期末勤勉手当の一方的減額

期末勤勉手当の一方的減額が認められるかが争われたケースについて、実例を
カスタマイズしてお話いたします。

1 Xは、Y学校法人に勤務する教員です。

2 Y学校法人の給与規程では、期末勤勉手当について、「6月30日、12月10日、及び3月15日にそれぞれ在職する職員に対して、その都度理事会が定める金額を支給する」と規定しています(以下「本件規定」といいます)。

3 Y学校法人は、これまで長年にわたり、同一の条件で、期末勤勉手当を支給してきました。
しかし、ある年になって、突然これまでの条件を変更し、期末勤勉手当が減額となる理事会決議がなされ、減額後の期末勤勉手当しか支給されませんでした。

4 Xは、期末勤勉手当の一方的減額は違法であると主張し、本来支給される金額との差額の支払いを求める訴訟を提起しました。

1 本件規定では、期末勤勉手当について、「その都度理事会が決める金額を支給する」とあります。
Y学校法人側は、本件規定を根拠に、期末勤勉手当の支給額の決定は、もっぱら理事会の裁量に委ねられているので、従来と異なる条件を基に期末勤勉手当を支給したとしても、Y学校法人の理事会の裁量の範囲内である」と主張しました。

2 しかし、期末勤勉手当も、労働者にとっては賃金の一種であり、その支給額は、労働者の生活に直接的に影響するので、労働契約の重要な内容をなすものと裁判所は判断しました。

3 そして、学校法人の教職員の場合、一般企業と異なり、営業成績・業績が大きく異なることは考えにくいと言えます。
また、Y学校法人では、これまで長年にわたり、同一の条件での支給が継続されてきたという実情もありました。
これらの点に鑑み、これまでと同一の条件で期末勤勉手当が支給されることは、Y学校法人とXとの労働契約の重要な内容になっているので、その条件を変更し、期末勤勉手当の額を減らすことは、労働条件の不利益変更に当たると裁判所は判断したのです。

1 労働契約における労働条件の不利益変更に当たる以上、原則として、変更点について、労働者の個別の同意が必要になります。
そして、労働者側の個別同意が得られない場合には、例外的に、その不利益変更がやむを得ないなどの合理的理由があり、不利益の程度も相当であるという特段の事情が必要になります(この例外に当たることについては、使用者側に立証責任があります)。

2 本件において、Y学校法人は、上記の例外に当たる理由として、マイナス勧告であった人事院勧告を根拠にしていました。
人事院勧告は、物価の変動や民間企業の給与の比較をして、一般職国家公務員の給与額について勧告するものです。
その年は、人事院勧告において、国家公務員の給与について、下げるのが相当という勧告がなされました。
そこで、Y学校法人は、この人事院勧告に従い、期末勤勉手当の支給額を減らしたのであるから、個別の労働者の同意がない労働条件の不利益変更であったとしても、例外的に正当化される、と主張したのです。

3 たしかに、人事院が中立公平な立場から、適正な給与額について勧告を出すわけですから、その勧告には一定の客観的な合理性は認められると言えます。
しかし、人事院勧告は、あくまで国家公務員の給与額を直接の対象にするものなので、それをもって直ちに、Y学校法人をはじめ民間企業・団体が、人事院勧告に従うべきという結論にはなりません。
裁判所としても、「人事院のマイナス勧告に従った」という理由だけでは、期末勤勉手当の減額を正当化する十分な根拠にはならないと判断しました。

4 結局のところ、期末勤勉手当の支給は、理事会の裁量ではなく、労働契約の一内容であり、それを以前よりも減額支給することは、労働条件の不利益変更に当たるところ、労働者の個別同意も、不利益変更を正当化するやむを得ない事情も認められない以上、期末勤勉手当の減額が違法であり、減額分をXに支払うという結論になったのです。

本件規定があったとしても、長年にわたり同一の条件で期末勤勉手当が支給さ
れており、それが当事者の暗黙の了解となっていたような実情があれば、それが
労働契約の内容となるので、突然条件を変更して支給額が減ることは、労働条件
の不利益変更に当たる、という点がポイントと言えるでしょう。

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