一
1 以前のブログでも言及しましたが、精神疾患により休職している労働者が、休職期間満了しても復職できず解雇・退職となるケースがあります。
もっとも、精神疾患の場合、外形的に明らかでないので、復職可能か否か判断が難しい場合も少なくありません。
2 そのような場合、テスト出勤(精神疾患の療養のため長期間職場を離れている労働者が、職場復帰前に、復帰の可否の判断等を目的として、本来の職場などに一定期間継続して試験的に出勤すること)をして、その状況をもとに判断することが行われます。
テスト出勤を実施することで、そのテスト期間中の求職者の作業状況を踏まえて、休職事由が消滅したか否かを判断することにより、休職者の現状や職場の実態に即した合理的な判断ができます。
3 では、テスト出勤の実施内容や期間は、どの程度にすればよいのでしょうか。
この点、上記のテスト出勤の制度趣旨からすれば、具体的な職場復帰決定の判断をするのに必要な時間帯、態様、時期、期間などに限るべきと言えます。
この点、職種、業種、休職している労働者の個性にもよるでしょうが、国家公務員のテスト出勤制度の実施期間がおおむね1か月とされていることから、これと同程度に考えればよいと思われます。
4 テスト出勤の場合、休職している労働者のリハビリという意味があるので、その間は無給とされるケースも多いと考えられます。
しかし、テスト出勤は、復職を認めるかという判断の材料となり、テスト出勤に応じなければ、復職判断において不利益に取り扱われる可能性があるので、労働者としても応じざるを得ない面は否めません。
そこで、テスト出勤中の作業が本来業務よりも簡易であったとしても、会社側の指示でテスト出勤が行われ、かつ、その間の作業が会社側の業務に役立つものだったのであれば、たとえ無給とされていたとしても、最低賃金の給与は支払う必要がある、というのが裁判所の判断です。
もっとも、傷病手当金を受給している場合、賃金が傷病手当を上回らない限り、賃金として支払われた金額分だけ傷病手当金額が減るので、労働者の手取りは同じことになります。
二
1 テスト出勤の結果、休職事由が消滅し復職できることの立証責任は、復職を求める労働者側にあります。
休職していた労働者としては、テスト出勤の状況を踏まえ、休職までと同等の業務ができることを主張・立証することになります(テスト出勤期間中無遅刻無欠席で、指示された作業をやり遂げたと主張するなど)。
2 なお、裁判所は、労働者が、職種や業務内容を特定せずに雇用された場合においては、現に就業を指示された特定の業務について十分労務の提供ができないとしても、その能力、経験、地位、企業の規模、業務、社内における労働者の配置・異動の実情や難易度などに照らし、休職中の労働者が現実的に従事できる労務がある場合で、かつ、休職中の労働者が、当該業務に従事したいと申し出ている場合であれば、その労働者が現実的に従事できる業務に復職させるべきという判断を示しています。
3 したがって、テスト出勤をした結果、支障なく休職前の業務を遂行できると認められた場合には、問題なく復職が認められることになります。
また、休職前の業務そのものは従事できなかったとしても、その労働者の現状や会社の規模、業種や職種、人員配置・異動の実業に照らして、他に現実的に従事できる業務があり、かつ、労働者がそれを申し出ている場合には、その業務に復職を認めることになります。
三
1 テスト出勤は、復職が可能か否かについて、労働者側の主治医と会社側の産業医の見解が分かれた場合などに効果的と言えます。
テスト出勤を実施し、その期間中に、復職が可能であることが立証されなければ、復職を認める必要はありません。
2 また、会社側として、会社の規模や事業内容、他の従業員の配転や異動の実情に鑑み、可能な範囲で復職を認めれば足ります。わざわざ復職をさせるために、新しい業務を用意するまでのことはしなくても良いのです。