不動産の遺産分割手続きと競売

1 遺産のうち、現金や預貯金については、その金額がそのまま評価額になるので、遺産の評価という問題は発生しません。
また、現金や預貯金は、その現物を分割できるので、遺産の換価・分配という問題も発生しません。

2 一方、遺産の中に不動産が含まれている場合、その不動産をいくらと評価して、共同相続人の具体的な相続分を算出するのか、という問題が発生します。
この点、固定資産税評価額とか路線価格など、評価基準について共同相続人間で合意ができればそれによりますが、合意できない場合には、最終的には、不動産鑑定士による鑑定に基づいて評価がなされます。

3 また、共同相続人の誰も不動産の取得を希望しない場合、あるいは当該不動産取得を希望する共同相続人が、他の共同相続人への代償金を用意できない場合には、当該不動産を売却して、その代金を分割することになります。
この点、紛争になっている共同相続人が、合意をした上で、タイムリーに当該不動産を任意売却することは、現実的に期待できません(売値や売るタイミングなどが合意できないでしょう)。
そのような場合には、家庭裁判所が、当該不動産について競売を命じ、競売手続きにおいて当該不動産が処分されることになります。

1 一般的に、不動産が競売手続きで処分される場合、その金額が元々の評価額よりも安くなってしまうという問題があります。また、競売手続きにも費用が必要になります。
当該不動産を評価して、各共同相続人の具体的相続分を算出したのに、実際に競売をしてみたら、コストもかかり評価額よりもかなり安値でしか処分できなかったという乖離が発生した場合、算出した相続分の前提が覆ることになります。

2 このような不都合を避けるためには、当該不動産を競売で処分して取得した代金を、共同相続人の相続割合に応じて分配するのが公平であると言えます。

1 そこで、このような場合、裁判所は、当該不動産について競売を命じるとともに、その売却代金から競売費用を控除した残額を、共同相続人の相続割合に応じて交付する、という判断をします。

2 このような判断をすれば、実際に競売が実行されて、処分価格や競売費用が確定し、実際に精算をして、その残金を共同相続人の相続割合に応じて分配できるので、当該不動産の評価からの乖離という問題が解消されます(実際に競売で処分できた金額から競売費用を控除した金額が、算出基準になります)。

1 なお、上記の話は、当該不動産に財産的価値、競売手続きでの売却可能性がある場合について妥当します。
例えば山林や原野など、そもそも誰も買わないと考えられる不動産や、抵当権等担保権が設定されている不動産の場合には、そもそも競売手続きで当該不動産を換価処分できないので、上記の話は当てはまりません。

2 この場合には、やむを得ないのですが、当該不動産を各共同相続人で共有するという遺産分割になります。
共有状態だと、全員の合意が無い限り処分行為ができないなど、大きな制約があります。
その意味で、このような不都合を事前に回避するために、遺言の作成が強く勧められているのです。

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