一
1 言うまでもなく、法人税は、納税者の「益金」から「損金」を差し引いた「所得」に対して課税されます。
この「益金」に算入する利益や、「損金」に算入する損失の算入時期を、納税者が任意に動かせるとすると、利益調整ができることになり、不当に法人税を免れることになります。
そこで、法人税法では、事業年度を課税の単位にしており、その事業年度に算入された「益金」から、「損金」を差し引いた「所得」について、課税するという、期間損益を課税の前提としています(法人税法22条1項)。
この意味で、適切な時期に、益金または損金に算入しているか、という点は、利益調整を防ぐ意味で、大変重要です。
2 もっとも、一般的に言って、納税者が、経理処理の方法を勘違いしたり、税額の計算間違いをしたりして、本来の「所得」額よりも多い金額を確定申告し、過大に法人税を支払っているということも、少なくありません。
その場合には、税務署等課税機関としては、更正処分を行い、過大に納付された税額を、納税者に還付することになります。
3 ただし、法人税法129条2項により、法人が、仮装経理をした結果、所得を過大に申告したという場合には、その後の法人の事業年度の決算において、「前記損益修正損」などの項目で損金の額に算入し、その後の事業年度の法人税の確定申告において、税額を減額する調整して申告することになっています(これを「修正経理」といいます)。
つまり、仮装経理により所得を過大に申告した場合、更正処分により過分に納付した税額が還付されるのではなく、その後の事業年度において修正経理を行い、修正経理をした事業年度の損金に算入することで、調整をすることになるのです(損金に算入すると、所得の額が減り、法人税が減額されるので、還付したことと同じ意味になります)。
4 そして、この修正経理の方法も、きちんと決められています。
つまり、確定決算の損益計算書の特別損益の項目において、「前記損益修正損」等と計上し、仮装経理を適式に修正した結果を記載するとともに、このような修正をしたことを明確に記載しなければなりません。
このような適正な方法で修正経理をしない場合には、その後の事業年度において、それ以前の損失を損金に計上することができません。
以下、実例をカスタマイズして、お話いたします。
二
1 X社は、有価証券の取引に失敗し、平成2年10月期に、240,000,000円もの有価証券の売却損を出してしまいました。
X社は、本来であれば、平成2年10月期において、この売却損を損金に計上することになります。
しかし、X社としては、平成2年10月期に、これほど多額の有価証券売却損を損金に計上すると、その決算が赤字になってしまいました。
2 そこで、X社は、仮装経理をして、平成2年10月度の有価証券売却損を減額して、法人税の確定申告をしました。
そして、X社は、減額した分については、平成3年10月期から平成7年10月期にかけて、その時点の収益とのバランスで赤字にならないように適当に振り分けて、それぞれの事業年度において損金として計上したのです。
三
1 X社としては、本来であれば、平成2年10月期において、有価証券の売却損が確定的に発生していた以上、全額を損金に計上することになります。
しかし、X社は、これほどの多額の損金を出すと、X社の決算が赤字になるという不利益を避けるため、損金に計上すべき売却損を減額しました。
その結果、X社の所得が増えたので、X社としては、本来課税されない法人税を過分に納付することになりました。
2 本件におけるX社の経理処理は、意図的な仮装経理なので、過分に納付した法人税については、法人税法129条に基づき、修正経理により調整されることになります。
前述したような適式な方法で修正経理がなされず、単純にその後の事業年度において、適当な額を割り振って、損金に計上することは、不正な経理となります。
3 本件において、前述のように、X社は、平成2年10月期に計上すべき有価証券売却損を減額し、減額した分を、適当に割り振って、平成3年10月期~平成7年10月期に、損金計上しました。
しかし、実際には、X社において、平成3年10月期~平成7年10月期に、損金に計上されているような損失の出る有価証券取引が実施されていなかったので、それ自体仮装経理になります。
4 そして、前述のように、適式な修正経理と評価されるためには、確定決算の損益計算書の特別損益の項目において、「前記損益修正損」等と計上し、仮装経理を適式に修正した結果を記載するとともに、このような修正をしたことを明確に記載しなければなりません。
にもかかわらず、X社の確定決算書の損益計算書には、このような記載がありませんでした。
つまり、X社の決算書を見る限り、X社が平成2年10月期に、仮装経理により、有価証券評価損を減額し、その減額分を、平成3年10月期から平成7年10月期にかけて振り分けて、それぞれの事業年度で損金に計上することによって、最終結果を同じにするという修正をしたことが、把握できません。
これでは、適式な修正経理と評価できません。
5 したがって、X社は、修正経理による過大に納付した法人税額の調整をすることができず、かつ、意図的に不正な経理処理を続けたということで、青色申告承認取消処分も受けたのです(青色申告承認取り消しについては、ブログ(19)をご覧ください)。
四
1 この実例では、X社側から、以下の主張が出されたので、最後にご説明いたします。
2 つまり、X社としては、確かに仮装経理をしたし、適式な修正経理をしたと評価されなかったとしても、最終的に、240,000,000円もの有価証券売却損全額を、正確に損金に計上しており、有価証券売却損の金額を操作したわけではないので、結果として変わらないから、問題ないと主張したのです。
3 これは、さすがに強引な屁理屈だと思いますし、国税不服審判所も否定しました。
前述のように、法人税は、益金から損金を差し引いた所得に課税されますので、益金や損金に算入できる金額を自由に取捨選択できるとすると、所得額が変動し、利益調整として法人税を不当に免れることになります。
そこで、事業年度という単位を設定し、その間に算入された益金と損金の差額について課税することになっています(算入の基準がぶれてはいけません)。
つまり、適切なタイミングで益金または損金に算入する義務があり、それと意図的に増額したり減額したりして、所得の額を調整すること自体、違法です。
4 事業をしている以上、調子のよいときも悪い時もあります。ビジネスの調子が良く益金が多いときに、他の事業年度の損金を、その事業年度の損金に計上すれば、所得額が減少するので、法人税額が少なくなります。
一方、ビジネスに失敗して、多額の損失が出た場合に、それを、他の事業年度に振り分けることにより、一事業年度における損金の額を減らせることになります。この方法を使うと、実際には損失が発生しているのに、それが会計書類上現れないので、金融機関が与信判断をする際などに不測の不利益を受けます。
このような不正行為を是認することは、できません。
5 したがって、「最終的に、売却損全額を損金に計上したし、売却損の金額は正確なのだから問題は無い」という言い分は、税法の基本原則に大きく反するので、到底認められないのです。