同一の法人か別法人か

1 今回のブログで取り上げるお話は、税法の知識というよりも、法律の解釈やロジックのお話なので、税理士先生にとっては、あまりなじみが無いところかもしれません。
しかし、法律の解釈いかんにより、課税関係が大きく異なるケースもあるので、そのような場合には、ぜひ弁護士との協同をご検討いただきますよう、よろしくお願いいたします。

2 今回は、医療法人に関する課税関係の問題です。実例をカスタマイズして、お話いたします。

1 X法人は、医療法人です。

2 X法人は、平成21年1月3日に、Aから、A所有の土地(以下「本件土地」といいます)の寄附の申し出を受けました。
実は、これまでは、X法人が、本件土地をAから賃借しており、Aに対して賃料を支払って、本件土地上にX法人の建物を建てていたという経緯がありました。

3 医療法施行規則30条の39の1項(以下「本件医療法施行規則」といいます)では、「社団である医療法人で持ち分の定めのあるものは、定款を変更して、社団である医療法人で持ち分の定めのないものに移行することができる」と規定されています。
X社は、平成21年1月3日に、臨時社員総会を開催し、本件医療法施行規則に基づいて移行するために、定款変更の決議をしました。
この定款変更について、知事の認可が下りたので、X法人は、「社団法人である医療法人で、持ち分の定めのないもの」に移行しました。

4 X法人は、平成21年1月24日に臨時社員総会を開催し、Aから本件土地の寄附を受けることを決議しました。
そして、平成21年3月27日に、本件土地について、寄附を原因とする所有権移転登記手続きがなされました。

5 X社は、不動産鑑定士であるBに、本件土地の不動産鑑定をしてもらいました(以下「本件不動産鑑定」といいます)。

6 法人税法施行令136条の3の1項(以下「本件法人税法施行令」といいます)では、「医療法人が、その設立について、贈与を受けた資産の価額は、その医療法人の各事業年度の益金に算入しない」と規定しています。
X法人は、平成21年1月3日の臨時社員総会において、本件医療法施行規則に基づいて、「社団法人である医療法人で、持ち分の定めのないもの」になったことから、Aからの本件土地の寄附について、本件法人税法施行令に基づいて、益金に算入しませんでした。

7 これに対し、税務署長は、Aからの本件土地の寄附は、「無償による資産の譲受け」になると判断し、受贈益を本件不動産鑑定による鑑定額と認定した上で、この額をX法人の益金に算入するという更正処分をしたのです。

1 この点、X法人は、本件医療法施行規則に基づいて、定款を変更し、「社団法人である医療法人で、持ち分の定めのないもの」に組織変更し、知事の認可も得ているのであるから、本件法人税法施行令により、Aからの寄付を益金に算入する必要は無い、と主張しました。

2 本件では、本件土地が、本件法人税法施行令で規定する「医療法人が、その設立について、贈与を受けた資産」に該当するのか、が争点となったのです。
これは、税法固有の問題ではなく、法律解釈一般の問題と言えるでしょう。

1 この点、国税不服審判所は、X法人の主張を否定して、本件更正処分が適法であると判断しました。
以下、その理由について、お話いたします。

2 本件法人税法施行令の条文にあるとおり、医療法人が、「その設立について」、贈与を受けた資産は、益金に算入する必要はありません。
言い換えれば、「設立について」贈与を受けた場合でなければ、益金に算入する必要があります。
つまり、本件では、本件土地が、X法人の「設立について」贈与されたと言えるかが、ポイントとなります。

3 そして、国税不服審判所は、本件法人税法施行令の「設立」と評価するためには、持ち分の定めのある医療法人を解散して清算手続きに入り、債権債務の清算、各出資者への残余財産分配を経て清算結了した上で、新たに、持ち分の定めのない医療法人を設立することまで必要であると判断しました。
つまり、「設立」と評価するためには、完全に法人格が別である必要があるのです。

4 本件において、X法人は、本件医療法施行規則に基づいて、「社団法人である医療法人で、持ち分の定めのないもの」になりました。
しかし、これは、定款を変更したことによる組織変更であり、X法人という法人格は同一のままです(持ち分の定めがない医療法人が新設されたわけではありません)。
したがって、法人格が同一である以上、法人税法施行令の「設立」には該当しないので、X法人としては、原則通り、Aから寄付された本件土地の価額を、益金に算入する必要があったのです。

1 なお、今回の実例において、税務署長は、本件土地の価額について、本件不動産鑑定の結果である鑑定額を評価額と認定して、X法人の益金に算入する更正処分をしました。

2 この点、不動産鑑定士が実施した鑑定の結果は、通常そのまま評価額に採用されます。
もっとも、今回の実例では、本件不動産鑑定の内容について、国税不服審判所が誤りを指摘したという珍しいことがありましたので、最後に付言します。

3 本件不動産鑑定においては、本件土地が建付地(たてつけち)であるとして、建付減価の補正をしていました。
聞きなれない言葉かもしれませんが、建付地とは、自己所有の土地の上に、自己所有の建物が建っている状態の敷地のことをいいます。
建付地と更地では、一般的に更地の方が、価値が高くなります。古い建物が建っている建付地と、特段使用収益に制限のない更地を比べれば、イメージしやすいと思います。
したがって、同じ自己所有の土地であっても、建付地の場合、更地よりも価値が低いので、その分安く評価します。これを建付減価の補正といいます。
建付減価の補正の最大値は、建物の解体費用相当額になります。つまり、建付地の建物を解体して更地にすれば、同等の価値に補正できるからです。

4 本件不動産鑑定の根本的な前提誤認は、本件土地が、建付地ではなかったという点です。
つまり、もともと、Aは、本件土地をX法人に貸し、X法人はその土地上に建物を建てて所有していました。
つまり、X法人は、土地上の建物を所有する目的で、Aとの間で、本件土地の賃貸借契約を締結していたのです。
したがって、本件土地は、借地借家法による借地権の負担のついた土地なので、それを前提に評価する必要があります。

5 借地権の価額は、「財産評価基本通達」等に基づいて評価されますが、この点は、税理士先生の専門分野だと思われるので、私が偉そうに言及することは控えます。

6 結局のところ、国税不服審判所も、この点の誤りを指摘し、本件土地について、借地権の負担のついた土地として評価し直し、その評価額をX法人の益金に算入するという判断をしたのです。

1 税法も法律ですから、条文の文言の解釈が基本的なスタートになります。本件でいえば、本件法人税法施行令の「設立について」という文言の解釈です。

2 司法試験受験生は、どの法律のどの文言の解釈が出題されているのかを必死で勉強していますが、税法でも、このような条文の文言の解釈が重要であることを示す実例かと思います。

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