途中で解除された請負工事代金の算入方法

1 請負代金の益金算入時期とも関連しますが、請負契約における請負代金の益金算入時期は、実務上争いになるケースが多い論点と言えます。

2 ここで取り上げる問題は、工事請負契約を締結し、工事を進めていったけれども、途中でその契約が解除になった場合、請負人として、いつの時点で、いくらの代金を益金に算入するべきなのか、という問題です。

1 基本的な点からご説明しますと、法人税は、益金から損金を差し引いた所得に対して課税されますが、収益は、その実現があった時、つまり、利益を得る権利が確定した時点での事業年度の益金として算入されます。

2 本件のような請負契約について見てみます。
この点を考える上では、民法や商法など、税法以外の私法の知識も必要になるので、税理士先生からすれば、面倒くさいと思われるかもしれません。この点は、弁護士の得意分野ですので、このようなお悩みのクライアントがおられたら、弁護士と協同していただければ、より効果的な対応ができると思います。

3 以前のブログでもお話しましたが、請負契約の場合、目的物の引き渡し、または請負業務が完了して初めて、請負人の報酬請求権が発生します(目的物の引き渡し、あるいは請負業務の完了が、請負人の報酬請求権の要件事実になります。民法633条、民法624条1項)。
つまり、目的物の引き渡しまたは請負業務が完了した時点で、請負代金請求という権利が確定することになるので、その時点の事業年度において、請負代金額を益金として算入することになるのです。

1 この点、大規模な現場における構造物の建設請負契約をイメージしていただければ分かりやすいと思いますが、複数の請負作業が多数行われ、全体として一つの大きな請負契約になっている場合もあります。

2 このような大規模な請負契約の場合、請負契約を締結した時点と事情が大きく変化してしまい、やむを得ず、建設工事がストップし、請負契約を解除しなければならない事態も想定されます。
このような場合、請負人としては、いつの時点で、どのような算出方法に基づいて、いくらの請負代金額を益金に算入しなければならないか、という複雑な問題が発生するのです。

3 以下、実例をカスタマイズして、お話いたします。

1 X社は、建物建設、管理・保守等を事業とする株式会社です。
Y社は、産業廃棄物処理会社であり、自社で産業廃棄物焼却炉施設(以下「本件施設」といいます)を所有していました。

2 Y社は、平成20年4月1日に、X社に対し、本件施設の保守及び修繕工事(以下「本件工事」といいます)を発注し、X社は本件工事を受注しました(以下「本件請負契約」といいます)。

3 X社は、同年8月頃、Y社に対し、同年7月31日までに行われた工事の原価を記載した明細書(以下「本件工事原価明細書」といいます)を交付しました。

4 Y社は、取引先が破綻したことから、資金繰りがつかなくなり、X社に本件工事の代金を支払えなくなりました。
このような事情をY社から聴いたX社は、同年9月末までに、本件請負契約を解除しました。
このように、本件工事が途中でストップし、本件請負契約が解除となった場合、X社として、いつの時点で、いくらを益金に算入する必要があるのかが、問題となったのです。

1 この点、X社としては、本件工事に未完成部分があるし、本件請負契約が途中で解除されたことにより、本件工事の代金が確定せず、金額が算出できないと考え、本件工事代金を益金に算入しませんでした。

2 しかし、このX社の考え方は、法的に通用しないと言わざるをえません。
ここでも税法以外の知識が出てくるのですが、商法512条では、X社が、事業として本件工事を施工した以上、具体的な報酬額の合意が無くても、「相当な報酬」をY社に対して請求できる、と定められています(商法512条に基づく報酬請求訴訟の場合、最終的には裁判所が具体的な報酬額を決めます)。
つまり、本件請負契約が解除されたとしても、X社として、本件工事を施工したことは事実なので、当事者間で報酬金額の合意が無くても、商法512条により、Y社に対して代金請求できることは、確定しているのです。
したがって、具体的な金額が確定していないとしても、Y社に対する請負代金請求権自体は発生しているので、X社として、本件請負契約が解除された9月末時点の事業年度の益金に算入しない訳にはいきません。

1 では、本件のように請負契約が途中で解除された場合、益金に算入するべき金額をどのように計算すればよいのでしょうか。

2 まず、今回の例でいえば、平成20年9月末日までに本件請負契約が解除されているので、同時点までに引き渡しが終わっていない請負工事、もしくは提供が終わっていない請負業務については、そもそも請負代金請求権が発生していません(詳しくは、請負代金の益金算入時期をご覧ください)。
したがって、本件請負契約の解除により、X社としては、その後工事や請負業務提供が完了することはあり得ず、その請負業務の代金が発生することは無いので、これを本件請負契約解除時点の事業年度の益金に算入する必要は、ありません。

3 一方、大規模な請負工事現場の場合、全体的に見れば未完成な部分があるが、一部の請負工事は完了しているとか、一部の請負業務については提供し終わっているという場合もあります。
その場合、先ほどの商法512条により、金額が確定していなくても、事業年度終了の日を基準にして、既に完了した請負工事や、提供し終わった請負業務の経済的価格を適正に見積もります。
そして、この見積もられた金額を、X社がY社に請求できる請負代金額と考えて、その事業年度の益金に算入するという扱いになるのです。

4 そして、実際には、本件請負契約の解除に伴い、契約当事者間で清算の協議が行われます。その協議において確定したX社の請負代金額と、前述した見積金額との間で差額が出た場合は、確定した時点の事業年度で調整をします。
つまり、確定したX社の請負金額が見積額よりも多かった場合には、見積額よりも利益が出たということになるので、確定した時点の事業年度で、その差額を益金に算入する必要があります。
一方、確定したX社の請負代金額が、見積額よりも少なかった場合には、見積額よりも損失が出たことになるので、確定した時点での事業年度で、その差額を損金に算入することになります。

1 このように考えても、完了した請負工事等の経済的価値をどのような方法で見積もれば、「適正な経済的価値を見積もった」と言えるのかが、問題になります。

2 今回の例において、X社は、Y社に対して、本件工事原価明細書を交付していました。これにより、原価は相当程度正確かつ具体的に把握できます。
そして、本件請負契約の金額と原価を比較すれば、X社の利益率も、相当程度正確かつ具体的に把握できます。
そこで、本件工事原価明細書の金額と、そこから具体的に推認されるX社の利益率を基準にして、本件工事のうち完了した分の経済的価値が見積もられることになったのです。

3 今回の例のように、原価と、合理的に推察される利益率を、完成した請負工事の範囲に当てはめて、完成部分の経済的価値を見積もるという方法が、「適正な見積もり方法」と言えると考えられます。

1 なお、この実例においては、このような算定方法による課税が、推計課税であり、違法であるという主張もなされましたので、最後にこの点について、付言いたします。

2 推計課税について、詳しくは、推計課税と帳簿代用書類をご一読いただければと思います。

3 この点、国税不服審判所は、本件においては、本件工事原価明細書という相当程度正確かつ具体的に原価を把握できる資料に基づいていること、及び、金額が不確定な段階で、請負業務の経済的価値の見積額をその事業年度の益金に算入するとしても、その後、請負代金額が確定した時点で、確定した金額と見積額との差額でマイナスが出たら損金に算入できる(つまり、事後的に調整できる)ことから、違法な推計課税ではないと判断しました。

4 この考え方は、理に適っていると思います。
つまり、商法512条により、金額は不確定でも、X社に報酬請求権が発生している以上、暫定的な見積金額であったとしても、その時点での経済的価値を、その事業年度の益金に算入しない訳にはいきません。
また、暫定的な見積方法で出た経済的価値を益金に算入するとしても、その後の協議で請負金額が確定した場合に、差額を調整できるのであれば、トータルで見て、納税者に不測の不利益にはならないからです。

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