一
1 以前このブログで取り上げましたが、資産の評価損の損金不算入原則について、深掘りをします。
2 そもそも、法人が、その有する資産の評価換えをして、その帳簿価額を減額した場合には、その金額は、損金の額に算入されません(法人税法33条1項)。
もっとも、政令で定める特段の事実が生じた場合、法人がその資産の評価換えをして、損金経理によりその帳簿価格を減額したときは、例外的に、その評価換えをした時点での事業年度の損金額に算入できることがあります(法人税法33条2項)
3 このように例外的に損金額に算入できるケースとして政令で定められている項目の一つに、「上場有価証券等以外の有価証券について、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したこと」というものがあります。
具体的には、保有している非上場の有価証券について、事業年度終了時点の評価額が、帳簿価額のおおむね50%以下となっており、かつ、近い将来に回復することが見込めないケースをいいます。
4 非上場の有価証券の評価は、必ずしも明確に算出できるものではありませんが、それが外国会社の発行する有価証券の場合には、更に話が複雑になります。
今回は、外国子会社の資産状態が著しく悪化したとして、保有している外国子会社の出資持分の評価損を損金の額に算入したところ、損金算入が認められないとして更正処分がなされたケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。
二
1 X社は、鉄鋼業等を事業とする法人であり、外国にA社という子会社がありました。
A社は、外国会社なので、日本国内の株式会社のように「株式」と表現することはできませんが、X社は、A社に対して出資持分を有しており、これは、「上場有価証券以外の有価証券」に該当します。
2 X社は、A社への出資持分(以下「本件出資持分」といいます)について、「A社の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下した」と判断し、その帳簿価格を減額して、発生した評価損(以下「本件評価損」といいます)をX社の損金の額に算入しました。
これに対し、税務署長側は、資産の評価損の損金不算入の例外に当たらないとして、更正処分をして、バトルがスタートしました。
三
1 本件において、国税不服審判所は、評価損の損金不算入の例外については、
① 「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」
② 「有価証券の価額が著しく低下したこと」
という要件を満たすかを、限定的に判断するという基本方針を示しました。
2 ①について、本件出資持分は、非上場会社の有価証券ですから、A社の純資産額を基にして評価をすることになります。
そして、現時点での本件出資持分に対応するA社の純資産価額が、X社が本件出資持分を取得した時点でのそれに対応する純資産価額よりも、50%以上も下回っている場合には、①の要件を満たすと、法人税法基本通達9-1-9で定められていますし、国税不服審判所も判断の前提としています。
3 では、実際に、本件において、①の要件を満たしていると言えるのでしょうか。
A社が、日本国内の株式会社であれば、財産評価基本通達に基づいて評価することになります。この点は、税理先生の専門分野だと思いますので、割愛します。
本件での特徴は、A社が、外国法人であるという点です。国によって、法人の出資持分の考え方は、異なります。
4 A社の存在するB国では、B国の通貨の額が、出資持分の単位になっていました。
つまり、本件出資持分の評価は、B国の通貨を基準に算出されることになっており、「出資持分の数×B国の通貨=本件出資持分に対応する純資産価額」という算出方法だったのです。
5 そして、この算出方法を本件に当てはめると、現時点での本件出資持分に対応する純資産価額が、持ち分取得時の本件出資持分に対応する純資産価額より50%以上も下回っていませんでした(国の法定通貨の価値が、50%以上も下落するということは、通常考えにくいです)。
したがって、①の要件を満たさないことから、本件評価損を損金の額に算入できないという結論になります。
四
1 本件において、X社は、A社について、「災害による著しい損傷により資産の額がその帳簿価額下回ることとなったこと」(法人税法33条2項)に準じる特別の事実が発生しているので、本件評価損の損金算入を認めるべきであると、主張しました。
X社の主張の背景には、「国の法定通貨の価値を基準にしてA社の純資産価額を算定すると、50%以下の評価になるケースはまず想定しにくいので、事実上、本件評価損を損金額に算入できるケースが無いであろう」という考えがあったと推察されます(法定通貨の価値が50%以下に下落するケースは、考えにくいので)。
2 この点、国税不服審判所は、準じる特別の事実が発生したと考える場合が無いわけではないが、それはごく限定的であるというスタンスを示しました。
つまり、非上場有価証券の場合、
① 災害またはそれに準じる不測の事態により、A社の保有する資産が著しく毀損したことにより、本件出資持分の価額が著しく低下したこと
② 価額の著しい低下が固定的で、回復の見込みがつかないこと
という条件をクリアした場合にのみ、損金額算入を認めるという判断を示したのです。
3 そして、本件の場合、ここまで極端な現象は起きていなかったので、X社の主張は否定され、本件評価損の損金算入は認められませんでした。
五
このように、有価証券の評価損が、損金の額に算入できるケースはごくまれなので、ご留意いただければと思います。