特別法と税法の関係

1 不動産事業では、当事者間の民事上の契約に基づいて、法律関係や損益が発生する場合だけではありません。
行政手続きに基づいて、不動産の収用が行われ、損益が発生する場合もあります。

2 ここでは、都市再開発法に基づいて不動産が収用された実例をカスタマイズして、お話いたします。

1 X社は、Y地区において、土地と建物を所有していました(以下「本件土地」と「本件建物」といいます)
Y地区市街地再開発組合(以下「本件再開発組合」といいます)は、都市再開発法11条1項に基づいて県知事から認可された組合です。

2 本件再開発組合が、再開発の計画を進める上で、本件土地及び本件建物を、X社から取得する必要があり、これらが権利変換の対象となりました。

3 都市再開発法71条1項では、権利変換の対象になった土地、建物について、交換ではなく、買い取りを申請したり、対象外のエリアへの移転を申請したりすることができると規定されています。
X社は、この法律に基づいて、平成18年6月27日に、本件土地については本件再開発組合に買い取ってもらい、本件建物については、対象外のエリアへの移転をしてもらうという申し出をしました。

4 本件において重要なのは、本件再開発組合がX社に対して支払うべきお金には、2種類あるということです。
つまり、本件再開発組合は、X社から本件土地を買い取るわけですから、X社に対して本件土地の代金を補償金として支払う必要があります(都市再計画法91条。以下「本件土地補償金」といいます)。
また、本件建物については、対象外のエリアへの移転となるので、本件再開発組合は、X社に対し、移転に伴う引っ越し費用や休業等による逸失利益等の損失に対する適正な補償もする必要があります(都市再開発法97条1項。以下「本件移転補償金」といいます)。

1 本件再開発組合は、県知事の認可を受けた上で、平成19年4月3日に、X社に対し、本件土地補償金について、以下の通り、権利変換処分の通知をしました。
① 権利変換日が、平成19年4月●日であること
② この権利変換日の時点で、X社の本件土地所有権が失われること
③ 本件土地補償金が●●円であること

2 本件再開発組合は、都市再開発法91条に基づいて、権利変換日である平成19年4月●日までに、X社に対して、本件土地補償金を支払う必要がありました。
しかし、本件土地に根抵当権が設定されていたことから、本件再開発組合は、都市再開発法92条4項に基づき、権利変換日である平成19年4月●日に、本件土地補償金を、法務局に供託しました。

3 本件再開発組合は、X社に対し、平成19年4月25日付で、都市再開発法96条1項に基づき、同年5月31日までに本件土地及び本件建物を明け渡すよう求める明渡処分の通知をしました。

4 前述のように、本件再開発組合は、X社に対し、本件移転補償金を支払う必要がありますが、その具体的な金額について、まずX社との協議なされました(都市再開発法97条2項)。
しかし、この協議で合意できなかったので、都市再開発法97条3項で定める手続きを経て、本件移転補償金が●●円と決定されました。
本件再開発組合は、平成19年6月21日付で、X社に対し、決定された本件移転補償金を支払うので、同月30日までに受領方法を回答するよう、通知しました。
そして、X社が、回答期限までに、本件移転補償金の受領方法を回答しなかったので、平成19年8月2日に、本件移転補償金を法務局に供託しました。

5 X社は、本件再開発組合が行った本件権利変換処分と、本件明渡処分に不服があるとして、平成19年5月29日に、県知事に対し、それらの取消を求める審査請求をしていました。
そして、この県知事に対する審査請求を棄却する裁決がなされたので、X社は、平成19年12月25日に、国土交通大臣に対して、再審査請求をしました。

6 この国土交通大臣に対する再審査請求が行われている過程で、X社と本件再開発組合は、平成20年1月28日に、以下の通り和解をしました(以下「本和解」といいます)。
その内容は、以下の通りです。
① X社は、本件再開発組合に対して、本件建物を解体して、本件土地を明け渡す義務があることを確認する。
(実際には、X社が下記和解金と解体費用を相殺したので、本件再開発組合の費用負担で、本件建物が解体されました)
② 本件再開発組合は、X社に対し、平成20年3月31まで、本件土地の明け渡しを猶予する。
③ 本件再開発組合は、X社に対し、本件土地補償金及び本件移転補償金にプラスして、和解金●●円を支払うこととし、X社が②の期限までにX社が本件土地を明け渡すのと引き換えに、支払う。
(上記の通り、この和解金と本件建物解体費用が相殺されました)
④ X社は、国土交通大臣に対する再審査請求を取り下げる。

7 X社は、本件和解を受けて、平成20年1月30日に、法務局に供託された本件移転補償金の還付を受けました。また、X社は、平成20年2月12日に、法務局に供託されていた本件土地補償金の還付を受けました。
なお、X社は、本件和解にしたがって、平成20年3月31日までに、本件再開発組合に対して、本件土地を明け渡しました。

1 上記のような事件の内容を一読して、それ以上読む意欲を失った人もいるかもしれません。実際の実例はもっと複雑であり、それを私がカスタマイズしてシンプルにしたのですが、それでも面倒くさいという印象は、否めないと思います。

2 本件が、面倒くさいという印象を与えるのは、事実関係が複雑というだけでなく、都市再開発法という行政法規が適用されているからという理由もあると思います。
私は、複雑な事案を検討する際には、時系列表を作成するようにしています。
複雑な事案であるといっても、一つ一つの事実を分解して、それを時系列表に当てはめていけば、事案が把握しやすいですし、一つ一つの事実を分解して時系列表に当てはめることを考えている最中に、良いアイデアやロジックが思いつくことも少なくありません。
また、実際の事件では、事実の前後関係によって、ロジックが大きく変動することもあるので、事実の分解と時系列表への当てはめという作業は、勘違いや論理矛盾を防ぐ効果もあると思います。

3 また、都市再開発法というようななじみの薄い行政法規については、丁寧に条文をチェックし、その条文の法的意味を精査することも重要です。
普段なじみの薄い法律を一つ一つチェックし、その法的意味を精査することは、税理士先生にとって面倒くさいことかもしれません。
その場合は、ぜひ弁護士との協同をご検討いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

1 繰り返しこのブログでも述べている通り、「収益」は、その実現があった時、つまり、その利益を取得する権利が確定した時点での事業年度の益金に算入されます。

2 本件の都市再開発法でいえば、本件土地については、権利変換期日に、本件土地の所有権が失われ、かつ、権利変換期日までに本件土地補償金を支払う必要があります。
つまり、本件土地所有者であるX社からみれば、権利変換期日の時点で、本件土地補償金を取得する権利が確定するので、その時点の事業年度の益金に算入することになります。

3 一方、本件移転補償金については、指定された明け渡しの期限(明渡の義務が発生する時点)までに支払う必要があります。
つまり、X社から見れば、明け渡しの期限の時点において、本件移転補償金を取得する権利が確定したと言えるので、その時点の事業年度の益金に算入することになります。

4 以上を前提にすると、本件の権利変換期日は、平成19年4月であり、明け渡し期限日は、翌5月なので、X社としては、平成19年11月期(平成18年12月1日~平成19年11月30日の事業年度)において、本件土地補償金も、本件移転補償金も、益金に算入する必要があったということになります。

1 本件で事案を複雑にしている要因は、X社が、本件再開発組合の処分に対して、審査請求と不服審査請求をしており、かつ、再審査請求手続きの際に成立した、X社と本件再開発組合の本和解により、内容が変更されているという点です。
つまり、前述のように、X社と本件再開発組合は、平成20年1月28日に本和解を成立させました。
本和解によれば、本件土地の明け渡し期限が、平成20年3月31日に変更されています。
そして、実際にX社は、本和解を受けて、供託されていた本件移転補償金について平成20年1月30日に、同じく供託されていた本件土地補償金について平成20年2月12日に、それぞれ還付を受けています。

2 X社としては、本件再開発組合との本和解により、本件土地の明渡期限が、平成20年3月31日に変更されたこと、実際に本件土地を明け渡したのも、平成20年3月31日だったこと、及び、実際に供託された補償金の還付を受けたのが平成20年1月30日と翌2月12日だったことを理由に、平成20年11月期(平成19年12月1日~平成20年11月30日の事業年度)において、本件土地補償金及び本件移転補償金を、益金に算入していました。

3 しかし、国税不服審判所は、このX社の経理処理について、誤りであると判断しました。
その理由について以下ご説明しますが、税法だけでなく、行政法の基本的な考え方が使われております。
税法以外の法律が絡むのが面倒くさいと思われる税理士先生は、ぜひ弁護士との協同をご検討ください。

1 そもそも、本件において、本件再開発組合がX社に対して行った本件権利変換処分は、行政処分の一種です。
行政法の基本的な考え方として、行政処分は、処分が出た時点で、最初から有効に効力を発生させます。
行政処分により不利益を受けた被処分者は、処分に不服がある場合、法律にしたがって審査請求ができます。
しかし、審査請求がなされていても、その行政処分は有効であり、効力を発生させます。審査請求が認められ、その行政処分が取り消されて初めて、その行政処分が無効になるのです(審査請求に行政処分の効力を止める機能はありません)。

2 本件において、X社は、本件権利変換処分について、審査請求、再審査請求をしていますが、その請求手続きにおいて、公的に本件権利変換処分を取り消すという判断がなされていない以上、本件権利変換処分は、法的に有効のままです。
本件権利変換処分が、法的に有効である以上、その後X社と本件再開発組合が、再審査請求の手続き外で本和解をしたとしても、本件権利変換処分が無効になるわけではありません。
つまり、事後的に本和解が成立したとしても、遡って、法的に有効な本件権利変換処分に影響を及ぼすわけではないのです。

3 したがって、本和解が成立したとしても、それは、法的に有効な本件権利変換処分の内容に従った時点での事業年度において確定した、益金算入方法に影響しません。
よって、本和解の内容にしたがって平成20年11月期の益金に算入したX社の処理は、誤りという判断になったのです。

今回の実例では、都市再開発法という行政法規の特殊性が問題になりました。
本件のように、特別法が適用される場合には、通常の税法での考え方が修正さ
れたり、特別の検討が必要になったりするので、慎重な対応が必要です。

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