税法によって考え方が違う?

1 税法には、法人を対象とした法人税や、個人が亡くなった際に問題となる相続税など、いろいろな種類の法律があります。
そして、同じ税法でも、法解釈が整合していないケースもあるのです。

2 今回は、実例をカスタマイズして、そのようなケースについてお話しします。

1 X社は、Y社から、非上場のZ社の株式30,000株を、30,000,000円(一株当たり1,000円)で買い受けました(以下「本件株式譲渡契約」といいます)。

2 これに対し、税務署長は、この価格が安いと指摘しました。
つまり、Z社の株式は、一株当たり1,500円が適正時価なので、本件株式譲渡契約の適正な代金額は、45,000,000円となると評価しました。
そして、X社としては、45,000,000円を、本件株式譲渡契約の時点の事業年度において益金に算入する必要がありました。
しかしながら、X社は、30,000,000円しか、益金に算入していないので、その差額である15,000,000円について、更正処分を受けたのです。

1 国税不服審判所は、この更正処分を適法と判断しました。
以下、その理由について、説明いたします。

2 本件の前提として、国税不服審判所は、「法人が、第三者から、時価よりも安い値段で、財産を取得した場合、その時価と取得金額(実際に支払った代金)との差額については、法人税法22条2項により、取得時点の事業年度の益金に算入する必要がある」と判断しています。
つまり、実際に法人が取得した金額が、時価よりも安い場合、その差額については、法人が無償で財産を取得したとみなされるので、その差額も益金に算入されるという考え方です。

3 本件において、税務署長は、「財産評価基本通達」に基づき、類似業種比準価額に基づいてZ社の株式を評価しました(この点については、税理士先生の専門分野と思われますので、私が偉そうに言及しません)。
そして、この方法によりZ社の株式の時価が、一株当たり1,500円と算定されたので、本件株式譲渡契約で定められた売買代金は、時価を下回ることになります。

4 このように、本件株式譲渡契約の適正時価は、45,000,000円であるにもかかわらず、X社は契約上の代金30,000,000円しか益金に算入していなかったので、差額の15,000,000円を益金に算入しなかったことについての更正処分と、それに伴う過少申告加算税の賦課決定処分は適法であると判断されました。

1 ここまでは、比較的シンプルなお話だと思うのですが、本件において、X社が、相続税と所得税基本通達の取り扱いを、反論として出してきたので、税法間の整合性が問題になりました。
以下、X社の反論について、説明します。

2 相続税法7条では、シンプルに表現すると、「著しく低い価格で財産を譲り受けた場合には、財産を譲り受けた者が、譲り受けた時点でのその財産の時価と、実際に支払った譲渡代金の差額分の金額を、譲渡人から贈与されたものとみなす」という規定です。
この規定を反対解釈すれば、「著しく低い価格で財産を譲り受けた場合」でなければ、時価との差額を贈与されたとみなされないから、差額を益金に算入する必要がない、とも解釈できそうです。

3 また、所得税法40条1項2項では、シンプルに表現すると、「たな卸資産の著しく低い価額での譲渡の場合、そのたな卸資産の譲渡時点での時価と実際の譲渡代金との差額については、譲渡時点での事業年度の益金に算入する」と規定されています。
そして、ここにいう「著しく低い価額での譲渡」とは、概ね通常販売価格の70%未満の価額での譲渡をいうとされています(所得税基本通達40-2)。
これらの規定を反対解釈すれば、「概ね通常販売価格の70%以上の価額での譲渡」であれば、所得税法上も、「たな卸資産の著しく低い価額での譲渡」に該当しないので、差額を益金に算入する必要がない、とも解釈できそうです。

4 X社は、この相続税法や所得税法の規定を引き合いにして、同じ税法なのだから、本件も、これらの法律と統一の基準で解釈されるべきであると主張しました。

そして、本件におけるX社とY社間の本件株式譲渡契約の代金は、「著しく低い価格で譲渡された」わけではないから、Z社の株式の時価と、本件株式譲渡契約で設定された譲渡代金の差額について、X社の益金に算入する必要は無い、と主張したのです。

5 税法に限った話ではないと思いますが、法律知識を幅広く身に着けると、それを応用して、主張できる内容に幅と深みが出ます。私としても、少しでも多くの武器を持って戦えるよう、心がけているところです。
今回の実例を担当された弁護士さん(税理士先生)は、相続税や所得税の知識もお持ちで、それをフル活用して反論を展開されています(私も、この姿勢を見習わなければなりません)。

1 もっとも、国税不服審判所は、このX社の主張を、否定しました。
つまり、法人税の場合、「実際の譲渡価格が、時価よりも著しく低いか否かに関係なく、時価額と実際の譲渡価格の差額は、無償での財産取得とみなされるので、益金に算入する必要がある」と、国税不服審判所は判断したのです。

2 「同じ税法である以上、統一基準で解釈するべき」というX社の主張に対しては、「法人税法と相続税法の考え方に差異があるとしても、元来、それぞれの法律の対象とする租税の性質、立法目的が異なる以上、やむを得ない」と、国税不服審判所は判断しています。

3 たしかに、法人の事業収益について課税する法人税と、個人が亡くなった場合の法律・権利関係について規定した相続税とでは、立法目的や、背景にある事情(立法事実)も異なります。
その意味で、国税不服審判所の判断は、ダブルスタンダードではないと言えるでしょう。

このように、同じ税法であっても、解釈が異なるケースがあるので、安易に他の法律と同じ解釈であると考えず、問題となっている税法固有の解釈が無いかを調べることも重要であると示唆する事例と言えます。

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