一
1 法人の代表者というような立場になると、各種の公益的な団体の活動に参加する機会も多くなるでしょう。
法人の代表者が、このような公益的団体の活動をする上で支出した費用について、法人の損金に算入できるか、という問題があります。
この点について争われたケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。
2 X社は、工業用品の製造・販売等を事業とする株式会社であり、Aは、X社の代表取締役です。
3 Aは、日本青年会議所(以下「日本JC」といいます)の幹部会員であり、日本JCの企画する多数の会議、大会、イベント等(以下「本件会議等」といいます)に、積極的に参加していました。
そして、X社は、Aが本件会議等に出席するための交通費、宿泊費、及び日当(以下「本件旅費交通費」といいます)を、X社の旅費規程に基づいてAに支給し、その額をX社の損金に算入していました。
X社としては、Aが本件会議に参加することにより、A自身の研修にもなるし、人脈が広がったり、X社の商品の評判が広まったりするなどの営業効果が期待できるので、本件旅費交通費について、X社の経費として経理処理したのです。
二
1 法人が、代表取締役等の役員の活動のために費用を支出した場合、その役員の活動が、法人の事業を遂行する上で必要と認められる場合には、法人の経費として損金に算入できます。
2 一方、その役員の活動が、法人の事業を遂行する上で必要と認められない場合には、その費用は役員個人が負担するべきことになり、法人の経費にはなりません。
この場合に、法人が費用を負担すると、その分、役員に対して経済的利益を提供したことになるので、法人が役員に対して臨時の給与を支給したと認定されます(いわゆる「認定賞与」の問題が発生します)。
したがって、「法人の事業を遂行する上で必要と認められる場合」に該当するか否かは、シビアな問題なのです。
3 そして、国税不服審判所は、この点について、「法人の主観的な意図や判断によるのではなく、その役員の活動の内容や、費用を負担した趣旨・目的など諸般の事情を総合考慮し、社会通念に従って客観的に判断する」という基準を示しました。
法人が「自社の事業に必要」と言い張れば、何でも経費として損金計上できるというのは、明らかに不公平なので、このような客観的基準に基づいて判断されるのです。
三
1 以上を前提に、本件旅費交通費について、「法人の事業を遂行する上で必要と認められる場合」と言えるか、について見ていきます。
2 そもそも、日本JCの定款には、その目的について、「日本各地に所在する青年会議所を総合調整してその意見を代表し、全国的規模の運動を展開して、日本国民の利益の増進を図るとともに、国際青年会議所と協調して、世界の繁栄と平和に寄与すること」という旨の規定があります。
このように、日本JCは、崇高で公益性の高い目的を掲げていました。
また、日本JCの定款では、「日本JCは、特定の個人または法人、その他の団体の利益を目的として、その事業を行わない」とも規定されていました。
3 実際の日本JCの活動プログラムは、会議、式典、講演、フォーラム、セミナー、会員の自己啓発トレーニングなどから構成されていましたが、いずれも、上記の日本JCの目的に則した、非営利的なものでした(自社が行っているビジネス内容を紹介したり、取り扱っている商品やサービスをプレゼンしたりする機会はありません)。
4 このような点から、Aが本件会議等に参加したのは、社会の発展への寄与などの日本JCの活動目的のためであり、X社の事業を遂行する上で必要だったとは認められないと判断されました。
つまり、本件旅費交通費は、X社の経費ではないし、Aに支給した本件旅費交通費額については、臨時の役員給与となって、認定賞与の問題が発生することになるのです。
このような判断に至った大きなポイントは、本件会議等で、X社の事業内容を紹介したり、取り扱っている商品やサービスの説明をしたりする場が無かった、という点にあると考えられます。
四
1 このような判断に対し、X社は、以下のように反論しました。
2 そもそも、JCの会員として活動をしているのは、経営者が多いと考えられます。
X社の代表取締役であるAが、日本JCの活動を通じて、人脈を広げたり、X社の事業内容を広めたりする機会が増え、X社にメリットになる可能性があります。
このように、本件旅費交通費には、Aの研修費用、受注獲得活動費用、または新規事業開拓費用としての性質があるので、X社の事業を遂行する上で必要と認められる、とX社は主張したのです。
3 しかし、前述のように、事業を遂行する上で必要と言えるか否かは、Aの活動の内容や、費用を負担した趣旨・目的など諸般の事情を総合考慮し、社会通念に従って客観的に判断するものとされています。
本件においては、日本JCの定款の記載が重要視されました。
そこでは、崇高で公益性の高い目的が掲げられ、その目的を実現するために本件会議等が行われており、しかも、明確に「日本JCは、特定の個人または法人、その他の団体の利益を目的として、その事業を行わない」と謳われています。
このような客観的な事情がある以上、そのような活動に参加するための本件旅費交通費が、営利目的法人であるX社の事業を遂行する上で必要であるとは、さすがに客観的に認められません。
Aが、本件会議等への参加について、X社の営業活動の一環であると考えていたとしても、前述した通り、主観的な認識は、結論の判断に影響しないのです。
4 プライベートの活動がきっかけで、人脈が広がり、結果として仕事につながることもあり得ます。
だからといって、仕事につながる可能性がある以上、プライベートの活動の費用全部が会社の経費になると主張するのは、さすがに暴論です。
具体的に言えば、ゴルフ好きの社長が、ゴルフ場でビジネスの情報交換が出来たり、人脈を広げられたりすると主張して、趣味のゴルフプレイ料金全額を会社の経費にできるとするのは不合理と言えます。
したがって、ビジネスにつながるという副次的な効果があったとしても、メインの目的や性質を客観的基準で判断して、会社の事業を遂行する上で必要であると認められない限り、経費として損金算入ができないのです。