一
1 仮装経理に基づき過大に所得金額を申告した場合、法人税が過分に課税されたことになるので、その過大に所得金額を申告した点を修正する必要があります。
2 この場合、法人としては、所得の過大申告額を修正経理し、事業年度の確定申告書を提出することによって、税務署長に、過大だった所得額及び課税額を減額するという更正(以下「減額更正」といいます)をしてもらう必要があります(法人税法129条1項)。
3 修正経理とは、既に確定した過年度の決算書について、その内容を当年度の決算書で修正することです。
過年度の決算書は確定しているので、当期の決算において、損益修正損または特別損という形で修正します。
この点、過年度で計上すべき損益を、当期の損益と区別せずに計上してしまうと、混在して正確な損益が反映されないので、特別損益の区分として、区別して計上することになります。
二
1 法人税法57条1項により、法人の事業年度開始日より数えて10年以内の事業年度において生じた欠損金額については、当該事業年度の法人の損金の額に算入されます。
2 この点を見逃して決算の申告をしてしまった場合、同様に減額更正をすることになります。
三
1 しかし、減額更正は、いつまでも請求できるわけではなく、時間制限があります(いつまでも税額が変動するとなると、税務法律関係が安定しないからです)。
2 具体的に、国税通則法70条1項1号では、国税(法人税など)の法定申告期限から5年を経過した場合には、減額更正をすることができないと規定されています。
この点、5年の起算点は、仮装経理に基づき過大に所得金額を申告した事業年度の法定申告期限となりますので、注意が必要です(修正経理をした事業年度の法定申告期限ではありません)。
3 したがって、本来であれば、減額更正ができる場合であっても、法定申告期限から5年を経過した場合には、減額更正ができないことになるので、ご留意ください。
四
1 この減額更正の時間制限について争われたケースがあるので、実例をカスタマイズしてお話いたします。
2 X社が税務調査を受け、その結果、仮装経理に基づき過大に所得金額を申告していたことが判明しました。
X社は、税務調査の結果を受けて、修正経理をした上で減額更正の請求をしました。
しかし、過大に所得金額を申告した事業年度の法定申告期限から5年以上経過していたことから、減額更正ができませんでした。
3 X社は、「税務署側が、もっと迅速に税務調査を実施して結果を告げていたら、X社としても、法定期限内に減額更正の請求をすることができた」として、5年過ぎたのは税務調査の遅延が原因なので法定期限が過ぎても減額更正を認めるべきであると主張したのです。
4 確かに、X社の気持ちも理解できないわけではありません。
しかし、税務調査については、いつまでに調査を完了しなければならないという、法的な時間制限はありません。
この点について、国税不服審判所も、税務調査の範囲、程度、時期、場所、手段などの具体的実施方法については、税務署職員の合理的な判断に委ねられていると判断しています。
したがって、税務調査がスムーズに進まず、その結果として、X社が減額更正すべきことに気づくのが遅れ、タイムオーバーになったとしても、それを理由として法定期限後の減額更正はできないという結論になります。
5 また、X社は、税務調査の過程で、税務署側は、減額更正をすることができる状況だと認識した以上、その時点で減額更正をするか、少なくとも減額更正をするよう促すべきだったのに、それをしなかったのであるから、5年という法定期限の進行は中断していると主張しました。
X社としては、民法上の時効の中断と同じロジックに基づいて、このような主張をしたものと考えられます。
しかし、5年という法定期限は、除斥期間であり、債務承認などにより進行が中断する時効とは、法的性質が異なります。
また、法人税法129条1項にあるとおり、修正経理をした確定申告書を提出することが、減額更正をする要件になっています。
本件において、X社が、修正経理をした確定申告書を提出していない以上、税務署長がもっと早い時期に減額更正をすべきだったとか、法定期限が中断しているというX社の主張は、認められないことになるのです。