一
1 そもそも、日本では、居住者が、世界中で発生する所得に対して課税される制度なので、国外で得た所得に対しても日本の所得税が課せられます(所得税法7条1項1号)。
一方、その所得が発生した現地国でも、現地国の税制に基づいて課税されることになります。
つまり、同じ所得に対して、日本と現地国の双方で税金が課せられるという二重課税の問題が発生することがあります。
この二重課税の問題を防ぐために、日本に居住する者が外国で納付した税金を、日本の税金から控除する制度が設けられています(所得税法95条。以下「外国税額控除」といいます)。
2 外国税額控除の適用条件としては、①居住者であること、②国外所得を得ていること、③確定申告をすることがあります。
3 このうち、③について、(1)外国税額控除を受ける金額及びその計算に関する明細を確定申告書に記載すること、(2)外国所得税を課せられたことを証明する書類を添付すること、という厳格な要件が規定されています。
二
1 この確定申告に関する条件について、やむを得ない事情がある場合には、条件を満たさなくても、外国税額控除が認められるケースもないわけではありません。
2 どのような場合に例外的取り扱いが認められるのでしょうか。
この点、国税不服審判所は、客観的に見て、納税者本人の責任でないという場合だけ例外と認め、納税者の個人的な事情による場合には、例外として認めないという大変厳格な判断を示しています。
実務上は、税務署員が、法定申告期限までに納税者からの質問に回答しなかったり、申告するよう指導しなかったりした結果、③の条件を満たさなかったということもありますが、その場合でも、客観的にやむを得ない事情があるとは言えず、外国税額控除は認められません。
「法律を知らなかった」というような個人的事情で課税関係が変動するのは、公平ではないからです。
三
1 なお、外国の銀行の外国の支店にある銀行口座の預貯金の利子も、利子所得として所得に含まれます。
外国法に基づいて組織され事業を行っている外国の銀行の預貯金であっても、所得税法上、日本国内の銀行と区別して規定されていないことから、日本国内の銀行の預貯金と同じ扱いになります。
2 この点に関してトラブルになったケースについて、お話いたします。
四
1 外国の銀行の外国の支店にある預貯金の利子について、外国で課税されたとしても、適式な確定申告をしておらず、外国税額控除を受けられない場合、利子についての所得税額をそのまま納付する必要があります。
2 このような事態になった人が、同じ利子について、外国と日本で二重に課税されることになるので、それを避ける必要があると主張しました。
具体的には、外国の銀行の外国の支店における預貯金の利子は雑所得に当たり、外国で納税した分は雑所得の計算上必要経費になるので、外国で納税した額を差し引いた額を所得とするべきであると主張したのです。
3 しかし、国税不服審判所は、前述のように、所得税法が、日本国内の銀行の預貯金と外国の銀行の預貯金を区別せず同一の規定をしていることを理由に、雑所得ではなく利子所得であると判断しました。
利子所得である以上、それを獲得するための必要経費は、概念として考えられません。
また、外国で利子に対する税金を払ったから、利子所得が増えたという因果関係も無いので、さすがに必要経費と捉えるのは無理があります。
五
1 税法に限ったことではありませんが、「法律を知らなかった」という弁明は通用しないので、弁護士としても、最新の法令をアップデートするよう、努めております。税法に関しては、税理士先生にご相談してアドバイスを頂き、一般法については、弁護士にアドバイスを求めていただいて、お互い、「法律を知らなかった」ことによりクライアントに迷惑がかかるようなことにならないよう、気を付けましょう。