税法の論理性と実態課税原則のバランス

1 高齢化が進む社会のニーズに応えるべく、高齢者向けの施設運営をする会社が増えています。
高齢者といっても、意思能力のレベルや障害の程度によって大きな幅があり、そのニーズに対応する高齢者向け施設も多様化しています。

2 高齢者が、高齢者用の施設に入居したり、サービスを利用したりする場合の料金について、統一して画一的な用語が使われているわけではありません。
その結果、施設によって、料金の名称が異なることがあり、その料金が何の対価なのか、返還されるものなのか否か等についての認識の違いから、トラブルに発展することが少なくありません。

3 このブログは、税法に関するトラブルを取り上げていますので、実例をカスタマイズして、税法との関係で、高齢者が入居する施設を運営する会社にご注意いただきたい点について、お話いたします。

1 X社は、介護専用型有料老人ホームを運営する会社です。
X社の運営する施設(以下「本件施設」といいます)には、介護を必要とする高齢者が入居し、生活をしていました。

2 X社は、本件施設の入居者との間で、以下の内容の契約を取り交わしていました(以下「本件入居契約」といいます)。
① 入居者は、本件入居契約時に、X社に対し、「入居一時金」を支払う。
② 入京者は、本件施設に入居する際に、X社に対し、「入居保証金」を支払う。
③ 入居者は、本件施設に入居後、毎月末日限り翌月分の月額利用料を、X社に支払う。

3 本件入居契約においては、①の「入居一時金」について、以下の通り定められていました。
(1) 入居者の責任で本件入居契約が解除された場合、入居者が解除を申し出た場合、及び入居者が死亡した場合には、X社は、「入居一時金」を返金しなくてよい。
(2) 入居者の落ち度無く本件入居契約が終了した場合、またはX社の都合で本件入居契約を解除する場合には、X社は入居者に対し、「入居一時金」全額を返金する。

1 ここで問題となるのは、入居者がX社に支払った「入居一時金」を、どの時点の事業年度において、X社の益金に算入するのか、という点です。

2 この点、入居者がX社に支払った「入居保証金」は、文字通り保証金です。
つまり、X社としては、本件入居契約が終了した時点で、X社への債務が無ければ、全額入居者に返金する必要があります。
そして、X社としては、「入居保証金」について、いつ返金になるか分かりませんから、特定して保管しておく必要があります。
このように、保証金は、入居者からの預り金という性質であり、返金が予定されているので、X社の益金に算入されません。

3 一方、入居者が支払う「入居一時金」については、項目を形式的に見るだけでは、その性質が分かりません。
このような場合には、「入居一時金」の支払われる時期、金額、返金されるための条件などから実質的に考え、どのような性質のお金なのかを判断することになります。

1 X社は、入居者が「入居一時金」を支払った時点では、これを預り金として経理処理していました。
つまり、入居者から「入居一時金」を受け取った時点の事業年度においては、X社の益金に算入していませんでした。

2 前述のように、入居者の責任で本件入居契約が解除された場合、入居者が解除を申し出た場合、及び入居者が死亡した場合には、X社は、「入居一時金」を返金しません。
X社は、このような場合になって初めて、「入居一時金」を入居者に返金する義務が無くなり、X社として「入居一時金」を取得する権利が確定した、と考えました。
そして、X社は、このような場合になった時点の事業年度において、その都度、返還義務の無くなった「入居一時金」を益金に算入していました。

3 しかし、国税不服審判所は、このX社の益金算入方法が誤りであると判断したのです。
以下、その理由について、説明します。

1 本件のポイントの1つは、入居者が、X社に対し、「入居保証金」と「入居一時金」の両方を支払っていた、という点が挙げられます。
つまり、X社としては、入居者が月額利用料を支払わないなどした場合、その分を「入居保証金」から差し引き相殺することになります。
言い換えれば、入居者の債務の担保として「入居保証金」が支払われているので、「入居一時金」は、「入居保証金」のような担保目的で支払われたわけではないということになります。
したがって、「入居一時金」を、「入居保証金」と同様に、預り金として処理することには、無理があると言わざるを得ません。

2 本件施設の入居者は、月額の施設利用料を支払っていますが、その金額だけでは、本件施設の維持管理費用や運営費用を賄うことができませんでした。
そこで、月額の施設利用料では賄えない分の本件施設のサービスの対価として、本件入居契約の時点で前払いするのが、「入居一時金」であると評価するのが、実態に即していると判断されました。

3 このように考えると、本件入居契約の時点で、X社が「入居一時金」をもらう権利が確定しているので、本件入居契約の時点の事業年度において、「入居一時金」を益金に算入する必要があります。
X社としては、この時点では、「入居一時金」を預り金と認識していて、益金に算入していなかったので、更正処分を受けたのです。

1 本件において、X社が、審査請求をした理由は、以下の通りです。ここが、本件のもう一つの大きなポイントと言えます。

2 前述のように、本件入居契約においては、「入居者の落ち度無く本件入居契約が終了した場合、またはX社の都合で本件入居契約を解除する場合には、X社は入居者に対し、「入居一時金」全額を返金する」という取り決めになっていました。つまり、X社が「入居一時金」を受領したとしても、後日入居者に返金する可能性があるのだから、本件入居契約時に「入居一時金」を受け取ったとしても、その時点で、「入居一時金」が全額X社の収益になると確定したわけではありません。
したがって、X社は、本件入居契約時点では、返金の可能性があり、権利として確定していないと理解して、本件入居契約時点の事業年度に、「入居一時金」を益金に算入しませんでした。

3 そして、X社は、前述の通り、「入居者の責任で本件入居契約が解除された場合、入居者が解除を申し出た場合、及び入居者が死亡した場合には、X社は、「入居一時金」を返金しなくてよい」という契約規定にしたがって、返金が免除された時点で、ようやくX社の「入居一時金」をもらう権利が確定したので、その時点の事業年度において、「入居一時金」を益金に算入すれば問題が無いと主張したのです。

4 このように、返金の可能性が否定できない「入居一時金」を、いつの事業年度で益金に算入するべきだったのかが、問題となったのです。

1 この点、国税不服審判所は、X社のいう「入居者の落ち度無く本件入居契約が終了した場合、またはX社の都合で本件入居契約を解除する場合には、X社は入居者に対し、「入居一時金」全額を返金するという取り決め」が実際に適用されるのは、レアケースであり、X社が「入居一時金」を返金しなければならないリスクはあくまで抽象的なものであり、X社に差し迫った現実的な返金リスクがあるとは言えないという点を重視しました。つまり、実際問題として、「入居一時金」が返金されずX社の収益になるケースがはるかに多いことを重視したのです。
そして、このようなレアケースで抽象的なリスクがあることを理由にして、大半はX社の収益となる「入居一時金」を、長期間にわたって預り金として処理することは、相当でないと判断されたのです。

2 このような理由から、契約後の返金リスクが大変少ない以上、本件入居契約時に、X社の「入居一時金」をもらう権利が確定していると評価できるので、本件入つまり、X社が「入居一時金」を受領したとしても、後日入居者に返金する可能性があるのだから、本件入居契約時に「入居一時金」を受け取ったとしても、その時点で、「入居一時金」が全額X社の収益になると確定したわけではありません。
したがって、X社は、本件入居契約時点では、返金の可能性があり、権利として確定していないと理解して、本件入居契約時点の事業年度に、「入居一時金」を益金に算入しませんでした。

3 そして、X社は、前述の通り、「入居者の責任で本件入居契約が解除された場合、入居者が解除を申し出た場合、及び入居者が死亡した場合には、X社は、「入居一時金」を返金しなくてよい」という契約規定にしたがって、返金が免除された時点で、ようやくX社の「入居一時金」をもらう権利が確定したので、その時点の事業年度において、「入居一時金」を益金に算入すれば問題が無いと主張したのです。

4 このように、返金の可能性が否定できない「入居一時金」を、いつの事業年度で益金に算入するべきだったのかが、問題となったのです。

1 この点、国税不服審判所は、X社のいう「入居者の落ち度無く本件入居契約が終了した場合、またはX社の都合で本件入居契約を解除する場合には、X社は入居者に対し、「入居一時金」全額を返金するという取り決め」が実際に適用されるのは、レアケースであり、X社が「入居一時金」を返金しなければならないリスクはあくまで抽象的なものであり、X社に差し迫った現実的な返金リスクがあるとは言えないという点を重視しました。つまり、実際問題として、「入居一時金」が返金されずX社の収益になるケースがはるかに多いことを重視したのです。
そして、このようなレアケースで抽象的なリスクがあることを理由にして、大半はX社の収益となる「入居一時金」を、長期間にわたって預り金として処理することは、相当でないと判断されたのです。

2 このような理由から、契約後の返金リスクが大変少ない以上、本件入居契約時に、X社の「入居一時金」をもらう権利が確定していると評価できるので、本件入居契約時の事業年度において、「入居一時金」を益金に算入する必要があったと結論付けたのです。

3 また、このように考えても、X社として、上記の返金リスクが顕在化して、「入居一時金」を入居者に返金した場合には、新たな債務が発生したとして、その返金分を、返金すべき事情が発生した時点での事業年度において損金に算入されるので、トータルで考えれば、格別の不都合はない、と国税不服審判所は指摘しています。

1 私個人としては、この国税不服審判所の裁決を読んだとき、「結論ありきで、ロジックを強引に組み立てたな」という印象を持ちました。

2 確かに、大半は返金されず、X社の収益となる「入居一時金」を、長期間にわたって預り金として扱い、益金不算入とするという結論が不自然という気持ちは分かります。
しかし、法律、特に人の財産を強制的に徴収する税法の場合、「結論を先に決めて、そこに到達するためのロジックを考える」というのは、ご法度のはずです。

3 本件における国税不服審判所の判断は、「返金リスクがあるけれども、可能性として低いから、権利が確定したものと評価する」というものであり、強引というか、ロジカルでない印象を受けます。
しかも、「入居一時金」の返金事由が発生しただけであり、当事者間で新たに別の法律行為が行われたわけではないのに、「新たに債務が発生したと考えて」、その時点での事業年度において損金算入できるから問題ないでしょ、というのは、少し論理性に欠けるように思います。

4 この点が、実態課税が強く求められる税法と、一般の法律の違いとして表れているのかもしれません。
税法ならではの特徴を、ご紹介いたしました。

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