金銭債権の事実上の貸し倒れ処理

1 取引の相手方に対して金銭債権を持っていたとしても、「ない袖は振れぬ」というように、必ずしも支払われるとは限りません。
この点、金銭債権について、その債務者の資産状況や支払い能力等から、債権額の全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において、貸し倒れとして損金処理をすることができます(事実上の貸し倒れ)。

2 貸倒による損失を、「事実上の貸し倒れ」として損金に算入できるのは、債権金額の全額が回収不能となった場合に限定されています。
したがって、債権額のうち一部でも回収することができる場合には、そもそも貸倒損失を損金に算入することができません。

3 また、「事実上の貸し倒れ」は、債権額の全額が回収できないことが明らかになった事業年度において、損金処理(費用処理)をすることが、要件です。
タイムリーな処理が必要であり、事後的な調整ができないことに注意が必要です。

4 さらに、債権を担保する物がある場合、その担保権を実行して担保物を処分した後でなければ、貸し倒れとして損金処理することができません。
なぜならば、担保物を処分・換価し、それを債権に充当して初めて、回収不可能な債権額が確定するからです。

1 事実上の貸し倒れとして損金処理するためには、納税者の事業と、回収不能になった金銭債権に、関連性が必要です(事業に無関係な金銭債権について、回収不能になったと言って、損金処理することはできません)

2 不動産仲介業者Xが、Yに50,000,000円を貸し付けたが、それが回収不能になったケースをもとに、話を進めます。
ポイントは①XとYのこれまでの関係性、②XがYに50,000,000円を貸しつけた理由、です。

3 ①について、XとYが、個人的に仲が良いというだけで、Yが、これまでXの展開している不動産仲介業に関与したことが無かった、という場合には、XのYに対する貸付は、Xの事業と関連しないとして、事実上の貸し倒れとして損金処理することができません。
②について、YがXの展開している不動産仲介業に関連しない事業のための資金という目的で貸し付けたという場合には、当事者としても、これがXの事業に関連する貸付という認識が無いので、やはり事実上の貸し倒れとして損金処理できないということになります。

4 一方、例えばYが営業代行や広告代理店のような事業をしていて、今回の貸付以前からYがXの不動産仲介業のプロモーション、広告、販売活動等のコンサルティングをしていた、というような事実関係があれば、Yへの貸付が、Xの事業と関連し、事実上の貸し倒れによる損金処理ができる方向になります。
また、Yが、上記のような事業をしていて、XがYの事業資金として今回の貸付をすれば、Xの不動産仲介業のプロモーション、広告、販売活動等のコンサルティング等という分野で、50,000,000円を貸してもなおメリットがある見込みだったと評価できれば、Yへの貸付金債権は、Xの事業と関連があると評価されて、それが全額回収不能になっている以上、事実上の貸し倒れとして損金処理できると考えられます。

5 XとYがこれまでどういう付き合いをしてきたかとか、Yへ50,000,000円を貸し付けることでXの本業にメリットが出る見込みがあったのか、という点は、客観的な証拠関係や関係者の供述をもとに事実認定をして、認定事実を合理的に評価して、結論を導き出します。
このあたりの主張・立証活動は、弁護士の見せ場であり、審査請求や処分取消訴訟において重要視されるところです。

なお、上記の例は、実例をカスタマイズしたものですが、事実上の貸し倒れとして損金処理できる金額についても争われたので、以下お話いたします。

1 話を単純化すると、XがYに対して実際には50,000,000円を貸しつけたのですが、借用書には、利息も含んだ金額として、「XがYに65,000,000円を貸し付け、Yはこれを受領した」と記載されていたとします。
そして、Yに対する貸金債権が、全額回収不能となってしまいました。
この場合、Xが事実上の貸し倒れとして損金処理できるのは、借用書記載の「65,000,000円」なのか、実際に貸し付けられた「50,000,000円」なのか、という問題です。

2 この点、当事者間で、明確な利息や遅延損害金の合意が存在し、かつ、すでに期限が到来していて、当事者の合意に基づいた利息や遅延損害金の額が確定している場合には、実際に貸し付けた金額+確定的に発生した利息や遅延損害金も、事実上の貸し倒れとして損金処理できます。

3 しかし、上記の例の場合、当事者間で利息の発生時期・条件についての取り決めがなく、借用書に記載されている「65,000,000円」には、未確定の利息が含まれていることになります。
この場合、事実上の貸し倒れとして損金処理できる貸付金は、実際にXがYに貸し付けた50,000,000円にとどまることになるのです。

投稿記事一覧へ