一
1 ゴルフ場運営会社においては、自社の株式と、運営しているゴルフ場の会員権を合体させて、事業資金を募っている会社も少なくありません。ゴルフの好きな人としては、株式に出資するというよりも、ゴルフ会員権を取得してゴルフ場施設を利用したいと考えて、お金を出すというケースも多いと考えられます。
2 このような株式会員権について、現在の評価額が、取得価格よりも下がり、評価損が発生した場合、これを法人の損金額に算入できるか、という問題があります。
3 以下、実例をカスタマイズしてお話いたします。
二
1 X社は、Bゴルフクラブを運営するA社の株式を保有していました。A社の株式は、3株で1口という単位で、Bゴルフクラブの正会員権になる株式会員権でした。
2 X社が現在保有しているA社の株式会員権の取引価格を調査したところ、A社が当該株式会員権を取得した価格より、30,500,000円も評価が下がっていました(以下「本件評価損」といいます)。
3 X社は、本件評価損について、損金額に算入したところ、それを否認する更正処分がなされ、バトルが始まりました。
三
1 資産の評価損について、法人税法33条2項では、「法人の資産につき、災害による著しい損傷、その他政令で定める事実が生じたことにより、当該資産の価額が、その帳簿価額を下回った場合、法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したとき」には、評価損について損金額に算入すると規定しています。
2 そして、法人税法施行令68条2号ロでは、非上場の有価証券については、有価証券の発行法人の資産状態が著しく悪化し、その価額が著しく低下した場合、評価損を損金額に算入すると規定しています。
3 そこで、本件では、X社の保有するA社の株式会員権の評価が30,500,000円も下がったことが、法人税法施行令68条2号ロに当たるのかが問題となったのです。
四
1 本件のポイントは、ゴルフ会員権の売買市場において、A社の株式会員権の取引価額が下落した、という点です。
2 国税不服審判所は、A社の株式会員権について、Bゴルフクラブの施設利用権(ゴルフ会員権)という意味合いが大きいという点を重視しました。そもそも、ゴルフ会員権の取引価格は、ゴルフ会員権市場における需要と供給のバランスで決定されるものです。Bゴルフクラブの会員権のニーズが乏しく、その取引価格が下がったとしても、それをもって、ただちに、Bゴルフクラブを運営するA社の資産状態が著しく悪化したことを意味するわけではありません。
3 そして、本件においては、客観的に見て、A社の資産状態が著しく悪化したと認定できる事情はありませんでした。
4 そこで、国税不服審判所は、本件において、法人税法33条2項と法人税法施行令68条2号ロが適用されず、本件評価損をX社の損金額に算入することはできないという判断をしたのです。
五
1 なお、本件で、X社側は、「資産の評価について、相続税法上は時価を評価額として認めているのに、法人税法上は時価を評価額として認めないというのは、ダブルスタンダードであり、不当である」という主張もしました。
2 この点、国税不服審判所は、相続税法と法人税法では、課税の趣旨や目的が異なるので、同じ資産について異なる評価方法を採ったとしても、不合理ではないという判断を示したのです。
六
法人がビジネスを展開する上で、資産価値が下落し、評価損が発生することは、ある意味リスクとして甘受すべきことと言えます。その意味で、資産の評価損を損金額に算入することには、大変高いハードルがあるのです。