二次相続が発生した場合の特別受益

1 高齢の夫婦の場合、一方の配偶者が死亡し、その遺産分割が終わらないうちに他方の配偶者が亡くなるというケースも少なくありません。

2 今回は、一時相続の遺産分割途中で二次相続が発生した場合の問題について、実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 AとBは、夫婦であり、AとBとの間には、XとYという子供がいました。

2 Aが死亡したので、B、X及びYがAの相続人になりました。そして、Aの遺産について遺産分割が成立する前にBが死亡しました。

3 Bは、生前Yを可愛がっており、Bに対して特別受益に当たる贈与をしていました。

また、生前に、Bの唯一固有の財産であった不動産をYに相続させるという遺言書を作成していました。

4 Yの言い分は、以下のとおりです。

  • ・Bの唯一固有の財産である不動産は、遺言に基づきYが取得した。
  • ・Bには他に実体法上の権利・財産が無いので、Bについて遺産分割する余地はない。
  • ・したがって、YがBの生前に特別受益に当たる贈与を受けていたとしても、それを持ち戻す必要は無い(Aの遺産について、そのまま分割協議をすればよい)。

5 Xとしては、YがBの生前に特別受益を受けていたのに、それを持ち戻す必要が無いというのは不公平であると主張し、バトルになりました。

1 Bの唯一固有の財産である不動産が遺言に基づいてYに相続されたとして、Bに遺産が無いから遺産分割する余地はないというYの言い分は正当なのでしょうか。

2 この点、共同相続人がいる場合、相続開始から遺産分割までの間、遺産は共同相続人の共有(民法249条~)になるとするのが、最高裁判所の判例です。

つまり、本件でいえば、Aが死亡した時点で、Aの遺産は、共同相続人であるB、X及びYの共有になります。

この共同相続人が取得する共有持分権は、実体法上の権利であり、遺産分割の対象になります。

3 Bは、Aの相続により、Aの遺産について具体的な共有持分権を取得しました。この共有持分権は、B固有の財産になります。

そして、Bが死亡したことにより、Bが有していたAの遺産の共有持分権がXとYに相続されるわけですから、この点において遺産分割する余地はあることになります。

つまり、Bは、不動産だけでなく、Aの遺産に対する共有持分権も有しており、この共有持分権は遺言の対象になっていない以上、Bの共同相続人であるXとYで遺産分割することになります。

4 そして、この遺産分割は、Bの相続についての遺産分割ですから、Bが生前にYに対して特別受益に当たる贈与をしていた以上、それは持ち戻しの対象となります。

BがAの遺産に対して有していた共有持分権に、Yの特別受益を持ち戻したうえで、XとYの具体的相続分が算出されることになります。

1 本件では、遺産分割が成立しておらず、誰がどの遺産を取得するか決まっていない段階であっても、共同相続人は、遺産について具体的な共有持分権を持つという点がポイントになります。

共有持分権という具体的な権利が、Bの遺産を構成するという結論になります。

2 そこで、本件の例で言えば、Bが、特定の不動産に限定せず、「Bの一切の財産をYに相続させる」という内容の遺言書を作成しておけば、遺産分割の余地は無いので、Yとしても特別受益を持ち戻す必要は無くなります。

この場合には、Xは、Bの相続については、Yに対する遺留分侵害額請求をして、遺留分相当額のお金を確保するしかないことになります。

そして、Aの遺産については、Bの相続における特別受益は影響しないので、そのまま遺産分割することになります(持ち戻しにはなりません)。

3 遺言書の作り方一つで、大きく権利関係が変動することを端的に示す事例といえます。

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