税務訴訟について

「税務訴訟」と聞くと、難しいイメージがありますが、税金に関する法律をめぐる裁判全般のことをいいます。 平成13年の税理士法改正により、税理士先生が「補佐人」として、弁護士とともに税務訴訟手続きに関与し、陳述できるようになりました。 具体的には、弁護士と税理士先生が、連名で訴状や準備書面を作成したり、裁判所で意見を述べたりすることができます。 実際の税務訴訟においては、弁護士と税理士先生がアイデアを出し合って、争点整理や主張内容の検討をします。このような背景から、税理士先生の中には、税務訴訟に関心を持つ人も少なくなく、弁護士と上手くコラボすることによって、効果的に争うことができるのです。

税務訴訟の大半は、処分取消訴訟ですので、以下、処分取消訴訟について、述べます。

1 処分取消しの訴えは、例えば、税務署長の行った更正等の課税処分の取り消しを裁判所に求める訴訟や、差押等の徴収処分の取消しを裁判所に求める訴訟などがあります。

2 源泉徴収されない所得税や法人税など申告納税方式(いわゆる「確定申告」)が取られている税金について、そもそも申告されていないとか、申告内容が間違っていることが税務調査で判明した場合、税務署長による更正処分がなされ、これによって税額が確定します。

3 この税務署長による更正処分に違法な点がある場合には、「税務署長に対する異議申し立て」や「不服審判所に対する審査請求」をすることができます。 それでも、納税者の主張が認められない場合に、裁判所に処分取消訴訟を提起することになります。

4 処分取消訴訟において、裁判所が原告である納税者の主張を認めれば、課税処分が取り消されます。 つまり、納税者としては、納税を拒否できるし、既に納税した場合には、その還付を請求できます。

5 なお、手続きの段取りとして、不服申立前置主義が取られています。 つまり、原則として、「処分庁(税務署長等)に対する異議申し立て」、及び「不服審判所に対する審査請求」という2つの手続きを事前に行い、それでも納税者の言い分が認められなかった場合にのみ、裁判所に対し処分取消訴訟を提起できるというシステムになっています。 その意味で、裁判所での処分取消訴訟の前哨戦とも言える「処分庁に対する異議申し立て」や、「不服審判所に対する審査請求」においても、弁護士と税理士先生が協同して、説得的な不服申し立ての主張をすることが、重要と言えます。 実務上も、「異議申し立て」や「審査請求」において解決でき、処分取消訴訟まで至らないという案件も、少なくないのです。

6 訴訟実務においては、どこの裁判所で裁判をすることになるのか、つまり裁判管轄も問題となります。裁判においても、WEB会議等が普及していますし、尋問等のために直接裁判所に出向くことは、一般の民事事件に比べて少ないと言えますが、争うコストパフォーマンスを考えるうえで無視できない点だと思います。 この点、処分取消訴訟は、処分した行政庁の所在地を管轄する裁判所に提訴することになります。例えば、税務署長による課税処分の取消訴訟は、その税務署の所在地を管轄する裁判所に提起することになります。 なお、国税に関する訴訟の場合、国が被告になるので、常に東京地方裁判所には管轄があることになります。 つまり、自分が原告になって、処分取消訴訟を提起しようとする納税者は、実際に処分した行政庁の所在地の管轄裁判所か、東京地方裁判所かを選択して、訴えを提起できるのです。

1 処分取消訴訟において、原告である納税者は、裁判所に対し、訴状や準備書面において、自分の主張を述べることができます。 もっとも、処分取消訴訟で争う上で重要なことは、争点についての主張・説明責任が誰にあるか、ということです。

2 この点は、複雑な訴訟構造の話になるので、結論だけ述べます。 結論としては、被告である行政庁が、自分が行った課税処分が、各種税法の要件を満たしているし、処分する手続きの過程にも違法な点が無かった、ということを、主張し説明しなければなりません。 行政庁として、これらの点について、論理的・合理的な主張や説明ができなければ、原告である納税者の処分取消の請求が認められるのです。 つまり、原告である納税者としては、自分の主張が合理的であることを主張したり説明したりする必要はありません。被告である行政庁が、処分取消訴訟手続きにおいて、自分がなした課税処分の理由や、その手続きに違法な点が無かったことを説明するのに対し、「その説明が不自然で不合理だ」と反論できれば、納税者の勝ちとなるのです。

3 考えてみれば、行政庁が強制的に税金を徴収するわけですから、その課税処分が法律の要件を満たしていて、かつ、適法に徴収手続きをしていることを、合理的に主張・説明すべきというのは、当然だと考えられます。 処分取消訴訟と言っても、意外にハードルが高くないという印象を持っていただければと思います。

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