破産財団である株式の配当と所得税

1 以前のブログでご紹介した通り、所得税法9条1項10号では、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合において、破産手続き等の強制換価手続きによる資産の譲渡による所得については、所得税を課さないと規定されています。

2 破産手続きが開始される以上、「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」と言えるのが通常と思いますが、どのような場合に「資産の譲渡」に該当するのでしょうか。

3 この点が問題になったケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 Xは、裁判所から破産手続き開始決定を受け、A弁護士がその破産管財人に選任されていました(以下「A管財人」といいます)。破産法上、破産管財人は、破産財団(破産時に破産者の保有していた財産)の管理及び処分の権限を有しています。

2 Xは、B社の株式を保有していました(このB社の株式は、破産財団に含まれます)。B社は、剰余金を原資として配当をすることを決定し、Xの保有するB社株式についても配当がなされました(正確に言えば、A管財人が、配当を受ける権利を行使して、破産財団であるB社株式について配当金が支払われました。以下「本件配当」といいます)。

3 本件配当は、A管財人の判断で請求されたものであり、Xが関与することはできません。そして、実際の配当金も破産管財人の管理口座に入金されます。

つまり、Xとしては、いわば強制的に、本件配当を受けさせられたと言えます。

4 Xとしては、本件配当を受けることが、所得税法9条1項10号にいう「資産の譲渡」に当たり、「債務の弁済が著しく困難な状態において、強制的な手続きで本件配当を受けたのであるから、本件配当には所得税が課せられない」と判断し、本件配当の所得を申告しませんでした。

5 これに対し、税務署長側は、本件配当は、所得税の対象である所得であると判断する決定処分、及び無申告加算税の賦課決定処分をして、バトルがスタートしました。

1 本件のポイントは、本件配当が、所得税法9条1項10号に定める「資産の譲渡」に該当するか、という点です。

2 この点、国税不服審判所は、「資産の譲渡」について、「資産の権利帰属主体たる地位や所有権を移転させるための行為」を指すという判断を示しました。

「譲渡」という用語を自然に解釈した結果と言えます。

3 そして、本件配当を受ける権利は、株式を保有する株主の権利です(株主が、自分の株主という地位・権利に基づいて、配当を受けることになります)。

つまり、B社の株主であるXが、自己の株主としての地位・権利に基づいて、B社から本件配当を受けたのであり、本件配当を受ける地位・権利が第三者に移転したわけではありません(本件配当金がXの破産財団に含まれるからです)。

4 したがって、いくら破産手続きという強制換価手続きの場面だったとはいえ、本件配当を受けることは、「資産の譲渡」に当たらないので、本件配当の所得については、原則通り所得税が課せられることになります。

1 なお、本件において、Xは、A管財人が源泉徴収義務を負い、X自身が所得について申告する義務は無いから、Xに無申告加算税が課せられるのは不当であるという主張をしましたので、この点についてご紹介します。

2 所得税法181条1項では、「居住者に対し、国内において、配当所得に当たる配当を支払う者は、その支払いの際、所得税について源泉徴収しなければならない」旨を定めています。

Xは、破産管財人が、破産財団である本件配当を管理・処分する権限のある立場であるから、「配当を支払う者」にあたり、A管財人が源泉徴収義務を負うので、Xが配当所得を申告しなくても落ち度はないと主張したのです。

3 この点、国税不服審判所は、破産管財人が、破産者から独立した立場で、破産法上の職務執行に当たる者である点を重視しました。

つまり、A管財人は、Xの破産財団について、管理・処分する権限がありますが、A管財人とXが、直接の債権債務関係に立つわけでもなければ、A管財人がXに対して所得税課税財産を支払う訳でもありません。

4 したがって、A管財人は、「配当を支払う者」に当たらず、源泉徴収義務を負うわけではないので、Xの主張は認められませんでした。

1 また、Xは、本件配当による所得を申告し納付する義務を負うのはA管財人であり、Xとして申告義務は無いという主張もしました。

つまり、破産者が法人である場合には、破産管財人が申告と納付を行う義務があるから、本件のように破産者が個人である場合も、破産管財人が本件配当の所得を申告し納付する義務があり、Xにこのような義務は無いと主張したのです。

2 しかし、そもそも、所得税は、1年間における各個人の財産、事業、就労などによる各種の所得を、総合的に一本化した総所得額に対して課税する税金であり、個々の所得内容に応じて課税されるわけではありません。

破産手続き開始決定後に得られた所得については、破産者個人が申告・納付しなければなりませんが、本件配当による所得だけ、破産管財人が申告・納付する義務があると解釈するのは、所得税の本来の制度と整合しません。

3 したがって、国税不服審判所は、A管財人はXの破産財団を管理処分する権限はあるが、本件配当のように破産財団が生み出した所得の申告・納付義務までは負わないと判断しました。つまり、X個人が、本件配当の所得について、申告・納付する義務があるという結論になります。

1 破産手続きにおける税務上の問題については、税法だけでなく破産法の知識や理解が求められます。特に、破産法は、全債権者に対する公平な財産配当という理念がありますので、制度も複雑です。

2 破産事件は、弁護士の活躍する法分野の一つと言えますので、この点に苦手意識を持つ税理士先生は、是非弁護士との協同をご検討ください。

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