一
1 言うまでも無く、損金の額に算入される販売費、一般管理費その他の費用の額は、法人の業務に関連する経費である必要があります。
もっとも、中には、プライベートの支出を、法人の経費として処理し、損金算入しているケースもあります。
2 法人の経費として損金算入されるか、プライベートの支出に過ぎないのかという問題は頻繁に発生します。
通常は、領収書その他の客観的な証拠や間接事実を基に判断されます。
3 もっとも、納税者側が、国税不服審判所の指示にもかかわらず、必要な資料を提供しなかったり、必要な説明をしなかったりして、その結果、経費か否か判断できないというケースもあります。
4 以下、この点が問題となったケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。
二
1 X社は、コンビニエンスストアを何店舗も経営する株式会社であり、Aは、X社の役員でした。
2 Aは、Bと旅行に行き(以下「本件旅行」といいます)、その代金192,000円を、福利厚生費として経理処理し、X社の損金に算入しました。
これに対し、税務署長側は、この損金算入を否認する更正処分をしました(以下「本件争点1」といいます)。
3 Aは、プライベートの墓石修繕工事をC社に発注し施工してもらいましたが、その代金のうち209,524円については、X社の経営するコンビニの駐車場工事費用だったとして、修繕費としてX社の損金に算入しました。
これに対して、税務署長側は、この損金算入を否認する更正処分をしました(以下「本件争点2」といいます)。
4 X社は、D社に対して、SE費用という名目で1,000,000円を支払い、それをX社の損金額に算入したのですが、税務調査を担当した税務職員に対し、支払先を明らかにせず、領収書等その他の資料を提出しませんでした。
税務署長側は、このSE費用について損金算入を否認する更正処分をしました(以下「本件争点3」といいます)。
三
1 前提として、国税不服審判所は、「国税不服審判所が、領収書その他支出を裏付ける資料の提出を求めたにもかかわらず、納税者側が提出しない場合、当該領収書等には、原処分庁が主張する内容が記載されていたと推認される」という判断を示しました。
2 つまり、国税不服審判所の指示に従って、タイムリーに必要な資料を提出したり、必要な説明をしたりしないと、納税者にとって不利益な推定が働くことになるのです。
3 この国税不服審判所の判断を前提に、各争点について見ていきます。
四
1 本件争点1について、国税不服審判所が、本件旅行の費用に関する領収書その他支出を裏付ける資料の提出を指示しましたが、X社は提出しませんでした。
2 また、Aは、Bとともに本件旅行に行ったということになっていますが、BがX社とどのような関係なのか、なぜBの旅行費用もX社が負担したのかなどという国税不服審判所の質問に対して、明確な説明がなされませんでした。
3 さらに、X社では、これまでX社が企画して、福利厚生としての旅行が行われたことが無かったのに、単発的に本件旅行だけX社の福利厚生だったという説明も、不自然といえます。
4 以上の点から、国税不服審判所は、本件旅行の費用を福利厚生費という経費として認めることはできず、X社の損金の額に算入されないと結論付けました。
5 この国税不服審判所の結論によると、本件旅行代金192,000円について、A個人が負担すべきものを、X社が負担したことになるので、認定賞与の問題が発生します(認定賞与については、以前のブログを参照してください)。
五
1 本件争点2について、X社は、Aの墓石修繕工事の中に、X社の店舗の駐車場工事費209,524円が含まれると主張して、この額をX社の損金額に算入しました。
2 しかし、国税不服審判所が、店舗駐車場の工事個所、工事内容、工事費の内訳などの説明を求めても、X社は具体的に説明をしませんでした。
また、国税不服審判所が、店舗駐車場工事費用に関する領収書や経理書類の提出を求めたのに、X社は提出しませんでした。
3 これらのことから、国税不服審判所は、209,524円という店舗駐車場工事費用をX社の経費と認めず、その損金の額に算入されないという判断をしたのです。
4 この場合も、本件争点1と同様に、Aが負担すべき工事費用をX社が負担したということになるので、認定賞与の問題が発生することになります。
六
1 本件争点3の税務調査の段階において、X社は、SE費用1,000,000円を支払った先であるD社を明らかにしていませんでした。
X社としては、D社のことを明らかにしたことに起因して、D社に税務調査が入り、D社に迷惑を掛ける事態を避けたいという意向があった模様です。
2 この点、国税不服審判所は、損金として算入できる経費について、その支払先、支払日及び使途が明らかになっていることが必要であるとしています。
税務調査の過程で、支払先が明らかになっていなければ、法人の業務に関連する経費なのか否かの判断ができないからです。
3 X社は、税務調査の過程で、1,000,000円のSE費用の支払先や使途を具体的に明らかにせず、裏付け資料も提供しなかったので、結局のところ、これは、損金算入される経費とは認められないと判断されたのです。
七
1 なお、本件争点3に関連して、使途秘匿金について、お話しします。
2 使途秘匿金とは、法人がした金銭の支出または資産の引き渡しのうち、相当の理由が無いのに、相手方の氏名等を隠す目的で、相手方の氏名等を帳簿書類に記載していないものをいいます(租税特別措置法62条2項)。
3 使途秘匿金に該当する場合、支出額の40%に相当する金額を、通常の法人税に加算して支払う必要があります(租税特別措置法62条1項)。
4 使途秘匿金の支出は、相手方の氏名等を隠す目的で、帳簿書類に記載しないという点で、使途不明金と異なります。
マージンや賄賂のようなものが当たるかと思いますが、使途秘匿金の支出と判断されないように、支払先、支払い日時、使途を具体的に帳簿書類に記載しておくことが必要といえます。