ブローカーへの謝礼が、会社への支払いに当たる場合

1 商取引の世界では、取引先が顧客を紹介したり、個人的な知り合いを通じて有益な情報が提供されてビジネスが成立したりするなど、人と人のつながりで、ビジネスの範囲が拡大し、収益を生むことが多々あります。
良い仕事をして顧客が喜んでくれれば、別の顧客を紹介してくれて、仕事につながることも少なくありません。また、以前取引した会社から、有益な儲け話が持ち込まれることもあるでしょう。

2 もちろん、商取引ですから、紹介や情報提供をして下さってありがとうございました、で済ますわけにはいかないこともあります。つまり、顧客(もしくは見込み客)を紹介してくれた対価、その他ビジネスの拡大に協力してくれた対価として、一定額の謝礼金を支払うケースもあります。
中には、会社と会社をマッチングさせたり、ビジネスの話をあちらこちらに持ち込んだりして、紹介料や謝礼金を得ることを商売にしているブローカーもいます。
ビジネスが拡大する機会を作り出すという利益・メリットをきちんと提供しているわけですから、その対価として、応分の紹介料や謝礼金をもらうことは、決して悪いことではありません。

3 もっとも、紹介料や謝礼金を、自社の収益として計上せず、第三者名義の銀行口座で保管管理していたというようなケースは、完全な違法行為です。
難しいのは、取引を紹介したり、有益な情報を提供したりしたブローカーが、自社と親密な関係にある人の場合です。自社の役員や従業員という訳ではないのですが、自社と密接な関係がある人に紹介料や謝礼金が支払われた場合、それが、自社の収益とみなされるケースもありうるのです。

4 以下、実例をカスタマイズして、お話いたします。

1 X社は、解体建築工事をする会社です。大きな工場などの解体工事をすると、現場から多量の金属スクラップが発生しますが、この金属スクラップ自体、相当な財産的価値があります。
X社は、この現場から出た金属スクラップを買い取り、それに応分の利益を載せて、第三者に転売するという事業もしていました。

2 X社の創業者であるAは、X社の株主であり、かつ、X社の代表取締役を務めていました。
しかし、本件当時は、Aは既に、X社の代表取締役でも、取締役でもなく、X社の株も保有していませんでした。
もっとも、Aは、長年X社の経営に携わっていたこと、及びX社の現在の代表取締役の義父であることもあって、自分のことを「X社の会長」であると称して、X社の取引にかかわることがありました。

3 Y社は、金属スクラップ買取を事業とする会社であり、Bは、Y社の仕入れ担当幹部でした。
Y社は、金属スクラップを継続的に仕入れる必要があることから、日頃から、金属スクラップを継続的に売ってくれるところを探していました。
金属スクラップ自体、相当な財産的価値があるし、大量の金属スクラップが継続的に出るところは稀なので、Y社としても、金属スクラップの仕入れ先を探すのに苦労していました。

4 Aは、Y社にこのようなニーズがあることを知り、Y社の仕入れ担当幹部であるBに声を掛けました。
つまり、Aは、Bに対し、自分が「X社の会長」であると称して、「X社が工場の解体をしている現場から、相当量の金属スクラップが出ているので、それをY社で買い取らないか」という話を持ち掛けたのです。
Y社としては、前述のように、日ごろから金属スクラップを売ってくれるところを探していたので、このAから持ち掛けられた話を当たりがたく受け、X社から相当量の金属スクラップを買い取り、その代金をX社に支払いました。
そして、Y社は、X社から仕入れた金属スクラップを活用して、収益を上げました。

5 一連の経緯を見ていたAは、Y社としては、今後も継続的にX社から金属スクラップを買い取りたいであろうと思い、Bに対し、「実は、X社がY社に売却した上記金属スクラップの中には、効果で希少な金属も相当量含まれていたので、追加で相当額のお金を支払ってほしい」と伝えたのです。
この点、Aとしては、本当に希少な金属が含まれていたので、その追加料金を請求している、という訳ではありません。
Aの真意としては、「今回のX社の紹介のお礼」と「今後、Y社が、継続してX社から金属スクラップを買い取りできるようにするための口利き料」という趣旨で、この追加料金をBに請求したのであり、Bとしても、その意向は認識していました。

6 Bは、Y社において、金属スクラップ買取の担当幹部であり、継続的に相当量の金属スクラップを買い取ることについて責任を負担していました。
Bとしては、Aが従前X社の代表取締役を務めていて、現在も「X社の会長」として対外的に活動しているので、Aに対して要求通りの追加金を支払えば、今後もX社から継続して相当量の金属スクラップを買い取れると考えました。
もっとも、このAへの追加金の支払いについて、Y社のお金を使うことができませんでした。
そこで、Bは、自分で別に経営しているZ社で、Aへの支払資金をねん出し、Z社の名義でAに追加金を支払ったのです。

7 この点、Z社は、自社において支払明細書を作成し、それを支払いの記録としました。
このZ社の支払明細書には、「支払先」としてX社が記載され、また、「今後もY社がX社から継続して金属スクラップを買い取りできることを条件として支払う」という記載がありました。
税務署側は、このようなZ社の支払明細書の記載内容、Aが「X社の会長」として対外的に振舞っていたこと、及びAとX社の緊密な関係等を理由に、この追加金はX社に対して支払われたものであり、X社の収益に計上する必要があったと判断し、X社に対して更正処分をしたのです。
これに対し、国税不服審判所は、この更正処分が違法であるとして、取り消しました。そのロジックについて、ご説明します。

8 そもそも、前述のように、 Aの真意として、「今回のX社の紹介のお礼」と「今後、Y社が、継続してX社から金属スクラップを買い取りできるようにするための口利き料」という趣旨で、この追加金をBに請求し、Bとしても、その意向は認識していました。
しかし、それだけでBの経営するZ社が支払った追加金が、X社に支払われたものと判断するのは、論理の飛躍があると言わざるを得ません。
つまり、Aは、X社とそれなりに近い関係にあり、AがX社に一定の影響を及ぼしうる状態にあります(現に、Aは、X社の代表取締役の義父です)。
つまり、Aに謝礼を支払うことによって、Aに事実上X社への口利きをしてもらい、X社がY社に金属スクラップを継続的に販売するようにしてもらうことも、十分合理的に考えられます。
したがって、この点だけをもって、Aに支払われた追加金を、X社に支払われたものとみなすことは、論理的に無理があるのです。

9 確かに、Aは、「X社の会長」と称して対外的に振舞っていましたが、それだけをもって、X社の代理権その他の権限があったと認定することはできません。
Aは、現時点では、すでにX社の取締役でもなく、従業員としてX社に雇用されていたわけでもありません。
X社の現在の代表取締役の義父という事実上の親戚関係はあったとしても、それを法律上の権利関係と評価することはできません。
この点から、Aの活動とX社の活動を同一視することはできないのです。

10 さらに、本件において、追加金がZ社から直接Aに支払われており、X社を経由していない、という点も重要なポイントと言えます。
前述のように、AとX社を同一視できない以上、Aに支払われた追加金を、X社に対する支払いであると評価することはできないのです。
そして、実際にも、Aは、Z社から受け取った追加金について、X社の事業と関係のないA自身の目的で使っており、お金がAからX社に還流したこともなかったのです。

11 確かに、Z社が作成して支払いの記録にした支払明細書には、支払先がX社とされており、また、今後も継続してX社から金属スクラップを買い取れることが条件と記載されております。
しかし、この支払明細書は、あくまでZ社の内部書類であり、証拠としての価値が低いと言わざるを得ません。
この支払明細書がX社に送付されており、X社も認識していたというのであれば、話は異なるでしょうが、そのような事実は、証拠上認められませんでした。
結局のところ、この支払明細書は、X社からの金属スクラップ買取に利害関係のあるBの経営するZ社が作成した社内書類に過ぎないのです。
それなのに、この支払明細書の証拠価値を高く評価して、X社への支払いであると認定した税務署側の判断は、事実認定に誤りがあったということになるのです。

12 結局のところ、Aに支払われた追加金は、X社への支払いとは別なので、X社の収益に計上する必要は無く、税務署長側の更正処分は違法であるという結論になったのです。

1 なお、この実例においては、更正処分の理由の付記の程度についても争われましたので、最後に付言いたします。

2 法人税について更正処分をする場合には、更生処分の理由を、更正通知書に付記しなければならないとなっています(法人税法130条2項)。
そして、更正処分も行政手続きの一種ですが、行政手続法14条1項本文では、行政庁は、不利益処分をする場合には、その処分対象者に対し、不利益処分をする理由を示さなければならない、と定められています。

3 不利益な行政処分は、処分対象者に直接的な不利益や損失が発生するので、その理由は明確かつ具体的でなければなりません。
どのような理由で不利益な処分がなされたのかが、不明確で抽象的だと、その処分に対して不服の申し立てをする場合に、反論の対象が明確でないため、効果的な不服の主張ができないからです。

4 更正処分についていえば、更正処分によって税額が加算され、直接的に納税者の財産権が侵害されるわけですから、その処分による不利益・損失は、甚大です。
そもそも、納税者が、法律で定められた方法にしたがって、正当に帳簿を作成し記載している以上、それが正しいというのが原則です。
税務署側として、あえてその帳簿の記載内容を否認して更正するのであれば、帳簿以上に信ぴょう性のある客観的証拠を提示して、更正した根拠を具体的に明示して、付記しなければなりません(単に、更正の対象となった勘定科目と、その金額を示すだけでは足りません)。
そうでなければ、更正処分をした税務署側の組み立てたロジックが明確になっていないので、そのロジックが不合理であることを、納税者側が効果的に反論・反証することができないからです(敵が見えないと、敵に反撃することができない、ということです)

5 この点、不服申し立ての対象である税務署側のロジックが明確となり、納税者側が、効果的な反論・反証ができる程度に更正の理由が具体的に特定されていればよいと考えられています。
実際の更正処分通知書には、処分理由の記載が不十分という反論を納税者側にさせないようにするため、可能な限り具体的に理由を付記する運用になっているようです。

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