一
1 所得税法9条1項17号では、「相続、遺贈または個人からの贈与により取得する所得」については、所得税を課さないと規定しています。
2 では、相続によって株式を取得した場合、その株式について配当される配当所得に対しては、所得税が課せられるのでしょうか。
3 この点が問題となったケースについて、実例をカスタマイズしてお話しします。
二
1 Aは、B社の株式を保有していました。
2 Aは、平成18年10月に死亡して、その相続人のXが、B社の株式を相続により取得しました。
3 B社は、平成19年5月に清算手続きを開始し、平成22年2月に清算手続きを終了しました。
4 清算手続きにおいて、B社の債務全部を返済しても、B社の財産が余る場合、この残余財産については、B社の株主に分配配当されることになります。Xも、AからB社の株式を相続していたので、B社の株主として、残余財産の分配配当を受けました(以下「本件分配配当」といいます)。
5 Xは、相続によりB社の株式を取得したので、上記の所得税法9条1項17号により、本件分配配当に所得税が課せられないと考えていました。しかし、税務署長側が、本件分配配当については、所得税法9条1項17号が適用されないため、所得税が課税されると判断したので、バトルがスタートしました。
三
1 本件において重要な点は、所得税法9条1項17号にいう「相続等により取得するもの」とは、相続等により取得した財産そのものを指すものではないという点です。つまり、本件でXが相続により取得した株式そのものが、所得税の非課税財産となるわけではありません。
2 所得税が課せられないのは、相続の開始時(相続による財産取得時)における当該財産の価額に相当する経済的価値です。
なぜならば、このような経済的価値は、既に相続税の課税の際に評価されており、相続税として課税されているので、同じ経済的価値に対して所得税を課税すると、二重課税になってしまうからです。
本件でいえば、平成18年10月にAが死亡し、その相続開始時点でのB社の株式の評価額(経済的価値)については、相続税において評価され、それを前提に相続税が課税されています。
にもかかわらず、XがB社の株式を取得したと言って、これを所得税の課税対象にすると、同じ経済的価値に対して相続税と所得税を二重に課税することになります。
したがって、この二重課税を避けるために、所得税法9条1項17号が規定されているのです。
3 以上を前提とすると、相続税で評価された経済的価値と異なる経済的価値が新たに発生した場合には、新たな経済的価値に対して所得税を課税しても、二重課税とはなりません(課税の対象となる経済的価値が異なります)。
相続後に、その相続とは別の原因で、新たに発生した経済的価値については、相続税の評価に反映されていない以上、新規の所得として、所得税の対象になります。
四
1 本件において、Aの相続が発生した平成18年10月時点でのB社の株式の経済的価値については、相続税において評価され、Xの相続税額に反映されています。
2 しかし、B社の清算手続きが開始されたのは、Aの相続後の平成19年5月のことなので、相続後に、相続とは別の原因が発生したことになります。
3 そして、収入の原因となる権利が確定的に発生した時点で、所得が実現したことになり、その年度の所得税の対象になります。
本件でいえば、本件分配配当が確定した時点で、所得となります。
4 本件を時系列でみてみると、Aの相続が発生した後に、B社の清算手続きが開始し、その後に残余財産分配が決まって、Xに本件分配配当という経済的価値が発生したことになります。
したがって、相続後に、その相続とは別の原因であるB社の清算・残余財産分配により、新たに、本件分配配当という経済的価値が発生していることになるので、上記の所得税法9条1項17号は適用されないという結論になります。
このような考え方に基づき、国税不服審判所は、本件分配配当が所得税の課税対象であるという判断を示したのです。
五
税法に限りませんが、法的なロジックを検討する際には、事実の経緯を時系列に沿って検討することが重要です。事実関係を誤解すると、それを前提とした法律構成も鳩外れなことになってしまいます。
この点、弁護士は、雑多な事実関係を時系列に沿って整理し、証拠と紐づけて法律構成するという業務を日常的にしています。このような法律構成に苦手意識を持つ税理士先生は、是非、弁護士との協同をご検討ください。