請負代金の益金算入時期

1 以前、このブログにおいて、金銭債権の事実上の貸し倒れの処理について、取り上げたことがありました。
今回は、それの応用編ともいえるお話です。

2 以下、実例をカスタマイズして、お話いたします。

1 X社は建設会社です。
Y市には、古代の遺跡が多数存在していると考えられていたため、Y市の任意団体であるZ遺跡調査会がありました。
Z遺跡調査会は、Y市が公園などの造成工事を行う際に、事前に埋蔵文化財を調査していました。
Z遺跡調査会は、Y市から委託を受けて遺跡調査をする上で必要だったので、平成3年9月頃、X社に対し、「遺跡の発掘工事」と「現場倉庫の設置工事」(以下まとめて「本件請負工事」といいます)を発注し、X社は、本件請負工事を受注しました。
本件請負工事の請負金額は、総額で、105,700,000円でした。
現在では考えられないのですが、契約条件を明示した工事請負契約書は、作成されていませんでした。 

2 お金の流れとしては、Y市が、委託しているZ遺跡調査会にお金を支払い、そして、Z遺跡調査会が、X社に請負代金を支払うということになっていました。
Z遺跡調査会の事実上の出納責任者はAという人物でした。Aは、Y市の教育委員会の職員でしたが、Z遺跡調査会の事務局長も兼任しており、本件請負工事のZ遺跡調査会側の責任者でした。

3 X社は、本件請負工事について、平成7年3月までに完成させました。
しかし、Z遺跡調査会は、X社に対して、1700万円と270万円は支払いましたが、残金について支払いをしません。
X社の代表取締役であるBがAに問い合わせたところ、Y市からの支払いが遅れているなどと、不自然で曖昧な回答に終始しました。
そこで、Bが、Y市の担当者に確認したところ、すでにY市はZ遺跡調査会に対し、委託料全額を支払った、ということでした。
つまり、Z遺跡調査会の事務局長であり、事実上の出納責任者だったAが、個人的に使ったか、少なくとも本来の目的以外にお金を使ったことが疑われました。

4 平成9年7月に、Z遺跡調査会は、Z社へ本件請負工事の残代金を支払わないまま、解散しました。
Z遺跡調査会は、法人ではなく、任意団体だったので、清算手続きが法律で規定されているわけではありません。
Z遺跡調査会に負債が残っていたとしても、やろうと思えば、解散できてしまうのです。

5 X社は、平成10年4月20日に、代理人弁護士を通じて、Z遺跡調査会に業務を委託していたY市に対して、残金相当額の賠償金を支払うよう請求する通知書を送付しました。
これに対して、Y市は、翌5月14日に、X社の請求には応じられないという回答書を、X社側に出したのです。

1 この実例を検討する前提として、以下の点についてお話いたします。

2 言うまでもなく、法人税は、各事業年度の「所得」を課税対象としています。そして、「所得」とは、その事業年度の益金の額から、損金の額を差し引いた額です。そこで、どれだけの「益金」が発生したかで、所得が変わり、法人税額も変わるのです。

3 本件請負工事のような請負契約の場合、請負代金が益金になるわけですが、その請負代金という益金は、どの事業年度における益金に算入するのか、という問題があります。

4 この点、請負契約の場合、①目的物の引き渡しを要する請負契約(例えば、自宅の新築工事など)については、その目的物全部が完成して、注文者に引き渡した時点での事業年度の益金に算入します。
また、②目的物の引き渡しが必要ない請負契約については、その請負の作業やサービスの提供が全部完了した時点での事業年度の益金に算入することになります。

5 本件において、X社は、平成7年3月までには、本件請負工事を完了したわけですから、その時点での事業年度に益金として、請負代金を算入することになります。
実際には、X社には1700万円と270万円しか支払われていませんが、未払いの工事残代金についても、未収入金という金銭債権として、X社の益金に算入する必要があるのです。
なお、逆に言えば、本件請負工事に必要な原価相当額については、X社の損金として算入してよいということになります。

1 そして、この未収入の請負代金債権を事実上の貸し倒れ処理することについては、以前のブログにおいてピックアップしました。
ここでの問題は、Z遺跡調査会が、平成9年7月に解散しているということです。
今回の実例では、X社側は、Z遺跡調査会が平成9年7月に解散しており、今後Z遺跡調査会から回収できる見込みがないので、そもそもX社には、未収金債権という金銭債権が存在しないことになると主張しました。
そして、X社として、存在しない未収金債権を、益金に算入することは論理的に不可能であるから、未払い代金を益金不算入として所得を計算したX社の申告に誤りはない、と主張したのです。

2 この点、国税不服審判所は、「未収金債権という金銭債権として存在しているか否かは、益金として算入するべき事業年度の末日を基準に判断する」、という基準を示しています。
つまり、事業年度の末日を基準時点として、その時点で既に未収金債権という金銭債権として発生したものについては、その事業年度の益金に算入しなければなりません。
さらにいえば、その事業年度の後に何らかの事情が発生したとしても、既に未収金債権という金銭債権が発生している以上、事後的な事情が遡って未収金に影響するわけではないと考えられているのです。
 3 本件でいうと、X社は、平成7年3月までには本件請負工事を完了しており、その時点の事業年度において、請負代金(支払われていない分については、未収金として)を益金として算入することになります。つまり、この事業年度の末日を基準にすると、未払いの工事費用については、未収金という金銭債権としてX社に発生しています。
   そして、Z遺跡調査会の解散が平成9年7月であり、益金に算入する事業年度の後の事後的事情ですから、それがX社の未収金に遡って影響しません。
   したがって、たとえ、Z遺跡調査会が、事業年度の後に解散したとしても、それはX社の従前の益金には無関係なので、やはり、X社としては、本件請負工事が完了し、請負代金債権が発生した時点の事業年度において、請負金額を益金に算入する必要があるのです。

1 なお、この実例において、X社は、Y市やA個人に対して損害賠償請求をしているのであり、請負代金を請求しているのではないので、請負代金と同様のタイミングで益金に算入する必要はなく、本件請負工事完了時点の事業年度で未払い代金を益金に算入しなかったX社の処理に違法はない、という主張もしました。
これは、税法だけでなく、民法の法律構成、及び訴訟物という民事訴訟法上の法概念を使った主張であり、税理士先生にとっては、あまりなじみが無いことかもしれません。
しかし、弁護士にとっては、普段の訴訟対応業務で頻繁に出てくる、好物ともいえる話であり、弁護士の出番と言える分野でしょう。

2 本件において、X社は、Z遺跡調査会から本件請負工事を受注したのであり、Y市とは契約関係にありません。
X社のY市に対する請求の根拠となるのは、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、715条)であると言えます(これが、民事訴訟にいう「訴訟物」です)。
つまり、Y市は、Y市の事業としてZ遺跡調査会を使用し、遺跡調査をさせていたところ、Z遺跡調査会が、横領という不法行為でX社に本件請負工事代金を支払わず、その結果X社に損害を与えたというロジックで、X社がY市の使用者責任(民法715条)を追及し、損害賠償請求をしているといえます。
また、本件において、AはあくまでZ遺跡調査会の事務局長兼実質的な出納責任者に過ぎず、Aが個人としてX社に本件請負工事を発注したわけではないので、X社とAとの間に請負契約関係はありません。
X社としては、Aが、本来X社に支払うべき工事代金を横領し、その結果、X社に支払う代金が無くなったことを理由として、不法行為に基づく損害賠償請求をしているものと考えられます(民法709条)。

3 このような民法上の法律構成が問題となるのは、法人税基本通達2-1-37(損害賠償等の帰属の時期)という定めがあるからです。
つまり、「損賠賠償請求権という金銭債権については、損害賠償金の支払いを受けることが確定した日、または実際に賠償金を支払われた日の事業年度に、益金に算入する」という定めがあります。
本件において、前述のように、X社がY市やAに対して請求している法的根拠は、不法行為に基づく損害賠償請求です。そして、平成10年5月の時点でY市がX社の支払い請求を拒否しており、損害賠償金の支払いが確定したとも言えません。
そこで、本件の訴訟物(X社の主張する法的ロジック)は、損害賠償請求なので、先ほどの通達の定めにより、本件請負工事が完了した平成7年3月の事業年度に、損害賠償金を益金として算入する必要が無いから、X社の益金算入方法に誤りはない、という主張が、X社から出されたのです。

4 この点、私法である民法と、行政法である税法の法的性質の違い、また実態課税の原則から、国税不服審判所は、このX社の主張を否定しました。
確かに、X社がY市やAに対してしている請求は、不法行為に基づく損害賠償請求であり、X社が被った「損害」の賠償を求めています。
もっとも、ここにいうX社が被った「損害」とは、X社において未収になっている本件請負工事の残代金であり、X社としては、損害賠償請求という形式ではあるものの、実際は、未払いの請負代金の支払いを、Y市やAにしているといえます。
つまり、X社がY市やAに対してなしている損害賠償請求は、実態としては、X社の本件請負工事に関する未収債権という金銭債権の請求と同一視できると判断されるのです。
そして、X社のY市やAに対する損害賠償請求が、請負代金請求と同一視されるということは、請負代金債権と同じ処理をする必要があります。
つまり、いずれにせよ、本件請負工事が完了した平成7年3月の事業年度において、未収債権として請負代金残金も益金に算入することになるのです。

5 このように、金銭請求する根拠条文や法的ロジック、そして、請求の相手方も異なるのに、「請求している損害の内容は、請負代金残金という同じもの」という実態を重視して課税関係を評価するというのは、税法の特徴と言えると思います。

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