一
1 夫婦の一方が不貞行為をし、その不貞行為をした者が裁判上の離婚を請求することは、有責配偶者からの離婚請求として認められないのが原則です。
自分で離婚原因を作り出しておいて、それを理由に離婚を求めるのは、他方の配偶者にとって酷であり、信義則に反するからです。
2 実務上、実質的に婚姻関係が破綻した後に不貞をしたのだから、離婚請求が認められると主張されることがあります。
しかし、婚姻関係がギクシャクしていたとしても、回復不可能な程度の決定的な亀裂と評価できる事実が無ければ、婚姻関係は一応続いているので、その状態で不貞をした場合には有責配偶者となります。
二
1 もっとも、夫婦の一方または双方が既に婚姻意思を確定的に喪失するとともに、夫婦としての共同生活の実体を欠き、それが回復する見込みが全くない状態に至り、社会生活上の実質的基礎を失っている場合においてまで、戸籍上の婚姻を形式的に存続させることは不自然といえます。
2 前述のように、有責配偶者からの離婚請求は、信義則に違反するから認められません。
逆に言えば、信義則違反とまでは言えない特段の事情があれば、有責配偶者からの離婚請求も認める余地があるということになります。
具体的には、有責配偶者の責任の態様・程度はもとより、相手方配偶者の意思や離婚請求者に対する感情、離婚となった場合の相手方配偶者の精神的・社会的・経済的状態、子ども(特に未成熟子)の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された生活関係などを考慮して、信義則違反といえるかが判断されます。
3 たとえば、一家の収入を支えている夫が不貞をして別居状態になり、夫婦関係が破綻したというような場合、夫からの離婚請求が認められると、残された妻子が安定的な収入を断たれ、経済的に不安定な状態に追い込まれてしまい、著しく信義則に反すると言えるでしょう。
4 一方、相手方配偶者も、暴力を振るったり暴言を吐いたりしていたり、適正な生活費を負担していなかったりした場合、有責配偶者というだけで一切離婚請求が認められないというのは、それも問題といえます。
5 そこで、有責配偶者からの離婚請求であったとしても、婚姻関係破綻の原因の一端が相手方配偶者にあり、かつ、離婚を認めても、相手方配偶者が精神的・社会的・経済的に追い込まれず、しかも、子の養育監護の状況等に特段の問題も無いという場合であれば、信義則違反ではないとして、裁判上の離婚が認められることがあります。
三
1 実例でいえば、夫から携帯電話やクレジットカードの使用を無理やり停止させられ、つきまとわれ、人格を否定するような言動を繰り返し受けていた妻が、他の男性と交際するために離婚請求したという事案がありました。
2 確かに、妻は他の男性と交際したため有責配偶者に当たります。
しかし、夫のモラハラ行為など婚姻関係を破綻させた要因は夫にもあります。
そして、夫は、年収900万円程度を得ており、離婚したとしても経済的に困窮することはありません。
また、妻は、子について、妻の両親の支援を受けながら適切に養育できる環境を整えており、離婚が子に与える悪影響も最小限になっていました。
3 このような事情から、裁判所(東京高裁2014年6月12日)は、妻の離婚請求が、夫婦としての信義則に反するものではないと判断して、裁判上の離婚を認めたのです。
四
1 この問題では、原則と例外があるということです。
有責配偶者からの離婚請求が原則認められないことは、ご理解いただけると思います。
2 もっとも、離婚という事態に至った場合、夫婦の双方に原因があるというケースも少なくありません。
そして、離婚請求を認めても、相手方配偶者が、社会生活に支障をきたすようなことがなく、かつ、子の養育についても適切な環境が整備されているのであれば、夫婦としての実体が無い以上、戸籍だけ夫婦とする意味も無いので、離婚を認めるという例外があるのです。