無いと言えます。
つまり、発行済み株式の数が増えても、その適正価額に見合った財産がY社に払い込まれたのであれば、X社の保有するY社の株式の財産的価値は、維持されるからです。

3 しかし、本件増資においては、Y社の1株式につき、適正価額を大幅に下回る1香港ドルで割り当てられました。
これにより、発行済み株式総数は格段に増えるのに、それに見合う適正価額の財産がY社に払い込まれないので、X社の保有するY社の株式の価値は、著しく下落し、損失となりました。
その一方で、Z社は、本件増資により、1株1香港ドルという格安の価格でY社の株式を取得できるので、利益となりました。
そして、X社の損失と、Z社の利益は、いずれも本件増資を原因としており、因果関係があります。

1 この点について、税務当局が問題視しました。
本件においては、X社に損失が発生し、それがそのままZ社の利益になっています。
実態に即していえば、X社の資産が、本件増資を通じて、実質的にZ社に移転したと考えることができます。

2 法人税法22条2項では、事業年度の益金の額に算入するものとして、「資産の有償又は無償による譲渡の収益の額」を規定しています。
そして、本件がこの条項の適用を受けるので、益金算入が必要であると、税務当局は指摘したのです。

3 具体的な数字を当てはめると理解しやすいと思われますので、当てはめてみます。
(1) 本件において、X社が保有していたY社の株式は、1,899,999株でした。
(2) 本件増資前(発行済み株式総数が1,900,000株の時点)において、Y社の株式を純資産価額方式で算定した場合、1,899,999株について、53,583,818香港ドルと評価されていました。
(3) しかし、本件増資後(発行済み株式総数が19,000,000株となった後の時点)において、Y社の株式を同様の方法で価格算定したところ、1,899,999株について、7,068,380香港ドルと評価されました。
(4) つまり、本件増資により、その差額の46,515,438香港ドル(当時のレートで669,822,307円)が、X社からZ社に移転した、と考えることができるのです。

4 そこで、税務署長側は、46,515,438香港ドルを益金の額に算入するという更正処分をしました。

1 本件の実例においてX社側が実際に主張した点でもありますが、本件において、X社とZ社との間では、直接の取引行為がなされておらず、法的な債権債務関係はありません。
また、本件増資をしたのはY社であり、X社自体としては、特段の法律行為をしていません。
したがって、X社が「資産の譲渡」をしたわけではないので、益金の額に算入する必要が無いようにも見えます。

2 しかし、税法は、実態課税の原則を重視します。実態として、本件増資により、その差額の46,515,438香港ドル(当時のレートで669,822,307円)が、X社からZ社に移転したと評価できるのであれば、「資産の譲渡」に当たるとして、益金の額に算入すると、国税不服審判所は判断したのです。

3 本件において、Y社は、X社の香港における子会社であり、本件増資前は約99.99%の持ち株割合でした。
そして、Y社の役員は、Aやその親戚でした(X社の関係者が本件増資を決定したのです)。
その上、Z社は、Aが出資して設立した国際事業会社であり、Aが唯一の役員でした。
このように、本件は、実質的にX社の内部的なやり取りであり、全体にわたってX社がコントロールできる状況だったといえます。

4 したがって、直接の取引行為は無いとしても、実態としては、X社の資産である46,515,438香港ドル(当時のレートで669,822,307円)が、Z社に譲渡されたと評価できるので、やはり、この額を益金の額に算入するという結論になるのです。

1 なお、X社から見れば、46,515,438香港ドルもの資産がZ社に譲渡されたのに、Z社から対価を得ていないことになります。
これは、X社がZ社に寄附したものと考えられます。

2 寄附金を損金に算入する点については、法人税法37条で規定されていますが、その規定で認められる損金算入限度額を超える部分については、X社の損金の額に算入できないことになります。

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