会社の収益か、親睦団体の収益か

ビジネスの世界では、取引関係の維持・拡大や、情報交換などの目的で、自社と取引のある会社や、同業・近隣業態の会社を会員として、親睦団体を作ることがあります。
そして、その親睦団体の活動として、専門家を講師に招いて講演会をしたり、懇親会を開催して、参加企業同士が情報交換や名刺交換をしたりします。
私も、人脈を広げたり、最新の業界の情報を仕入れたりするために、このような活動に招待されて参加することがあります。
このような親睦団体の活動によって収益が出た場合、これはどの会社に帰属し、どの会社の収益として課税対象になるのか、というのが、ここでの問題です。
以下、実例をカスタマイズして、述べさせていただきます。

1 X社は、自社の取引先や親しい会社を会員にして、親睦団体(以下、仮に「友の会」といいます)を作りました。

2 友の会は、会則を定め、会員から会費を集めて、それをX社の事業資金口座とは別の銀行口座に入金して管理していました。
この点、友の会は株式会社その他の法人ではないので、「友の会」名義の銀行口座を開設することができません。
そこで、X社の経理部長だったAの名前を使い、「友の会A」という名義で銀行口座を開設し、会員である会社は、この口座に会費を振り込んで支払っていました。なお、この銀行口座のこと、及び会費をこの銀行口座に振り込んで支払うことは、友の会の会則にも記載されていました。

3 この友の会に関して、2つの問題が発生しました。懇親会と祝賀会です。
以下、それぞれに分けて、お話しします。

懇親会について

1 友の会は、毎年1月に新年会を開催するほか、年に2回程度懇親会が行われていました。

2 この懇親会等の開催案内書面を発送する業務や、懇親会会場の受付は、X社の従業員が行っていました。
また、懇親会等の開催日時・場所、一人当たりの参加費などを記載した開催案内書面、そして参加費の領収書は、X社の名前で発行されていました。
このようなことから、税務署は、懇親会等の損益はX社に帰属するので、懇親会等の結果収益が上がった以上、それをX社の収益として計上する必要があった、と指摘したのです。

3 しかし、前述のように、「友の会A」名義の銀行口座という、友の会の活動の専用管理口座があり、そこで、友の会の会員の会費や、懇親会等の収益が保管管理されておりました。
この「友の会A」名義の口座には、友の会の活動と関係のないX社の事業資金は、含まれていませんでした。つまり、友の会の活動資金と、X社の事業資金は、明確に区別して保管管理されていました。
この「友の会A」名義の口座に会費を振り込んで支払うことは、友の会の会則に明記されており、会員全員がこの銀行口座のことを知っていました。
そして、「友の会A」名義の銀行口座の入出金履歴を見ても、この口座で保管管理されている預金について、X社が、自分の都合で自由に出し入れした形跡がありませんでした。
さらに、X社の従業員で、友の会の事務作業をしていたAは、毎年、友の会の収支決算報告書を作成していたのですが、それは、この「友の会A」名義の銀行口座の通帳履歴に基づいて、正確に作成されていました。
さらに言えば、実際に行われた懇親会等の実態は、講師を招いての講演会と、文字通りの懇親会であり、「友の会」の目的に合致していました。

4 以上の点から、国税不服審判所は、懇親会等により、結果として収益が出たとしても、それはX社に帰属するものではないので、X社の収益であると認定してなした税務署長の更正処分は違法であると判断したのです。

5 なお、補足しますと、以前このブログで取り上げた立証責任の原則が、この実例でも適用されております。
つまり、不服審査請求において、税務署側は、「友の会の懇親会等は、X社の意思決定により開催され、友の会の会費・懇親会等の開催費用金額などもX社が決定していることから、X社の業務に関連して懇親会等が開催されたと評価するべきであり、懇親会等の利益は、X社の収益である」と主張しました。
税務署側として、このような主張をしたいのであれば、「懇親会の開催の有無やその時期、規模、懇親会等の参加費の使途」といったことをX社が決定していたという事実を、税務署側において、立証しなければなりません。
そして、税務署側が、めぼしい証拠が無く、立証をできなかったことから、国税不服審判所は、税務署の主張を採用しなかったのです。
このように、立証責任の所在という点は、係争になって初めて出てくる問題であり、税理士先生にはあまりなじみがない論点かもしれません。その意味で、日ごろ法律を使ってバトルをしている弁護士の出代と言えるかもしれません。

祝賀会について

1 X社は、通常その時期に行っている友の会の懇親会を開催せず、代わりに、X社のお祝い事があったので、友の会の会員を対象にして、「X社祝賀会」を開催しました。
X社としては、友の会の懇親会の代わりにこの祝賀会が行われたのであり、かつ、友の会の会員を対象にしていることから、上記のような懇親会と同様に考え、祝賀会による収益をX社の収益に計上していませんでした。

2 しかし、懇親会と異なり、X社の名義で発送された祝賀会の招待状には、X社のお祝い事に対する感謝の意と、会食に招待することが記載されており、友の会についての記載がありませんでした。
実際の祝賀会の会場では、「X社祝賀会」という看板が表示され、式次第にも、「X社祝賀会」と記載されていました。
また、この祝賀会は、参加者が、あらかじめ定められた参加費を払う制度ではなく、X社の奢りでした。参加者は、自分たちで決めた額のお祝い金を、現金で会場に持参し、支払っていたのです(お祝い金の額にはばらつきがあり、中にはお祝い金を持って来ない参加者もいました)。
さらに、祝賀会開催後には、X社の名義でお礼状が出されましたが、そのお礼状にも、祝賀会に出席してくれたこと、及びお祝い金を頂いたことに対するお礼だけが記載されていて、友の会についての記載はありませんでした。

3 このような事実関係からすると、「通常開催している友の会の懇親会の代わりに、友の会の会員を対象にして祝賀会を開催したのだから、祝賀会の収益は、X社のものではない」というX社のロジックは、さすがに無理があります。
本件において、「祝賀会の費用は、X社の奢り」という建前であり、参加者は、X社のお祝い事に対する祝い金として、X社に渡すために持参しており、金額にもばらつきがあり、しかも、祝い金を持参しなかった参加者もいたということは、やはり、X社への任意の贈与だったと評価されます。
つまり、祝賀会で出た収益は、X社の業務に関連して発生したのであり、X社のものということになります。

4 したがって、この祝賀会の収益を計上していなかったX社の処理は、違法と言わざるを得ません。

1 この実例では、X社が祝賀会の収益を適法に計上しなかったことについて、税務署長より重加算税が課税されました。
そして、この重加算税の課税処分が違法であるという点も、不服審査請求において争われました。

2 以前のブログで述べた通り、重加算税とは、意図的に申告内容を「仮装」したり、事実を「隠ぺい」したと客観的に判断される場合に課せられるペナルティです。
この実例において、国税不服審判所は、重加算税の課税処分を違法として取り消しました。そのロジックについて、ご説明します。

3 以前のブログでも述べた通り、「仮装」とか「隠ぺい」と評価されるためには、社会常識に照らし、意図的であったと客観的に認められる事実があることが必要です。単なる計上漏れミスに止まる場合には、重加算税の要件を満たしません。
本件において、X社としては、通常行われる友の会の懇親会の代わりに、友の会の会員を対象として祝賀会を開催しました。


投稿記事一覧へ