実質所得者課税とダミー

1 所得税法12条では、資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして所得税を課税する、と規定しています(実質所得者課税の原則)。

2 取引の間にダミーを介在させることによって、実質所得者課税の原則を潜脱しようとするケースもあります。

3 今回は、この実質所得者課税の原則の潜脱行為と疑われたケースについて、実例をカスタマイズしてお話しします。

1 Aは、自宅の土地(以下「本件土地」といいます)を所有していました。

2 Aは、平成16年に亡くなり、Xが本件土地を相続により取得しました。

3 Xは、平成17年に、Bに対し、Bへの債務の代物弁済として、本件土地の所有権を移転しました。

4 Bは、平成20年に、本件土地をCに売却しました。

5 税務当局は、平成17年におけるXのBに対する代物弁済について、その債務を捏造したものであって無効であり、平成20年にCに売却した時点で本件土地の所有者はXなので、Xに本件土地売却についての譲渡所得が発生するとして、所得税の決定処分をしたのです。

1 本件において、外形的に見れば、XのBに対する債務があったことを示す証拠(金銭借用証書など)があり、かつ、XがBに代物弁済をする際の書類も整っており、それに基づいた所有権移転登記手続きもなされています。
このような代物弁済について、原因となった債務が捏造であり、代物弁済が無効であると主張するには、税務当局において、十分に合理的な間接事実を主張・立証する必要があります。

2 Xが、実質所得者課税の原則を潜脱するために、Bへの債務を捏造し無効な代物弁済をした上で、本件土地をCに売却するという一連のプロセスにおいて、X自身が一定の関与をしている必要があります。
なぜならば、全く売買に関与しておらず、収益も得ていないという場合には、実質所得者課税の原則からして、所得税課税の前提を欠くからです。

3 代物弁済の原因である債務が捏造であるということを、間接事実から証明することは、大変困難です。
本件において、税務当局側は、無効な代物弁済やCへの本件土地の売却について、Xが一定の関与をしていたことを、間接事実から立証することができませんでした。
そこで、Bをダミーとして介在させたと認定することはできず、本件土地のCへの譲渡による所得がXに発生したとは言えないので、Xに対する所得税の決定処分は違法であると、国税不服審判所は判断したのです。

1 本件においては、民法の理論からしても、税務当局の判断には、無理があると判断されました。

2 本件において、XのBに対する代物弁済が無効であり、Xが本件土地の所有者だったとしても、それをもって直ちに、本件土地の売却契約の当事者が、XとCになるわけではありません。
民法561条により他人物売買契約も法的に有効とされます。
つまり、本件でいえば、Bがたとえ本件土地の所有権者でないとしても、BC間の本件土地売買契約は民法上有効であり、BC間に債権債務関係が発生します(他人物売買契約の場合、それにより直ちに対象物の所有者に契約関係が発生するわけではありません)。

3 このように、Xが本件土地の所有者だったとしても、BC間の他人物売買契約の効果はBCにのみ及ぶので、Xの収益にはならず、いずれにせよ、本件土地の譲渡所得がXに発生したとして、所得税を課税することはできないと、国税不服審判所は判断しました。

1 税務係争のロジックを検討する上では、税法だけでなく民法の知識も必要です。民法の知識が乏しくて、法律構成を間違えて、国税不服審判所で主張がはねられるというのは、ちょっと恥ずかしいかもしれません。
とはいえ、民法は範囲が広いので、税理士先生が、すべての知識を網羅することは困難かと思います

2 民法は、弁護士にとって、最もなじみがある法分野ですから、是非弁護士との協同をご検討ください。

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