一
1 金銭債権は、実際に回収していなくても、債権として発生している以上、益金に算入されます。
この点、その金銭債権の一部が貸倒れなどによって回収できず、損失が見込まれる場合があります。
貸倒れによる損失を、「事実上の貸し倒れ」として損金に算入できるのは、債権金額の全額が回収不能となった場合が原則です。
したがって、債権額のうち一部でも回収することができる場合には、そもそも貸倒れ損失を損金に算入できないのが原則になります(貸倒れ損失については、以前のブログでご紹介しましたので、ご参照ください)。
もっとも、例外的に、損金算入ができるケースもあります
2 この点については、関連法令が複雑なのですが、できる限りシンプルにお話しします。
二
1 法人税法52条1項では、政令で定める場合において、金額の一部につき貸倒れ等の理由で損失が見込まれる金銭債権(以下「個別評価金銭債権」といいます)について、その損失の見込み額を、貸倒引当金勘定に繰り入れて損金経理した場合、政令の規定により計算した金額(以下「個別貸倒引当金繰入限度額」といいます)を、損金の額に算入すると規定しています。
2 そして、法人税法施行令96条1項3号では、個別貸倒引当金繰入限度額について、その個別評価金銭債権の額(ただし、担保権の実行により回収の見込みがあると認められる金額を除く)の50%に相当する金額と定められています。
3 さらに、法人税基本通達11-2-5では、「担保権の実行により回収の見込みがあると認められる金額」の一例として、抵当権によって担保されている部分の金額をいうと定めています。
4 以上の法令をまとめると、「金額の一部につき貸倒れ等の理由で損失が見込まれる個別評価金銭債権について、その損失の見込み額を貸倒引当金勘定に繰り入れて損金経理した場合には、抵当権によって担保されている金額を除いた個別評価金銭債権の額の50%を、損金の額に算入するということになります。
三
1 本件でご紹介する問題は、「抵当権によって担保された金額」の意味内容です。
「抵当権によって担保された金額」が少なければ、その分、個別貸倒引当金繰入限度額が増え、損金算入額が増えることになるからです。
2 この点、抵当権の対象不動産の評価額が、「抵当権によって担保された金額」に当たるようにも思えます。
なぜならば、抵当権を実行して、競売により現金化された不動産の評価額が、抵当権者の債権の弁済に充てられるからです。
3 もっとも、抵当権者が、抵当権の実行として裁判所に競売手続きの申立てをする場合、裁判所に対し、競売手続き費用を事前に収める必要があります。
この手続き費用は、結構高額であり、地域や裁判所によって異なりますが、一筆の土地であっても100万円単位の費用を納める必要があります(複数の不動産について競売を申し立てると、大変な手続き費用負担になります)。
4 このように、競売手続きによって、対象不動産を現金化して、抵当権者の債権に充当されたとしても、抵当権者が競売手続き費用を負担するとなると、プラスマイナスして、競売手続き費用の額が債権に充当されないということになります。
つまり、抵当権者に競売手続き費用の額の負担が発生する以上、その費用額を「抵当権によって担保された金額」から差し引いて、個別貸倒引当金繰入限度額を計算するのがフェアではないか、という問題が発生するのです。
四
1 この点、国税不服審判所は、以下のとおりの判断をしました。
2 本来、競売手続き費用は、債務者が負担すべきものであり、抵当権者としては、債務者の代わりに競売手続き費用を裁判所に収めるというロジックになります(したがって、競売により想定外に高額で売却できた場合には、抵当権者としては、手続き費用と自分の債権の双方の返済を受けることになります)。
3 しかし、債務者としても、返済に窮して抵当権実行という事態に至っている訳であり、しかも、競売手続きは一般の不動産売買よりも安値になる傾向があるので、抵当権者が収めた競売手続き費用を回収できず、抵当権者の負担になるケースが多いと考えられます。
4 このように、抵当権者が収めた競売手続き費用額を別途回収する見込みがない場合には、競売対象不動産の評価額から、競売手続き費用を差し引いた残額が、「抵当権によって担保された金額」に当たるという判断が示されたのです。
5 国税不服審判所は、競売手続き費用が事実上抵当権者の負担となり、その金額分について、対象不動産の評価額が下がるのと同じ結果になるという実情を重視して判断したと言えます。