複数の契約書を使った仮装行為

1 実務上、脱税行為を発覚しにくくしたり、いざ発覚した場合の言い訳の材料にするために、表と裏の契約書を作ったり、実体のない契約書を作成して、ごまかそうとするケースも散見されます。

2 今回は、本来の税額を免れるために、他の契約を作成し、仮装行為をしたという件について、実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 X社は、自社が取得した土地(以下「本件土地」といいます)を、代金584,500,000円で、Y社に売却しました。
Y社は、本件土地上に分譲マンション(以下「本件分譲マンション」といいます)を建設する計画でした。

2 このお話を紹介する前提として、土地譲渡益に対する特別課税(短期所有土地等の特別課税)という制度をご紹介します。

3 この制度は、法人が、短期所有にかかる土地等の譲渡等(所有期間が5年以下である土地の譲渡等)につき、譲渡収入から、取得価額、及びその譲渡のために直接的または間接的に必要な経費額を差し引いた額(譲渡利益金額)に対し、通常の法人税とは別に10%の税率による追加課税がされる、というものです(租税特別措置法63条)。

1 本件において、X社は、この制度でいう短期所有(所有期間が5年以下)に当たったので、本件土地売買については、特別課税がなされることになりました。

2 X社としては、本件土地の譲渡利益金額に対して特別課税がなされるので、売買金額は変更せず、少しでもこの譲渡利益金額を減額しようと考えました。
そこで、X社は、本件土地を、484,500,000円で、Y社に売却するという売買契約書を作成しました(以下「本件売買契約書1」といいます)。
また、X社は、正規の契約書も作成する必要があったことから、本件土地を、584,500,000円で、Y社に売却するという売買契約書も、同時に作成していました(以下「本件売買契約書2」といいます)

3 そして、X社とY社は、本件土地売買に合わせて、以下の内容で、本件分譲マンションの販売委託契約をしました(以下「本件販売委託契約」といいます)。
① X社が、本件分譲マンションの広告宣伝活動を企画し、実施すること
② X社が、本件分譲マンションの販売計画を立案し、実施すること
③ X社が、本件分譲マンションの購入見込み客を開拓し、購入のあっせん活動をすること
④ X社が、本件分譲マンションの購入者との契約、及びその他の手続き(引き渡しなど)に関する一切の業務を行うこと
⑤ 契約期間が、1年間であること
⑥ Y社は、X社の業務の報酬として、100,000,000円を支払うものとし、支払い時期は、本件分譲マンションの建築確認取得時とすること

4 要は、X社としては、本件販売委託契約書を作成することによって、本件土地の売買代金のうち、100,000,000円は、本件販売委託契約に基づく報酬として受け取ったという外観を作ったのです。
X社としては、Y社から合計で584,500,000円を受領したのですが、そのうち100,000,000円を業務委託の報酬として受け取ったことにして、本件土地の譲渡代金を484,500,000円としたのです。
X社は、これにより、短期所有土地の特別課税の対象となる土地譲渡益を減額して申告したのです。

1 当然のことながら、このような不正行為について、税務署が黙っているわけがありません。土地売買代金を小分けにして、別の項目で取得すれば、土地譲渡益から除外できるとすると、短期所有土地の特別課税制度が骨抜きになってしまいます。

2 この実例においては、やはり、X社から、本件販売委託契約書を根拠に、「100,000,000円は、販売委託の報酬として受領したのであって、本件土地の譲渡代金は、484,500,000円である」という主張が出ました。

3 税務署側は、徹底した税務調査を実施し、X社の矛盾点を暴き、更正処分をしたのです。
以下、その税務署のロジックについて、ご説明します。

1 X社の主張通り、100,000,000円もの報酬を得て、Y社と本件販売委託契約をしたのであれば、そのような高額な報酬に見合う業務をX社が実際に行っているはずです。
しかし、税務調査の結果、X社が、本件販売委託契約の内容である上記①~④の業務を実際に行っていた形跡が認められませんでした。
X社として、本当に本件販売委託契約に基づく業務を行っていたのであれば、簡単にその実績の一部くらいは、税務調査で開示・説明できたはずです。それができなかったということから、やはり、X社が本件販売委託契約に基づく業務をしていなかったと判断されるのです。

2 本件販売委託契約では、上記の通り、契約期間が1年と規定されていましたが、実際に本件分譲マンションの建築確認が下りたのが4年後であり、その後も販売業務は、継続していました。
そうであれば、X社とY社の本件販売委託契約の期間も、それに合わせて更新または延長がなされていなければなりません。
しかし、本件販売委託契約の期間が更新・延長された形跡が認められませんでした。
この点も、本件販売委託契約が実体のない架空のものであると判断された一つの理由です。

3 本件販売委託契約によれば、X社は、本件分譲マンションの建築確認が下りた時点で、100,000,000円の報酬を取得することになっていました。
しかし、実際には、この建築確認が下りる4年も前に、X社がY社から100,000,000円を受領しており、実際にX社がこのお金を使っていたという事実も、税務調査の結果判明しました。
この点も、本件販売委託契約が架空のものであることを認定する一つの理由となりました。

4 税務調査では、納税義務者と取引関係にある会社なども調査の対象になります。一般的に「反面調査」と言われる調査であり、国税通則法で規定されています。
実務上、納税義務者本人に対する調査だけでは、申告された事実が把握できない場合には、納税義務者を通さないで、直接、取引先や金融機関などに反面調査することができます。
もっとも、反面調査は、納税者の信用を損なう危険があるので、慎重に行われますし、調査対象者に対し、反面調査であることを明示した上で実施するという運用になっています。
今回の実例においては、Y社に対して反面調査が行われました。
その結果、Y社から、売買代金を584,500,000円と定めた本件売買契約書2が税務署側に提供されて、X社は大ピンチに立たされました。
また、Y社の代表取締役が、この反面調査において、①X社に依頼されて、2種類の売買契約書と本件販売委託契約書を作成したこと、②Y社が、X社に対して、本件分譲マンションの販売についての業務を委託した事実はないこと、③Y社としては、本件土地の売買代金が584,500,000円であると認識しており、本件販売委託契約の報酬として100,000,000円をX社に支払った認識はないこと、という説明をして、X社としては万事休すとなりました。

5 以上のような事情がそろえば、X社としても観念せざるを得ないでしょうし、いくら腕の良い弁護士に依頼しても、逆転勝ちは無理と考えられます。

1 この実例においては、X社に対し、重加算税が課せられました(重加算税については、リベートの益金算入時期と重加算税をご覧下さい)。

2 売買価格を変えて本件土地の売買契約書を2パターン用意したり、架空の本件販売委託契約書を作成して、100,000,000円もの土地譲渡益を除外したりしたわけですから、素晴らしく立派な「仮装」「隠ぺい」であり、重加算税の対象になっても、文句が言えないと考えられます。

1 本件は、稚拙と言えば稚拙ですが、架空の書面を作成して、それを手段として譲渡益を除外しようとした例をご紹介しました。

2 率直に言って、ここまでネタバレしていると、弁護士としても弁護のやりようがないと思われます。
たまに、「亡くなった人を蘇らせてくれ」というような無茶な依頼をする人もいます。弁護士は、あくまで民間事業者であり法律に詳しいというだけですが、あまりの無茶ぶりに言葉を失うこともあります。
負け筋の事件をソフトランディングさせる技術も必要ですが、無茶な要求をする依頼者に、気分を害さずにお引き取り頂くよう促す技術が、弁護士には必要なのだなと思う、今日この頃です。

投稿記事一覧へ