不動産所得の課税事業者

1 不動産を賃貸して賃料収入を得る不動産所得についても、実質所得者課税の原則から、収益の原因となる資産の真実の権利者が誰なのかにより、課税対象者が判断されます。

2 もっとも、この点が明らかでない場合には、所得税基本通達12-1により、当該資産の名義人が、実際の権利者であると推定されます。

3 今回は、所得税基本通達12-1により推定してよいのか否かが問題となったケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 Aは、ある場所に土地を有しており(以下「本件土地」といいます)、Aの子であるXは、本件土地上に建物を所有していました(以下「本件建物」といいます)。

2 本件土地については、B社との間で、土地賃貸借契約が締結されていました(以下「本件賃貸借契約」といいます)。
土地の賃貸借契約ですから、本件賃貸借契約は、本件土地の所有者であるAと賃借人Bとの間でなされます。
そこで、Xは、本件賃貸借契約による不動産所得はAに発生し、Xには関係ないと考えて、これをXの所得に含めずに申告しました。
これに対し、税務署長側は、本件賃貸借契約による不動産所得も、Xの所得に含める更正処分等をしたことから、バトルがスタートしました。

1 所得税基本通達12-1によると、本件土地の所有名義人はAなので、Aが権利者として本件賃貸借契約の収益を得ている(Aの不動産取得になる)と推定されるようにも見えます。
問題は、本件において、「収益の原因となる資産の真実の権利者が誰なのか不明」と言えるかという点です。

2 本件には、以下のようなポイントがありました。
① B社は、本件建物を、ショールーム及び事務所として使用していました。
② B社は、本件土地の空き部分について、ショールームに来る客等のための駐車場として使用していました。
③ 本件賃貸借契約の約定には、本件建物を解体したり、新しい建物を建築したりしてはならないと定められていました。

3 このような点から、本件賃貸借契約は、形式的には本件土地を対象にしているけれども、実際には、本件建物ありきの契約であり、本件建物がメインであるから、本件建物の所有者であるXが収益を受けており、Xに不動産所得が発生していると、国税不服審判所は判断しました。

1 たしかに、形式上、賃貸借契約書の賃貸人を他の人にしておけば、その他人の不動産所得になるというのでは、都合よく、課税所得の調整ができることになります。

2 本件賃貸借契約の借主であるB社としては、本件建物を使用することを主目的としており、そのために必要な範囲で本件土地を賃借するという認識です。
したがって、本件賃貸借の対象は本件土地であり、本件土地所有名義人であるAに収益が帰属すると主張するのは、さすがに無理があると言えるでしょう。

1 なお、本件においては、Xに重加算税の賦課決定処分がなされ、それについても争われたので、ご紹介いたします。

2 これまでこのブログでもご紹介してきたとおり、納税者が、過少申告をしたことについて、隠ぺい・仮装という不正手段を用いた場合、過少申告加算税よりも重い行政上のペナルティーである重加算税が課せられます。
重加算税を課すためには、過少申告行為があったというだけでは足りず、別途、「隠ぺい」や「仮装」と評価できるような事実関係が存在し、それが原因となって過少申告がなされた、といえることが必要です。

3 本件において、B社が本件賃貸借契約に基づいて支払った賃料が、第三者であるC名義の銀行口座に振り込まれていました。
税務署長側は、このように、B社からの賃料をC名義の銀行口座に振り込ませていたことが「隠ぺい」に当たるとして、Xに重加算税を課したのです。

4 しかし、本件において、本件賃貸借契約による不動産所得(賃料収入)が、Xの課税所得に含まれると判断されたわけですから、その時点で課税標準や税額は確定しています(この後に、B社からの賃料がどこの銀行口座に振り込まれたとしても、課税標準や税額に変動はありません)

5 前述のように、納税者の隠ぺい・仮装行為に基づいて、課税標準や税額が変動し、過少納税になった場合に重加算税は課せられます。
本件において、第三者C名義の銀行口座にB社からの賃料を振り込ませることは、不自然であろうとは思います。
しかし、そもそも、本件賃貸借契約に基づくB社からの賃料自体が、Xの課税所得に含まれている以上、Xが自分のお金をどこに動かしてもXの自由という話になり、課税標準や税額に変動はないので、重加算税を課す前提を欠くと、国税不服審判所は判断しました。

6 この点のポイントは、納税者が、別途隠ぺい・仮装行為をしたか否か、そして、それによって、過少申告という結果につながったか、という点にあると言えます。

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