一
1 地方公共団体が運営する公営住宅にて居住している人も少なくありません。
公営住宅に居住している人が亡くなった場合、その相続人が、引き続き、その公営住宅を使うことができるのでしょうか。公営住宅を使用する権利が、相続により相続人に引き継がれるのかが、問題となります。
2 例えば、公営住宅に居住していたAが死亡したので、その相続人であるXが、当該公営住宅の使用権を相続したと主張して、当該公営住宅を継続して使用できるかというケースが考えられます。
二
1 この点、公営住宅ついては、公営住宅法という法律が適用されます。
そして、公営住宅法に規定がない事項については、民法や借地借家法が適用されます。この意味では、公営住宅の使用については、基本的には、民間の建物賃貸借関係と変わらないことになります。
2 そして、公営住宅法には、公営住宅の使用権の相続に関する明文規定がありません。
そうであれば、Aの使用権をXが相続して、Xが引き続き当該公営住宅を使用することができるようにも思えます。
三
1 しかし、公営住宅は、文字通り公的な目的で運営されている住宅ですから、相続人だからといって、特に必要の無い人に引き続き公営住宅を使用させ続けることは望ましくありません(むしろ、より公営住宅の使用を必要とする人が、広く公営住宅を使用できるようにする方が、公共の目的に適います)。
2 そこで、裁判所は、公営住宅法が、公営住宅の使用権の相続を否定した特別法であると解釈し、入居者の相続人が公営住宅を使用する権利を、相続により引き継ぐことはないと判断しました。
3 このように、公営住宅の入居者であったAが死亡したとしても、その相続人であるXが当該公営住宅の使用権を相続するわけではないので、Xが引き続き当該公営住宅を使用することはできないということになります。
四
1 もっとも、このような結論になると、Xが、当該公営住宅で生活していた同居者だった場合に不都合が生じます。
Aの名前で公営住宅を借りていたけれども、実際にはAとXが当該公営住宅で同居していたという場合、Aが死亡し使用権が相続人に相続されないとすると、Aが当該公営住宅に住み続けられなくなり、生活の場に困るという問題が発生しえます。
2 そこで、公営住宅を運営する地方公共団体では、条例により、入居者が同居の親族(内縁関係も含みます)を残して死亡した場合、その同居の親族に使用権を認める規定を設けているケースが多いのです。
条例によりこのような規定が設定されていれば、同居のXが当該公営住宅に居住できないという不都合を回避することができます。
五
1 このように、公営住宅法では、公営住宅の使用権について相続が否定されているのに、条例では同居の親族に公営住宅の使用が認められているのは整合性を欠くと思われるかもしれません。
2 しかし、条例は、公営住宅の使用権の相続を認める趣旨ではありません。
公営住宅法により公営住宅の使用権を否定した上で、条例により、本来使用権の無い同居の親族に対し、地方公共団体が別途許可をして、当該公営住宅を使用する権利を特別に認めるという法的論理になるので、法律と条例で矛盾することにはならないのです。