一
1 故意または過失により不法行為をほう助した場合、共同不法行為責任を問われ、損害賠償義務を負います(民法719条2項)。
不注意で詐欺師と取引してしまい、その詐欺師が被害者からお金をだまし取ったという場合、詐欺師は行方不明になっていたり逮捕されていたりして損害賠償請求ができない場合が少なくありません。
このような場合、現実的な被害回復のため、詐欺師に加担した者や詐欺行為をほう助した者に対して損害賠償請求がなされることがあります。
2 今回は、この点が問題となったケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。
二
1 Y社は携帯電話など通信機器のレンタルなどを事業目的とする株式会社です。
Y社は、Aに対して、「03‐」とか「0120‐」の番号が表示されるサービスのついた携帯電話(以下「本件携帯電話」といいます)を10台貸与しました。
2 Aは、実は詐欺師であり、本件携帯電話を使用してXに対してデート商法詐欺をし、Xから多額のお金をだまし取りまりました。
3 Xは、Aが所在不明で、事実上Aに対して損害賠償請求することができませんでした。
そこで、Xは、犯罪の道具である本件携帯電話をAに貸与して、デート商法詐欺をほう助したY社に対し、上記の共同不法行為責任として、損害賠償請求をしたのです。
三
1 Y社としては、ビジネスとして携帯電話を貸与しているのであり、Aに貸与した本件携帯電話がデート商法詐欺に悪用されて、結果としてお金がだまし取られたことについて、予想することはできなかったので、故意または過失が無いと主張しました。
2 確かに、Y社のような携帯電話の貸与事業会社が、一般的に、貸与した携帯電話が犯罪行為に悪用されていることを認識認容しているとまでは言えないでしょう(正当な理由で携帯電話を貸与する人も少なくありません)。
四
1 しかし、現実には、転送電話サービスを利用した携帯電話で電話することにより、「03-」と表示されるなどして、東京都心の固定電話から電話をしているように装うことができます。
そして、このようなカムフラージュ方法を使って、ヤミ金融や架空請求詐欺などの犯罪行為に悪用されていることは、社会問題として広く認知されています。
2 携帯電話不正利用防止法では、携帯電話の貸与時に本人確認義務が規定されていますが、それはこのような社会的背景、問題意識があるからです。
Y社も、携帯電話不正利用防止法の適用を受ける会社である以上、本件携帯電話が悪用される危険性を何ら確認せず、漫然と多数の携帯電話を貸与することは、やはり問題と言わざるを得ません。
五
1 本件において、Y社は、事務所はありましたが、店舗はありませんでした。
本来であれば、Y社の事務所において、Aから運転免許証の原本を提示してもらい、それをコピーして控えとして残すのが自然かつ合理的です。
しかし、本件において、Y社代表者は、近所の公園でAと面談し、Aが用意してきた運転免許証の写し(実はこれが偽造でした)を受け取り、Aに本件携帯電話を貸与したのです。
このように、わざわざ公園に出向いて面談するというY社代表者の対応は、Aから求められたものと思いますが、不自然であり、このような不自然な対応をAが求めてくるということは、本件携帯電話が悪用されるリスクがあると予想することができたと言えます。
2 また、Y社は、これまでに、警察から、5回にわたり、Y社の貸与した携帯電話が特殊詐欺に利用されているから、貸与時に注意するようにとの指摘を受けていました。
このことから、Y社としても、自社の貸与した携帯電話が犯罪行為に悪用されていることを認識する機会があったのに、Aに具体的な貸与目的を確認することも無く、漫然と、短期間に10台もの多数の携帯電話を貸与したことになります(10台もの携帯電話を貸与するのは、よほどのことと言えます)。
3 このような事情から、Y社としては、Aが、本件携帯電話を悪用してデート商法詐欺など犯罪行為をする危険性が極めて高いことについて、少なくとも具体的に予想することはできたと言えます。
そうであれば、携帯電話不正利用防止法の適用を受けるY社としては、Aに対し、本件携帯電話を貸与してはいけませんでした。
にもかかわらず、漫然とAに対し本件携帯電話を貸与し、Aが本件携帯電話を使用してデート商法詐欺をしたのですから、Y社としては、Aの不法行為のほう助をしたと評価されたのです。
六
1 共同不法行為責任の怖いところは、故意が無くとも過失があれば成立し、損害賠償責任を負わされる点にあると言えます。
巧妙な詐欺師の手口に利用され、意図的でなくとも結果として詐欺行為に加担することになった場合、加担を防げなかったことについて過失があれば、発生した損害の賠償責任を問われることがあります。
2 その意味で、ビジネス取引をする際に、通常の段取りと異なる不自然な対応を求めてくる者に対しては、その理由を具体的に確認したり、場合によっては取引を中止したりする勇気を持つことも重要と言えるでしょう。