一
1 これまで、役員給与が損金に算入されないケースについてご紹介してきました。
今回は、同族経営であることを良いことに、あまりにも露骨に公私混同をして、しかも悪質な仮装スキームまで組み立てたことから、役員給与の損金不算入の更正処分だけでなく、重加算税の賦課決定まで受けたケースについて、実例をカスタマイズして、お話しします。
2 X社は、衣料品の製造や販売などを事業とする同族会社です。
Aは、X社の代表取締役であり、Aの妻であるBが、X社の常務取締役でした。
そして、Aの父親であるCと、Aの義姉であるDが、X社の監査役になっていました。
二
1 復習ですが、法人税法34条2項では、法人が事実を隠ぺいし、または仮装して経理処理した役員給与については、法人の損金に算入できないと規定されています。
2 本件において、X社は、常務取締役であるBに対し、事業年度によって幅がありましたが、役員給与として、年間で1,000万円~1,200万円を支給し、その損金に算入していました。
また、X社は、監査役であるCに対して月額20万円、同じくDに対して月額60万円の役員報酬を支給し、その損金に算入していました。
三
1 本件において問題となったのは、X社がC及びDに支給したとされる役員給与の点です。
2 税務調査の結果、以下の事情(間接事実)が判明しました。
① CおよびDへの役員給与は、X社の総務担当者からBに対し、直接現金手渡しで交付されていた(他の役員や従業員の給与は、銀行振り込みだった)。
② Bが、X社から受領した現金を、B名義の預金口座(B個人のクレジットカード決済等がなされ、Bの個人的なお金が預金されている口座)に入金し、Bのプライベートの支出に充てていた。
③ Bは、総務担当者から受領した給与支給明細書を、C及びDに渡していなかった。
④ Cは、監査役であるものの、X社の決算関係書類の監査をしたことが無く、Bが株主総会において、監査報告をしていた。
⑤ Cは、たまに本社に来て、AやBと世話話をする程度で、X社においてめぼしい仕事をしておらず、株主総会や監査役会に出席したことが無かった。
⑥ Dは、X社の会計監査に全く関与しておらず、株主総会における監査報告もしたことが無かった。
⑦ Dは、X社の仕事のために本社に行ったことが無く、株主総会や取締役会に出席したことも無かった。
3 以上のようなX社にとって不利な事情が判明した以上、X社がCやDに対して支給してきた役員給与(監査役報酬)を、そのままX社の損金に算入することが、著しく不公平であるということは、実感いただけると思います。
四
1 国税不服審判所は、上記の点、特に、Bの意思により管理し、Bが自由に消費する目的で、現金をB名義の預金口座に入金したと評価される点を重視しました。
そして、C及びDへの役員給与として支給された現金は、X社のBに対する役員給与に当たると判断したのです。
2 このように、本来は、Bに対する役員給与なのに、X社が仮装して、C及びDに対する役員給与であると経理処理したことになります。
そこで、結局のところ、法人税法34条2項により、当該役員給与は、損金に算入できないと結論付けられました。
3 また、X社としては、仮装行為をして、本来なら損金算入されない役員給与を損金に算入して、その分X社の所得や納税額を圧縮して申告したと判断され、国税通則法68条1項に基づいて、重加算税の賦課決定も受けることになったのです。
同族会社だから発覚しないと考えたのかもしれませんが、公私混同の代償は高かったと言えます。
五
この実例において、X社は、以下の2つの反論をしました。
安直な内容であると思われますが、X社の代理人弁護士さんも、依頼者の手前、ファイティングポーズを取らなければならないので、ご苦労されたのではないかと推察いたします(個人的には、その気持ちが理解できます)。
以下、反論の内容と、それに対する国税不服審判所の判断について、ご紹介します。
1 一つ目の反論の内容は、以下のとおりです。
① 監査役は、会社法上、個人として法的責任を負っている(会社法381条、385条など。違反した場合には、個人として、会社法429条1項により損害賠償義務を負う)。
② 監査役は、会社に来ていなくても、①の個人責任を引き受ける対価として、当然に、監査役としての報酬を受領する権利がある。
③ よって、本件で監査役C及びDに支給された役員報酬は、C及びD固有の報酬であり、Bに対する役員給与ではない。
2 この点、①の記述は、法的に間違っていません。
しかし、②について、監査役に選任されたからと言って、当然に、会社に対し、監査役としての報酬請求権が発生するというのは、法的ロジックとして誤りと言わざるをえません(無償で監査役をすることもあり得ます)。
また、③については、論理の飛躍があると言わざるを得ません。C及びDが、監査役報酬をX社に請求できるかという問題と、本件におけるX社のC、Dに対する役員給与が、実質的にBに対する役員給与と評価されるかという問題は、全く別次元のものであり、論理必然性がありません。
このような理由から、国税不服審判所は、X社の反論を否定したのです。
3 2つ目の反論としては、X社がC、Dに支給した役員給与について、Bがそのまま借りた(つまり、C及びDが、X社から支給された役員給与を、Bに貸し付けた)のであり、X社のBに対する役員給与ではなかった、というものでした。
そして、X社は、証拠として、C、DがBに対してお金を貸し付けたことが記載された借用書(以下「本件借用書」といいます)を提出しました。
4 しかし、要件事実論という法律論になりますが、金銭消費貸借契約の場合、契約の時点において、貸金返還合意が成立していたことと、実際に貸金が交付された事実が、日時を特定した上で立証されなければなりません。
しかし、本件借用書は、X社が税務調査を受け、この問題点を指摘された日より後の日付で作成されていました。
しかも、本件借用書の内容と、X社がC及びDへの監査役報酬としてBに交付していた現金の額や交付時期とも整合していませんでした。
これらの点から、国税不服審判所は、本件借用書が、C及びDがX社から支給された監査役報酬を、支給の都度、Bに貸し付けていたことを立証する証拠とはならないと判断し、X社の反論を否定しました。
税務調査を受け、問題点を指摘された後、慌てて本件借用書を作成するということは、あまりにお粗末であり、証拠資料の捏造と言われかねないので、絶対にしてはいけません。
最終的に、X社が重加算税の賦課決定を受けたのも、仮装を反省せず、問題点が判明した後なのに、本件借用書を作成してごまかそうとした不誠実な態度が影響し、心証を悪くしたのかもしれないと、個人的には思います。