ホストは、労働契約か

1 ホストクラブで働くホストは、労働者に当たり労働契約に関する法令が適用されるのでしょうか。

2 この点が争われたケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 ホストクラブにおいては、基本料金(席料)が設定されており、その他に飲食代金が必要になります。
飲食代金に応じてホストの指名料が加算され、その指名料は、ホストの人気度によって変動していました。

2 ホスト側は、勤務時間が午後5時から午前0時30分までと指定されており、基本給が1日3000円となっていたことなどから、ホストとホストクラブは、労働契約関係にあると主張しました。

3 これに対し、ホストクラブ側は、ホストは自営業であり、労働契約関係には無いと主張し、バトルになりました。

1 この点、裁判所は、ホストの収入体系について重視しました。
ホストの収入は、報酬、指名料、及びヘルプの手当で成り立っていますが、いずれも売り上げに応じて決定されており、勤務時間がとの関連性は薄いと言えます(長時間働けば収入が増えるという訳ではありません)。
短時間の勤務であっても、売上を多く出していればホストの収入は増えるのであって、これは自営業の特徴に馴染むものと言えます。

2 また、勤務時間は、午後5時からとされていましたが、いわゆる同伴をするホストについては、出勤時間は自由であり、また指名客がいる場合には、勤務時間中でも外出して迎えに行くようなこともありました。
つまり、ホストクラブでは一応勤務時間が設けられていましたが、ホストと指名客との予定の方が優先されており、時間的な拘束が強いとは言えませんでした。

3 さらに、ホストは、屋号(源氏名)を使用して接客していること、仕事中に着る服は自腹で用意していること、指名客を確保するためのプレゼントも自腹で用意していること、客の売掛金回収もホストの責任で行っていること、ホストには家族手当・交通費の支給や社会保険料の控除が無いこと、といった事情もありました。

4 このような点から、ホストは、独立して自らの才覚・力量で客を獲得して、より多くの接客をして自分の収入を上げるものであり、ホストクラブから指揮命令を受ける関係にあるとは言えません。
そこで、裁判所は、ホストについて自営業者であり、ホストクラブと労働契約関係には無いと判断したのです。

1 以下は私見ですが、この裁判例は、広く一般的に適用されるものではないと考えます。ホストクラブの特性を重視した限定的な裁判例であると、私は考えます。

2 本件裁判例のポイントは、ホストの収入が、報酬、指名料、及びヘルプの手当で成り立っており、いずれも売り上げに応じて決定されるという点にあると考えられます。
つまり、例えばキャバクラやクラブなどのように、ホステスの固定時給が決まっており、働いた時間に対応する時給が支給され、指名や飲み物などの注文を受けた場合にはインセンティブがもらえるという収入体系の場合、前提が大きく異なると考えられます。
このような場合、前述したホストの場合と異なり、勤務時間との関連性、時間的な拘束が強いと考えられるからです。

3 また、同伴について、上記の話は、ホストクラブの指示なく、ホストが自主的に同伴しているという前提でした。
キャバクラやクラブの中には、店舗側が同伴件数のノルマを設定したり、同伴件数が少ないと時給を減額したりするなど勤務条件を不利益に変更するケースも散見されます。
そのような場合には、店舗から指示命令を受ける関係にあると評価され、労働契約関係にあると判断されるケースも十分あり得ると考えられます。

以上の点から、ホストやホステスの場合、一律に自営業であり、労働契約関係にないと判断するのは、早計であると思います。
ホストやホステスの収入の構成を中心に、時間的拘束の強さや店舗からの指示命令関係の程度を個別に検討し、事例ごとに労働契約関係にあるか否かを判断するべきであると私は考えます。

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