一
1 今回は、労働者に対する賞与のお話です。
2 会社の就業規則などで賞与の支給予定日が規定されており、かつ、実際にその時に支払われる賞与の額が通知されている場合には、その支給日または金額の通知がなされた日のうちの遅い方の時点での事業年度の損金になります(たとえ、実際に支払っていなくても、損金算入されます)。
3 一方、労働者に対する賞与でも、そもそも就業規則などに支給予定日が規定されていない場合があります。
その場合には、原則として、実際に労働者に賞与を支給した時点の事業年度の損金に算入されることになります。
二
1 もっとも、この原則を徹底すると不都合が生じるケースがあります。
それが、決算賞与のケースです。
2 そもそも、決算賞与は、決算完了時点の業績に基づいて支給額を決定し、臨時に労働者に支給する賞与のことです。
臨時に支給される性質のものなので、会社の就業規則などに、決算賞与の規定が無い場合も多いと考えられます。
3 決算賞与は、上限や下限が定められていないので、会社が自由に支給額を決めることができます。また、会社の業績が芳しくない場合には、会社の判断で決算賞与を支給しないことも可能です。
4 会社の業績が良かった時に決算賞与を支給すると、会社が得た利益を労働者に還元できるので、労働者のモチベーションアップにつながります。
また、会社としても、決算賞与として支給した額を、その事業年度の損金に計上できれば、所得を減額でき、節税効果もあります。
三
1 先ほどの原則論からすると、就業規則に支給予定日の定めのない賞与については、実際に賞与を支給した時点の事業年度の損金に算入することになります。
しかし、この原則を徹底すると、決算賞与の意味・効果が損なわれることになります。
2 つまり、決算賞与は、その事業年度が終了した時点での決算の内容を考慮して、相当額の利益が得られたと判断された時に従業員に支給されるものなので、支給時点はどうしても翌事業年度に入ってからになります(事業年度が終了しないと、決算賞与を支給するか否か、及び支給額が具体的に決定できないので)。
そうだとすると、原則論からすれば、決算賞与の支給時点である、翌事業年度の損金に算入されるようにも見えます。
3 この原則論によると、決算賞与として支給した金額を、実際に利益の出た当該事業年度の損金に算入できないことになるので、会社の所得が減らず(利益を減らすことができず)、節税効果が損なわれます。
このような取り扱いだと、会社としても、決算賞与を支給するという考えにならないでしょうし、決算賞与が無く利益の還元を受けられない労働者にとっても、不利益な状態になります。
四
1 そこで、例外として
- 決算賞与の具体的金額を、支給されるすべての労働者に対して、同じタイミングで個別に通知していること
- 当該事業年度終了の日の翌日から1か月以内に、すべての労働者に対し、通知した金額を支払っていること
という条件を満たせば、決算賞与の金額を、当該事業年度の損金に算入できるという扱いになっています。
2 逆に言えば、当該事業年度終了の日の翌日から1か月経過してしまうと、臨時賞与を支払ったとしても、その時点の事業年度の損金に算入せざるを得ません。
このように、「1か月」という軸となる不動の基準を設定していない場合、会社において損金計上時期を自由に動かし、不当な利益調整ができてしまいます。
そこで、国税不服審判所も、この時間制限が適法と判断しております。
五
せっかく、会社の業績が想定より良かったのであれば、労働者に利益還元してモチベーションアップするとともに、無駄な税金は節約したいものです。
そのためのツールとして、決算賞与は効果的と言えますが、一歩間違えば、違法な利益調整と指摘されかねないので、注意が必要です。