不動産取得価額か、損金か

1 不動産会社や建設土木会社が、取得した土地について、予定されている事業目的に適うようにするために直接必要となった費用は、その土地の取得価額に算入することになり、損金として算入することはできません(法人税施行令32条1項1号)。

2 もっとも、大規模な土地開発の場合、様々な種類の費用が必要となりますが、それらの費用が、土地の取得価額に算入すべき「必要な費用」なのか、それとも、「必要な費用」に当たらないので損金に算入するのか、という判断が困難なケースがあります。

3 以下、実例をカスタマイズして、お話いたします。

1 X社は、不動産に関するコンサルタント業等を事業内容とする株式会社です。

2 Y社は、ゴルフ場の運営を事業として行いたいと考え、X社に対して、ゴルフ場の開発、造成、建築その他ゴルフ場を運営するのに必要な業務を委託しました。

3 ゴルフ場を運営するためには、まずゴルフ場用地を購入する必要があります。
X社は、順次ゴルフ場用地(以下「本件土地」といいます)を買収していきました。

4 X社は、A社に対して、地権者から開発要望書を取得する業務を委託し、その対価として、A社に対してお金を支払い(以下「本件A社への支払い」といいます)、これを「支払手数料」という科目で、X社の損金に算入しました。

5 X社は、B社に対し、本件ゴルフ場建設工事の設計申請業務を委託し、その対価として、B社に対してお金を支払い(以下「本件B社への支払い」といいます)、これを「支払手数料」という科目で、X社の損金に算入しました。

6 X社は、C社に対し、本件ゴルフ場建設に伴う環境影響調査を委託し、その対価として、C社に対してお金を支払い(以下「本件C社への支払い」といいます)、これを「支払手数料」という科目で、X社の損金に算入しました。

7 以上の各支払いについて、税務署側は、土地の取得価額に算入するべきであるとして、X社の損金算入を認めませんでした。

この問題で、もっとも重要な点は、本件土地の事業としての活用目的です。
本件において、Y社は、ゴルフ場事業をしたいと考えており、ゴルフ場の開発・運営事業に必要な一切の許認可を取得し、ゴルフ場用地を買収し、ゴルフ場全体の建設工事を行い、行政機関(県)の最終的な検査を完了させ、完成したゴルフ場をY社に引き渡すという一連の業務を、X社に委託し、X社は受託しました。
つまり、X社がY社から受託した上記業務に必要な費用は、土地の取得価額に算入することになり、損金に算入されません。
このような本件土地の活用目的・X社の受託した業務内容を基準にして、本件における各支払いが、「必要な費用」に該当するのか、を判断することになります。

1 本件A社の支払いについて、見てみます。

2 都市計画法の規定上、本件のような規模のゴルフ場の建設を目的として開発をする場合、県知事の許認可が必要になります。
そして、県知事に許認可を申請する前提として、ゴルフ場開発区域の80%以上の地権者の開発要望書が必要でした。
つまり、この開発要望書が無ければ、そもそも本件ゴルフ場開発事業が不可能でした。

3 X社としては、本件土地を、ゴルフ場として活用するために不可欠な業務である、地権者の要望書の取得をA社に委託し、本件A社への支払いをしました。
このように、本件A社への支払いは、本件土地の活用目的に照らし、必須の費用というべきなので、本件土地の取得価額に算入されることになります。
X社が、どのような趣旨として「支払手数料」という科目を立てたのかは不明ですが、本件土地の活用と無関係に、X社がA社に対して、地権者の要望書の取得を委託したわけではありません。
したがって、本件A社への支払いを、本件土地と無関係の損金として計上するには、無理があると言わざるを得ません。

1 本件B社への支払いについて、見てみます。

2 X社は、B社に対して、本件ゴルフ場建設工事の設計申請業務を委託し、その対価として、本件B社への支払いをしています。

3 前述のように、X社は、Y社から、ゴルフ場の開発・運営事業に必要な一切の許認可を取得し、ゴルフ場用地を買収し、ゴルフ場全体の建設工事を行い、行政機関(県)の最終的な検査を完了させ、完成したゴルフ場をY社に引き渡すという一連の業務を委託されました。
そして、実際にゴルフ場の建設工事の設計をしたり、それについての申請手続きをしたりすることは、本件土地のゴルフ場としての活用の根幹にかかわることといえます。

4 このように、本件B社への支払いも、本件土地の活用目的に照らし、必須の費用というべきなので、本件土地の取得価額に算入されることになります。

1 本件C社への支払いについて、見てみます。

2 本件においては、現地の県の規制により、ゴルフ場の開発には、環境アセスメント調査が義務付けられていました。
つまり、県からゴルフ場の開発行為許可を得るためには、環境アセスメント調査書が必要でした。
そこで、X社は、開発行為許可を得るために必要だったので、C社に対し、本件ゴルフ場建設に伴う環境影響調査を委託し、その対価として本件C社への支払いをしました。

3 前述したX社の受託業務の内容を考えると、本件土地をゴルフ場に開発するためには、環境影響調査が必要であり、本件C社への支払いがその調査の対価となっています。
このように、本件C社への支払いも、本件土地の活用目的に照らし、必須の費用というべきなので、本件土地の取得価額に算入されることになります。

以上のように、本件土地をゴルフ場として開発する上で必要な行為の対価か否か、という基準で判断されますので、土地の取得価額に算入される費用の範囲も比較的広範と言えます。
単に土地そのものを購入するのに必要な費用だけでなく、その土地を事業目的に適うように活用するのに必要な費用が、幅広く土地の取得価額に算入されることには、注意が必要と言えます。

投稿記事一覧へ