立証責任の原則とその例外

一 実例をもとにお話しさせていただきます。

二 前提事実

1 X社は、建設会社です。

2 X社は、外注先に支払った建設工事の外注費を、工事の支払対価であるとして損金額に算入して、法人税額を算出し、確定申告をしました。
また、X社は、この外注先に支払った外注費を、課税仕入れに係る支払対価の額に算入して、消費税及び地方消費税(以下単純に「消費税」といいます)額を算出して、確定申告しました。

3 税務署は、このX社の外注先への支出について、「寄附金」に該当すると指摘しました。
その上で、税務署は、X社の支出について、「建設工事に関する支払対価に仮装した」と認定して、更正処分と、重加算税の賦課決定処分をしました。

三 問題点

1 X社の支出が、「寄附金」なのか、「支払対価のある損金」なのか。

2 「支払対価があること」を、誰が立証するべきなのか。

四 コメント

1 そもそも、「寄附金」(法人税法37条7項)は、法人が直接的な対価を伴わないでした支出全般を言うので、名義のいかんや業務との関連性は問われません。
支出した金額に見合う対価的バランスが取れているのか否かが、判断基準になります。

2 本件においては、建設会社の支出が問題となっています。
建設会社が支出したお金が、工事の対価に当たると評価されるためには、当該工事全体のどこかに、その支出金によって施工された工事部分が無ければなりません。
建設会社が工事の外注費用として支出したお金が、全体の工事のどこにも使われていないというのであれば、建設会社の支出と工事に支払対価があるとは言えません。

3 「寄附金」と認定された場合には、その額を損金に含めて法人税額を算出してはなりません。
また、「寄附金」の場合、課税仕入れに係る支払対価の額に算入して消費税額を算出してはなりません。
この意味で、X社の支出が、「寄附金」なのか、「支払対価のある損金」なのかは、結論を決定づける極めて重要な争点です。

4 ここでの前提として、そもそも、税務係争において、誰が立証責任を負うのか、という点が、問題となります。
この点については明確な判例(最高裁昭和38年3月3日判決)があり、「所得の存在、及びその金額」については、行政庁(税務署等)に立証責任があります。
つまり、一般論として、納税者が確定申告した内容に対して、税務署が否認するのであれば、否認する税務署側が、その否認の主張を正当化する裏付け証拠を提出する必要があります。
言い換えれば、税務署側としては、怪しいと思ったとしても、否認する証拠が無い限り、納税者に不利益な処分ができないのが原則です。
本件でいえば、「X社の支出に支払対価があるか」という争点について立証責任を負うのは、税務署です。つまり、税務署として、X社の支出を「寄附金」と認定するのであれば、税務署側が「X社の支出に支払対価が無い」ことを立証しなければなりません。
「支払対価があるかないか不明」という場合には、税務署が立証責任を果たせなかったことになるので、「X社の支出に支払対価があった」という事実認定になるのです。
特に、会社の会計帳簿は、裁判実務において高い証拠価値があります。
つまり、一般に、会計帳簿は、会社の業務におけるお金の流れがそのまま機械的・形式的に正確に記載されるものなので、特段の事情が無い以上、会計帳簿に記載された通りの事実が認定されます。
税務署として、「会計帳簿の記載内容が事実と異なる」と主張するためには、会計帳簿の信用性を否定する「特段の事情」を立証しなければならないのです。
つまり、X社の会計帳簿において、「建設工事に関する支払対価」として本件の支出が記載されている以上、税務署としては、「特段の事情」を立証できない限り、X社の会計帳簿の記載通りの事実認定をする必要があります。

5 しかし、本件で、税務署は、X社の支出について、X社の主張を否定して、工事と支払対価の無い「寄附金」と認定しました。
なぜこのような結論になったかというと、本件において、X社が、自社の会計帳簿に記載されていた現場において工事を施工していないということが、他の証拠から証明され、結局のところX社もその事実を認めたからです。
X社の言い分としては、確かに会計帳簿に記載した現場では工事を施工していないが、他の現場の工事外注代金として支払ったものなので、やはりこのX社の支出は、「工事に関する支払対価がある」ことになる、というものでした。
前述のように、会計帳簿には、高い信用性・証拠価値があるので、本件のように納税者であるX社側が、会計帳簿の内容と異なる主張(つまり、会計帳簿に記載された現場とは別の現場で工事を外注し、その外注費として支払った、という主張)をするのであれば、①本当に別の現場で工事がきちんと行われた事実、②会計帳簿の記載内容と異なる工事が行われるに至った事情、など特段の事情を、X社側が主張・立証しなければならない、と国税不服審判所は判断したのです(X社側に立証責任があると判断しました)。
そして、X社として、このような事情を立証できなかったことから、X社の支出が、「工事と支払対価が無い」こととなり、寄附金と認定されたのです。

6 なお、この事例では、X社が会計帳簿と異なる支出をし、立証できなかった部分だけ寄附金と認定されました。
そして、それ以外の、会計帳簿の記載内容とおりの支出については、寄附金とは認定されませんでした。つまり、会計帳簿の記載に合致した支出である以上、それを否認しようとする税務署側に立証責任があるという一貫した考え方がなされたのです。
この裁決から言えるのは、会計帳簿の記載内容と、実際の支出の整合性をきちんと図ることが、自社の利益を守ることになるということです。

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