架空経費の判断・認定方法

1 法人税の脱税の典型的な方法として、他の会社と架空の取引をし、架空の外注費を支払ったことにして、その金額を損金に計上する、というものがあります。

2 実際に取引をしていないし、外注費も支払っていないのに、支払ったかのように仮装して、架空の外注費を損金に計上することが、違法な脱税であるというロジック自体は、比較的ご理解・納得いただきやすいと思います。

3 もっとも、実務では、「架空の取引であったのか」とか、「架空の外注費だったのか」という争い、言い換えれば「多少でも実態のある支払いだったのではないか」、という争いが出ることがあります。

4 そこで、ここでは、実例をカスタマイズして、どのような論法で、「架空の外注費だった」ことを判断・認定するのかについて、流れをご説明したいと思います。

1 X社は、建設会社であり、元請け会社からの工事の下請けをしていました。
X社は、自社で工事をすることもあれば、一部の工事を外注に出すこともありました。
本件においては、X社が、Y社に工事を外注し、Y社に外注費を支払ったとして、その外注費をX社の損金に計上しました。

2 また、X社は、Z社の車両を借り、その対価として、Z社に車両賃借料を支払っていたとして、その金額をX社の損金に計上しました。

3 そして、このY社への外注費、及びZ社への車両賃借料の支払いが、架空であるとして、問題となったのです。
それぞれの支出について、見ていきましょう。

Y社への外注費支払いについて

1 本件において、Y社に工事の一部を外注したはずなのですが、Y社の所在地とされるところに調査に行っても、Y社の事務所や関係する施設はありませんでした。
また、X社の代表取締役Aは、税務調査において、Y社の連絡先や代表者の名前を回答できませんでした。
本当にY社が実態のある会社で、X社からの外注工事を実際に行ったというのであれば、このような事態は考えられません。

2 X社は、Y社に工事をきちんと外注し、実体のある外注費の支払いだったということを証明するために、元請け会社の担当者に依頼して、作業証明書を作成してもらい、それを証拠として提出しました。
その作業証明書は、元請け会社の担当者の名義で作成されており、X社がきちんとY社に工事を外注し、その実態のある外注工事の代金として、Y社に外注費を支払ったことが記載されていました。
しかし、税務署員が、この担当者に対して調査したところ、この作業説明書が、X社の専務取締役であるBから依頼されて作成されたものであり、担当者としては、問題となっている外注工事を確認していないし、そもそもY社の名前を聞いたことが無い、という事実が判明しました。
これは、自社の虚偽の主張を通すために、証拠を偽造したものであり、悪質と言わざるを得ません。
そして、本当にX社がY社に対して、工事を外注して、その工事が完了して、その代金である外注費を支払ったというX社のストーリーが真実なのであれば、X社としては、Y社との外注取引においてやり取りされた書類など、Y社への外注が事実だったことを示す端的な証拠を、簡単に提出することができるはずです。しかし、X社は、上記の元請け担当者の作業証明書以外の証拠を出すことがありませんでした。
そもそも、自分に有利な事実を端的に証明できる重要な証拠が簡単に提出できるはずなのに、それを出さないということは、その事実が無かったと推認される流れになるのです。

3 X社は、Y社に支払ったとされる外注費の調達方法として、X社が他の取引先から受け取った約束手形と、X社取締役であり、Aの娘であったCの保有する現金を交換し、その現金をY社に支払った、と説明しました。
しかし、税務調査を進めていくと、X社がY社に外注費を支払ったとされる時点で、Cの預金残高が、Y社へ支払ったとされる外注費額に足りていなかったということが、判明しました。この事実は、「Cから現金を、約束手形と交換してもらい、その現金でY社に支払った」というX社の説明と、大きく矛盾します。
また、「Cから、Cの現金と、X社の受け取った約束手形を交換してもらった」というX社の説明が真実なのであれば、この約束手形はCのものですから、満期日に手形金がCに支払われるはずです。
しかし、実際には、Cではない人の銀行口座に、約束手形金が支払われていました。
このように、X社の説明内容と、客観的事実(「Cの預金残高が、外注費額ほど無かった」とか、「Cの現金と交換したはずの約束手形のお金が、Cではない人の銀行口座に振り込まれていた」など)と整合しない場合、疑いが深まるだけではなく、X社の説明の信用性を損ない、自分で自分の首を絞める結果となるのです。

4 このような点から、X社のY社に対する外注費支払いは架空であると認定され、それをX社の損金として計上することは許されないので、この点を否認した更正処分は適法となります。

Z社への車両賃借料の支払いについて

1 X社がZ社に支払った車両賃借料についても、仮装経費であるとして、否認されました。そのロジックについて、ご説明いたします。
簡単に言えば、X社の言い分としては、「X社が、Z社の車両を実際に借り受け、その賃借の対価として、Z社に使用料・賃借料を支払ったのであるから、この支払金額をX社の損金に計上して問題ない」というものです。
そのX社の言い分が、以下のような事情により、崩れました。

2 税務調査の結果、Z社の所在地が、X社の監査役であるDの自宅住所地になっていました。
つまり、このことから、Z社が実在していないことが判明したのであり、これはX社の言い分において、致命的な欠陥といえます。

3 本件自動車は、ローンで購入されたものなので、所有権留保により、自動車検査証には「所有者」として、ディーラーが記載されていました。
税務署が、ディーラーについて調査したところ、ディーラー内部の売上帳では、本件自動車の販売先が、X社となっていました。
そして、自動車検査証の「使用者」の項目には、X社代表取締役であるAの名前が記載されていました。
これらの事実も、「Z社の本件自動車をX社が借り受け、X社が、その自動車の使用料を、Z社に支払っていた」というX社の説明と整合しません。
Z社の本件自動車をX社が借り受けていたというのであれば、ディーラーの売上帳に、販売先がX社になっていることは考えられないし、本件自動車の車検証の使用者欄に、X社の代表取締役であるAの名前が記載されることもないはずです。

4 さらに、相当額の自動車賃借料を支払っていたのに、X社とZ社との間で本件自動車の賃貸借契約書が無いこと、使用料を支払って借り受ける立場のX社が、本件自動車の修理代や車検代等の管理費用を支払っていたこと、等の事情もありました。

5 このような事実関係から、X社のZ社に対する自動車賃借料の支払いは、架空であり、これをX社の損金に計上することはできないので、やはり、この点でも更正処分は適法ということになります。

1 そして、本件において、X社は、元請け会社の担当者に、事実と異なる虚偽の証明書を作ってもらい、それを自らの主張を裏付ける証拠として提出するという証拠偽造をしました。
また、X社は、客観的事実と矛盾し、あるいは整合しない主張を続けて、意図的に、架空経費であることを隠そうとしました。

2 これまでのブログにおいて、重加算税の課税要件についてお話してきましたが、本件は、さすがに重加算税が加算されてしかるべき事案と言えるでしょう。
それだけでなく、仮装した外注費または自動車賃借料の額や、それを損金に計上して不正に法人税を免れた税額にもよりますが、脱税(法人税法違反)として刑事告発されて、刑事責任を追及されうる悪質さであると思います。

架空外注費を損金に算入して、不正に法人税を免れるというケースはしばしば耳にしますが、実際の案件では、このような事実認定や当てはめの方法により、「仮装」であると評価され、法的責任が追及されることになるのです。

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