仕入金額が寄附金になる場合

1 法人税法37条1項では、寄附金の損金不算入が規定されています。
そして、法人税法37条7項では、「寄附金、拠出金、見舞金その他名目を問わず、金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与または無償の供与」が、損金不算入となる寄附金に当たるとしています。
また、法人税法37条8項では、「法人が、資産の譲渡または経済的利益を供与した場合において、その対価の額が、その時点の合理的な相場価格より低いときは、その相場価格と実際の対価の差額が、寄附金に当たる」として、損金算入されません。
そして、資産を譲り受ける際に、その時点の合理的な相場価格よりも不相当に高い対価を支払った場合、適正相場価格と実際に支払った額の差額が、買主の売主に対する寄附金に当たるので、買主としては、支払った金額全額を損金に算入できるわけではありません。

2 この法人税法の条文が適用されるか否かは、微妙な判断になるケースもあります。
長年良好な取引を続けてくれたお得先には、相場よりも安く販売するということもあります。
その場合に、長年の取引のお礼として割引した金額が、法人税法37条8項により寄附金に当たり、損金算入できないというのは、不合理と言えます。
そもそも、「その時点の合理的な相場価格」というのが、客観的で明確な基準ではないので、ケースバイケースで判断するほかないと言えます。

3 以下、この点が争われた実例をカスタマイズして、お話いたします。

1 X社は、物販業を営む株式会社であり、AはX社の取締役です。
Y社は、X社に対して、商品を卸している会社です。Y社では、BがX社の担当をしていましたが、AとBはいとこ関係にありました。

2 X社においては、C営業部長が、Y社からの仕入れを担当しており、仕入れ価格の交渉もしていました。

3 X社は、C営業部長がY社から仕入れた金額全額を、損金に計上していました。
それに対して、税務署長側が、X社がY社に支払った金額の一部を寄附金と認定して、損金算入を否認する更正処分をしたことから、バトルが始まりました。

1 税務署長側は、X社とY社の取引価格は、いわゆる「親戚価格」であると指摘しました。
つまり、AとBが親戚関係にあるから、B(ひいては勤務先のY社)に利益を与えるために、X社として、本来の適正相場よりも高い値段でY社から商品を仕入れていたから、その不当に高く購入した部分は寄附金に当たり、X社の損金に算入できないという指摘をしたのです。

2 公表されている国税不服審判所の裁決を見ても、X社がY社から仕入れていた具体的な商品の内容は明らかになっていません。
もっとも、明確な単価が確立していて、誰が仕入れを担当しても一律の料金が査定される商品ではありませんでした。
そして、その商品の仕入れ価格を決めるうえでは、X社において査定し、それを基にY社側と価格交渉をする必要がありました。
X社が仕入れた商品については、一般的な査定方法として、低い価格となる傾向のある基準(以下「甲基準」といいます)と、より高い価格となる傾向のある基準(以下「乙基準」がありました。

3 X社は、物販業を事業とする会社ですから、より安く仕入れた商品を、より高く販売し、差額の利益の拡大を目指すのが通常です。
そうであれば、X社としては、甲基準に基づいて、Y社からの仕入商品を査定し、仕入れ価格を交渉するのが道理です。
にもかかわらず、本件において、X社は、乙基準に基づいて、高値でY社からの商品を仕入れていました。

4 税務当局は、この点に目を付けました。
つまり、X社が、甲基準ではなく、あえて乙基準に基づいて高値でY社から商品を仕入れていたのは、やはりAとBの親戚関係が理由であり、仕入れ価格と甲基準による査定価格の差額は、Y社に対する寄附金に当たるとして、その分の損金算入を否認したのです。

1 しかし、国税不服審判所は、この税務当局のロジックは不適切と判断して、上記の更正処分を取り消しました。
以下、その理由について、ご紹介します。

2 そもそも、AとBがいとこ同士であるからと言って、X社とY社という会社間の取引が、いわゆる「親戚価格」で行われていると考えるのは、偏見に基づくロジックの組み立てであり、法律の分野では許されないことと言えます。
本件において、X社でY社からの仕入れを担当し、価格交渉もしていたのは、C営業部長でした(BとCは、何ら親戚関係はありません)。
そして、CがY社からの仕入れ業務や価格交渉業務をする上で、AがCに指示をしたり、Cの業務に介入したりすることはありませんでした。
したがって、税務署長側の「親戚価格」という前提は、誤りだったと言わざるを得ません。

3 確かに、物販業を営むX社としては、甲基準に基づいて、仕入商品を安く査定し、安く仕入れたいと考えるのが通常です。
しかし、実際の商品の仕入れ価格は、その時点の商品の需給関係、これまでの取引の期間や内容、バーゲニングポジションなどによって変動します。その時点で、その商品の需要が高く、他社と争奪戦になっているというような場合などには、高い基準で商品を査定し、高値で商品を仕入れるということも、あながち不合理とは言えません。

4 X社が、商品を仕入れるうえで、他の仕入先から仕入れる際には安い甲基準により仕入れ価格を決定し、Y社からだけは、高い乙基準により高値で商品を仕入れていた、というのであれば、Y社からの仕入れが「親戚価格」と指摘されてもやむを得ないかもしれません。
しかし、本件において、C営業部長は、Y社だけでなく、それ以外の仕入れ先との取引において、乙基準によって高値で仕入れることもありました。
つまり、Y社を特別扱いしていなかったということです。

5 公表されている裁決では具体的な内容は明らかではありませんが、本件商品は、その品質に多少の差があり、仕入れを担当するC営業部長が目視で商品を確認したうえで査定して、仕入れ価格の交渉をしていました(目視以外、商品の品質を確認する現実的な方法が無かったとのことです)。
そして、C営業部長が、Y社からの仕入れ商品だけ、目視による確認に手心を加えていたり、忖度したりしていたような事情は、認められませんでした。

1 以上の点から、X社がY社に支払った商品代金が不当に高額であり、一部がY社に対する寄附金に当たるとは認められないと、国税不服審判所は判断したのです。

2 本件でのポイントは、X社が、Y社だけを特別扱いしていなかった、という点にあると思います。
たとえ、X社が、高い乙基準に基づいてY社から商品を仕入れていたとしても、同じ乙基準によって他の仕入れ先からも仕入れた実績があれば、「Y社の商品を不当に高額に仕入れた」という評価にはならないでしょう。
また、X社で仕入れを担当していたC営業部長が、Y社からの仕入れ商品だけ、目視による確認に手心を加えていたり、忖度したりしていたような事情が認められなかったという点も、大きいと思います。

3 取引関係先が、身内・親戚関係の場合には、税務当局は、このような観点からもチェックをしていますので、なおのこと、取引価格が相当であることを説得的に説明できるよう、準備をする必要があるのです。

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