離婚による財産分与の範囲

離婚事件において大きな争点の一つが財産分与です。
今回は、どの範囲まで財産分与の対象になるのかについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 妻Xと夫Yは離婚することになり、XがYに対して財産分与請求をしました。

2 財産分与においては、XとYが婚姻期間中に形成した財産を清算するために、分与内容を取り決め、合意できない場合には、最終的に裁判所が判断します。
そして、特段の事情が無い限り、分与割合は平等とされています。

1 財産分与の対象となるのは、プラスの財産だけではなく、債務も対象に含まれます。
本件においては、ゴルフ会員権や投資用マンションを購入するために、Y名義の債務がありました。

2 裁判所は、Y名義の債務であっても、夫婦共同生活の中で生じたものについては、債務の対価により受けた利益の程度に応じて、財産分与として、Xにも分担させるという判断をしました。
そして、その分担割合は、プラス財産と同様、特段の事情の無い限り平等と判断されています。

3 XとYは、夫婦でゴルフをするためにゴルフ会員権を購入していました。また、夫婦共有財産を活用・運用する目的で、投資用マンションを購入していました。
つまり、Y名義の債務は、夫婦共同生活の中で生じたものといえます。
そして、分担割合を変更すべき特段の事情も認められなかったので、当該債務については、XとYが平等に負担することになりました。

1 Yは会社員で、あと6年勤務すれば定年退職となり、退職金が支給される予定になっていました。
この退職金について、Xは、財産分与の対象に含まれるとして、その分与を請求しました。

2 この点、退職金には、賃金の後払いとしての性格があります。
賃金には、夫婦として共同生活をしていた際のXの貢献が反映されているので、賃金の後払い的性格のある退職金が、財産分与の対象になるという結論自体は、明らかとされています。

3 もっとも、Yは、離婚後の将来の退職金についても、Xに財産分与しなければならないのでしょうか。

4 確かに、定年退職するまでに長い時間的間隔があるという場合、経済情勢の変化、給与体系の変化、会社の経営基盤の変動といった不確定な要素もあります。
そこで、将来退職金を受け取れる可能性が高い場合には、将来受給する予定の退職金のうち、夫婦の婚姻期間に対応する分を算出し、これを現在の額に引き直したうえ、財産分与の対象にすると裁判所は判断しています。

5 本件において、Yはあと6年で退職金を受給する予定であり、勤務状況にも特段の問題が無かったので、6年後には予定の退職金額を支給される可能性が高いと判断されました。
そこで、6年後の定年時に支給される退職金額に、6年のライプニッツ係数を掛けて現在の額を算出し、それが財産分与の対象になると判断されたのです。

1 離婚後の将来の退職金については、財産分与の時点で具体的な金銭債権として発生していないので、ある程度事実関係をみなして考えることになります。

2 本件では、6年後の定年時に、予定されている退職金が支給される可能性が高いと判断されました。
もっとも、この6年という年数は、絶対的なものではないと考えられます。勤務している会社の事業規模や、これまでの勤務年数・キャリア、勤務先での地位や労働環境面も考慮した上で、将来退職金が支給される可能性が高いか否かが判断されるものと考えられます。

1 なお、財産分与においては、慰謝料的要素や扶養的要素も踏まえて判断されることがあります。

2 たとえば、当事者の一方に不貞行為のような離婚の原因がある場合には、その慰謝料を支払うのに代えて、相手方当事者が多く財産分与で財産を取得するということもあります。

3 また、離婚することにより、当事者の生活が困窮し、扶養が必要という場合には、その状況を踏まえて、財産分与割合が変動することもあるのです。

投稿記事一覧へ