売り上げ除外と役員給与

今回は、法人が売り上げ除外をした額が役員給与といえるか、という点とともに、刑事事件にいう自首(刑法42条1項)の税法バージョンといえる規定が適用されるかが争われたケースについて、実例をカスタマイズしてお話しします。

1 X社は、農産物の生産や販売を事業内容とする株式会社です。

2 Aは、X社の取締役であり、X社の大部分の株式を保有していました。
X社では、自社のハウスで農作物を生産しているのですが、そのハウスの管理はAが行っていました。
また、生産した農産物の選別や出荷についても、Aが判断していました。

3 X社は、ずいぶん以前から継続して、生産した農産物をB社に販売するという取引(以下「本件取引」といいます)をしていました。
本来であれば、X社としては、本件取引に基づいてB社から支払われた販売代金(以下「本件販売代金」といいます)を、X社の銀行口座に送金してもらい、X社の売り上げとして総勘定元帳に計上する必要があります。
しかし、実際には、本件販売代金はA個人の銀行口座に入金され、X社の総勘定元帳に記載されていませんでした。

4 そして、X社に対して税務調査が行われ、上記の経緯が判明したのです。

1 X社として、本件取引による本件販売金をX社の益金に算入していなかったのですから、当然、この点は、不当な経理処理・申告になります。

2 それ以外にも、X社が取得するべき本件販売代金が、A個人の銀行口座(Aの生活口座として使用されていました)に入金されたという点についても、税法上の問題が発生します。

1 所得税法28条1項では、「給与所得」にいう「給与」について、「俸給、給料、賃金、歳費、及び賞与ならびにこれらの性質を有する給与」と包括的に規定しています(形式的な名目は問いません)。

2 そして、国税不服審判所は、代表者など法人経営の実権を掌握し、法人を実質的に支配していると評価できる者が、法人の事業活動を通じて得た法人の資産から、個人的に経済的利益を受けたと認められる場合には、その経済的利益は、法人がその者に対して支給した給与に当たるという判断を示しました。
以前のブログにおいて、法人の給与の支給に関する権限を有する役員が、無断で会社の資産を着服して経済的利益を得た場合、それが、法人の当該役員に対する給与に当たり、法人税法34条(役員給与の損金不算入)の問題となるというお話をしました。それと同じ論理の話になります。

3 本件において、Aは、X社の大部分の株式を保有する取締役であり、生産ハウスの管理や、製品の選別・出荷の判断をしていました。
つまり、Aは、X社にとって、「法人経営の実権を掌握し、法人を実質的に支配していると評価できる者」に当たると言えます。
そして、そのような立場にあるAが、X社が取得するべき本件販売代金を、A個人の銀行口座に送金させ、Aの判断で自由に使えるようにした、ということになります。
したがって、本件において、X社が、本件販売代金相当額の給与を、役員であるAに支給したと判断されました。
つまり、いわゆる「認定賞与」の問題となり、X社に源泉所得税納付義務が発生するのです。

4 これに対し、X社は、以下のような反論をしましたが、一蹴されてしまいました。
その内容について、ご紹介します。

・Aは、自分の口座に入金されたお金が、本来X社に支払われるべき本件販売代金であると知らなかった(つまり、X社の売り上げだと知らなかった)、と主張しました。
このようなAの主張が出ることからも、Aが、いかに日頃から自分の口座を管理しチェックせず杜撰だったかが、窺われるところです。
この点、国税不服審判所は、所得税法にいう「所得」に当たるか否かは、客観的・外形的に見て誰に経済的利益が及んでいるかという基準で判断されるものであり、主観的認識は影響を与えないと判断しています。
「所得ではない」と本人が思い込めば所得税を払わなくて良いという結論はナンセンスですから、この点のX社の反論が否定されるのも、ごく当然と言えるでしょう。

・X社は、本件が発覚した後、株主総会を開催し、A個人の銀行口座に送金された本件販売代金相当額が、X社のAに対する貸付金であり、Aに対して返金を求めることを確認する株主総会決議をしました。
そして、X社は、この決議を根拠に、A個人の銀行口座に送金されたお金は、X社のAに対する貸付金であり、Aとしても返金が義務付けられているから、Aに対する給与に当たらない、という反論をしました。
しかし、国税不服審判所は、A個人の銀行口座に送金された時点で、Aに対する貸付金という話が全く出ていなかった以上、A個人の銀口座に送金され、Aが自由に使える状態になった時点において、X社のAに対する給与に当たることは確定しているという判断をしました。
そして、その後、X社が株主総会において上記のような決議をして、事後的にAに返金義務が発生したとしても、それは、確定的に発生した課税関係を遡って変動させるものではない、という判断を示したのです。
確かに、本件のような問題が発覚したら、事後的に株主総会決議で貸付金であることを確認すれば給与でなくなるというなら、「認定賞与」の抜け穴を認めることになってしまいます。
この点から、X社の反論が否定されたことも、当然と言えるでしょう。

1 本件において、X社は、本件販売代金について、総勘定元帳に計上して益金算入する必要があるにもかかわらず、A個人の銀行口座に入金させて、総勘定元帳に計上しませんでした。また、前述のように、X社は、取締役であるAに対し、本件販売代金相当額の給与を支払っていたことになるので、それを帳簿(源泉徴収の対象となる給与の支払い事実を記載するもの)に記載する必要があるにもかかわらず、記載していませんでした。
これは、まさに、税額等の計算の基礎となる事実の仮装・隠ぺいに当たるので、X社に対し、重加算税(国税通則法1項及び3項)が課せられたのです。

2 なお、通常、国税の更正、決定等の期間制限は、法定申告期限から5年と定められています(国税通則法70条1項)。
しかし、偽り、その他不正の行為により、その全部もしくは一部の税額を免れたり、還付を受けたりした国税については、7年に延長されます(国税通則法70条5項)。
本件において、X社は、不正の行為により売り上げ除外をして、税額を免れたわけですから、7年前に遡って、重加算税の賦課決定処分を受ける羽目になったのです。

1 なお、本件において、X社は、前述した刑事事件における自首のような主張をしたので、それについてご紹介します。

2 そもそも、期限内に申告書を出し、その後、修正申告書の提出や更正があった時は、本来の税額の10%に相当する過少申告加算税を支払う必要があります(国税通則法65条1項)。税務当局との見解の相違など落ち度がない場合でも、過少申告加算税は課せられます。もっとも、修正申告書が提出された場合において、その修正申告が、対象となる国税についての税務調査があったことにより更正がなされることを予知してなされたものでないときには、過少申告加算税は、本来の税額の5%となります(国税通則法65条1項かっこ書き)。
このように、原則的には、理由のいかんを問わず、修正申告や更正の場合には、10%の過少申告加算税が課せられますが、更正を予知せずに自発的に修正申告した場合には、例外的に税率を低くして、自主的な修正申告を促しているのです。

3 本件において、X社は、関与税理士先生の指導の下、本件販売代金をX社の売り上げに計上して修正申告をしました。
そして、この例外規定を根拠に、過少申告加算税が10%にならないと主張したのです。

4 税務調査の結果更正がなされることを予知して修正申告をしたのか、それとも、本当に更正に関係なく自主的に修正申告したのかは、本人の主観だけでなく、客観的経緯も踏まえて判断されます(本人が、「自主的だ」と言い通せば、過少申告加算税が5%になるというのでは、公平とは言えません)。

5 本件においては、最初に、X社の法人税・消費税・源泉所得税などについての税務調査が着手されました。
税務署側は、その時点で、A個人の銀行口座の取引履歴表を入手しており、A個人の銀行口座に、本件取引の相手方であるB社からの入金があることを把握していました。
そして、このA個人の銀行口座が、X社の貸借対照表の預金勘定に計上されていないことも、把握していました。
つまり、税務署側は、X社が、B社からの本件販売代金をA個人の銀行口座に送金させることにより、売り上げ除外しているとの疑念を持ち、税務調査に至ったのです。

6 税務調査担当職員は、X社側に対し、7期分の総勘定元帳を、税務調査の日に用意するよう、連絡をしました。
この税務調査担当職員からの連絡を聞いて驚いたのが、X社の関与税理士先生でした。前述のように、不正な行為をしていない限り、5年間しか遡らないので、税務調査担当職員が、7期分の総勘定元帳を用意するよう求めることはないからです。
関与税理士先生は、Aに対し、「税務署側から、7年間の帳簿を準備するように指示されているからには、何か特別な事情があるのではないか」と質問しました。
これに対し、Aは、関与税理士先生に対し、本件販売代金をA個人の銀行口座に送金させ、X社の売り上げとして総勘定元帳に計上していないことを認めたのです。

7 関与税理士先生は、Aからの説明を受け、大至急で売り上げに計上していなかった本件販売代金を集計した表を作成し、取り急ぎ、税務署側に事情を報告しました。
その上で、関与税理士先生は、除外していた売り上げを計上した修正申告書を作成し、提出したのです。

8 X社が修正申告をしたきっかけは、税務調査担当職員から、7期分の総勘定元帳を用意するよう連絡を受けたことにあります。
7期分の総勘定元帳という、X社が不正行為をしていなければ検証されることのない経理資料の用意を指示されたことに関与税理士先生が疑念を抱き、Aに説明を求めたことから、修正申告につながりました。
X社として、税務署側に7期分の総勘定元帳を用意するよう求められた理由についての関与税理士先生からの説明を受け、売り上げ除外が発覚し、更正がなされることを予知し、修正申告をしたと評価できます。
したがって、到底、X社が、税務調査の結果として更正があることを予知せず、自主的に修正申告したとは認められないので、この点についてのX社の主張は否定されたのです(7期分の総勘定元帳を用意するよう求められていなければ、X社として修正申告をしていなかったであろう、と考えていただければ、イメージしやすいかと思います)。

  

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