一
1 総論的なお話で恐縮ですが、法人の確定申告において、仕入れや経費などは、その支払債務を支出することが確定した時点で、たとえ実際には支払っていなかったとしても、債務確定時点の事業年度の損金として計上します。
2 しかし、個別の法人において、既に確定した債務を、実際に支払った時点での事業年度の損金に計上するという経理処理を慣例として長年行ってきた場合には、それが更正処理基準に該当する限り、その慣例に従って損金に計上するという取扱いがなされています。
3 この点は、法人の支払い債務が確定したけれども、実際に支払った時点との間に、長いタイムラグがある場合に、差異が生じます(法人の債務が発生した時点の翌事業年度に、実際に法人が債務を支払った場合が、典型例です)。
二
1 この点がよく問題になるのは、賃金の締め日と、損金の算入時期です。
実例をカスタマイズして、お話をいたします。
2 X社は、1月1日から12月31日を事業年度とする株式会社です。
そして、X社では、従業員に対する賃金について、毎月15日に締め切り、当月末日に支払っていました。
例えば、4月16日~5月15日の労働の分の賃金を、その月の31日に支払う、という具合になります。
三
1 X社の場合でいえば、12月分の賃金が問題となります。
2 まず、12月末に支払われる賃金は、その事業年度の経費として損金計上されます
もっとも、12月末日に支払われる賃金は、11月16日~12月15日までの労働に対する対価です。
12月16日~12月末日までの労働に対する賃金は、翌年の1月末日に支払われることになります。
3 X社の事業年度は、12月末日までですが、その時点では、X社の従業員は、12月末日分までの労務に従事しています。つまり、X社の12月末日分までの賃金債務は、12月中に確定していることになります。
そうであれば、12月末日までの労働に対する賃金については、前述の原則からすれば、たとえ実際に支払われていなくても、その事業年度の損金に算入することになるのか、とも思えます。
4 しかし、この原則を徹底すると、12月16日~翌1月15日までの労働について、12月末日で分けて、それぞれ別々に給料計算をする必要があります。
従業員の数が多かったり、待遇の異なる従業員が混在していたりする場合などは、大変煩雑な作業が余分に必要となります。
5 X社としては、このような煩雑な処理を避けるため、実際に賃金を支払った日の事業年度に、賃金債務額を損金に計上していました。
つまり、12月末日支給の賃金(11月16日~12月15日分)については、その事業年度の損金に計上していました。
そして、翌年の1月末日に支払われる賃金(12月16日~翌1月15日分)については、翌事業年度の損金に計上するという経理処理を長年慣例にしていました。
6 たしかに、12月16日~12月末日の労働に対する賃金債務は、前の事業年度において確定的に発生しており、それを翌事業年度の損金に計上することは、間違いのようにも見えます。
しかし、前述のように、2回に分けて給料計算をして、各事業年度に損の額を割り振るのは煩雑だし、X社においてこのような慣例的な処理が長年されていたという事実がありました
7 そこで、国税不服審判所は、例外的に、実際に賃金を支払った時点の事業年度の損金に計上するという経理処理を、公正処理基準に該当すると認めたのです。
X社の例でいえば、12月16日~12月末日までの労働に対する賃金債務は、12月中に確定的に発生しているけれども、翌事業年度の損金に計上するという経理処理をしてよいと判断したのです。
四
このように、税法では、公正処理基準に合致していることが大前提ですが、ある程度柔軟な幅をもって判断されることもあるのです。
ポイントは、長年このような経理処理をしてきた慣例があったという点だと考えられます。損金の算入時期を、随時好きなように動かして、利益調整をするようなことは、やはり許されません。