法定年次有給休暇の指定

今回は、雇止め事案で、法定年次有給休暇の指定が問題となったケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 Xは、Y社と有期労働契約をしていました。

2 有期労働契約であっても、①過去に反復して更新されており、期限のない労働契約における解雇と社会通念上同視できる場合、②労働者が、契約更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合には、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない雇止めは許されず、同一の条件で労働契約が更新されたものとみなされます(労働契約法19条)。

3 Y社は、Xが、Y社の計画的有給休暇付与制度に反して、正当な理由なく欠勤していたことを理由に、Xとの有期労働契約を更新しませんでした。
これに対し、Xが、この雇止めに客観的に合理的な理由が認められないとして、地位確認の訴訟を提起し、バトルがスタートしました。

1 法定年次有給休暇(労働基準法39条1項、2項)については、原則として労働者の請求するタイミングに与えなければなりません(労働基準法39条5項本文)。
もっとも、労働基準法39条6項にいう労使協定があれば、年間5日を超える部分については、法定年次有給休暇を与えるタイミングを会社側が指定できます。

2 本件において、Y社では、就業規則で、Xら労働者に対し、法定年次有給休暇を超える年間20日の有給休暇を与えると定めていました。
つまり、Y社においては、法定年次有給休暇と、Y社独自の有給休暇(以下「会社有給休暇」といいます)があったのです。
なお、会社有給休暇は、労働基準法の適用の無い制度なので、Y社の判断で、休暇の日を指定できます。

3 Y社では、計画的有給休暇付与制度を取っており、法定年次有給休暇と会社有給休暇を区別することなく、15日を指定していました。
Xは、この制度に反し、休暇に指定されていない日に有給休暇を取ることを繰り返していたので、Y社は、Xについて雇止めをしたのです。

1 この点、裁判所は、Y社の計画的有給休暇付与制度において、法定年次有給休暇と会社有給休暇を区別せずに15日と指定していたことを問題視しました。
つまり、指定された有給休暇のうちどれが法定年次有給休暇であり、どれが会社有給休暇なのか特定できない以上、全体として指定は無効であると判断したのです。

2 このように、Y社の計画的有給休暇付与が、全体として無効と評価される以上、原則通り、Xとしては自分の好きなタイミングで有給休暇を取得することができたのであり、Xは、正当な理由なく制度に違反したわけではないことになります。

3 本件において、Xとしては、本来行使できる有給休暇に関する権利を、原則通り行使しただけであり、それをもって雇止めの理由にすることは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないことになります。

会社側として、労働者の権利を制限しようとする場合には、その合理的な理由が必要なことは当然ですが、その制限が何の権利に対応するものなのか、その紐づけを明確にしておく必要があると言えるのです。

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