架空の経費と使途不明金

ビジネスをする上では、見込み客を紹介してもらったり、有益な情報を提供してもらったりしたことに対する謝礼など、必要といえば必要だけれども、どの経済的利益に対する対価として支出したのかが明確でないというケースもあります。このような経費を損金に算入できるかが争われたケースについて、実例をカスタマイズしてお話しします。

1 あるところに、宅地があり、その上に3階建ての建物が建っていました。この宅地は、X社の単独所有でした。一方、3階建ての建物は、区分所有となっており、X社が一部の専有部分を所有していました。以下、X社の土地及び建物の所有部分を、「本件物件」といいます。

2 X社は、不動産会社であるB社の仲介により、本件物件を、代金815,733,600円でA社に売却しました。そして、X社は、B社に対して、仲介手数料として23,104,000円を支払い、その金額を損金に算入しました。

3 本件においては、大規模な不動産売買だったので、実際に仲介をしたB社以外にも、C社やD社など、本件物件の売却計画を立案したり、市場調査や情報収集をしたりする会社が介在していました。

4 X社は、それらの会社に対する企画料として、代表であるC社に対し、127,977,800円を支払いました(以下「本件企画料」といいます)そして、X社は、本件企画料について、本件物件の売買契約を成立させるために必要な販売費であるとして、損金の額に算入しました。

5 本件において、税務署長側は、本件企画料が架空の経費であるとして、その損金算入を否認する更正処分をするとともに、X社が架空の経費を仮装したとして、重加算税の賦課決定処分をしました。これに対し、X社は、審査請求をして、バトルが始まりました。

1 本件において、更正処分が適法か否かは、C社に本件企画料を支払った実体があったか否かにより、判断されます。

2 通常の不動産売買においては、仲介した不動産会社に、所定の仲介手数料を支払うだけで良いと考えられます。しかし、本件物件のように売却代金が多額で、かつ、建物が区分所有という複雑な権利関係になっているような場合には、仲介する不動産会社以外の者に対して報酬を支払い、サポートしてもらうということも、不自然とは言えないでしょう。

3 特に、本件では、本件物件の売買代金の中から本件企画料を受領したというC社作成のX社宛ての領収書がありました。また、D社の会計帳簿を調査したところ、C社から、本件企画料の一部として6000万円が支払われたという経理処理がなされていました。つまり、C社が、X社から本件企画料を受領し、その一部をD社に分配したという実体があることが、経理資料において裏付けられていたのです。

4 そして、C社やD社が、受領した本件企画料をX社に還流した、というような形跡もありませんでした。

5 国税不服審判所は、以上のような経緯から、X社が、本件企画料という架空の経費を仮装して、不正に損金額に算入したとはいえないと判断したのです。

1 もっとも、この判断を前提としても、本件企画料が、寄附金、交際費または使途不明金に当たり、X社の損金額に算入できないのではないか、という問題は残ります。つまり、本件企画料が、何に対する対価と言えるのかが、問題となるのです。

2 本件物件は、建物部分が区分所有になっており、しかも、他の建物区分所有者が、本件物件の売却に反対するなど、複雑な事情を抱えていました。そこで、X社としては、本件物件の売却代金について、手取り額が3.3㎡あたり2000万円となれば十分であると考えていました。

3 そこで、X社は、C社等に対して、本件物件について、3.3㎡あたり2000万円以上の価格で売却してくれたら、それ以上については、本件企画料として所定の報酬を取得してよいと約束しました(以下「本件合意」といいます)。

4 結局のところ、C社等が尽力したおかげで、3.3㎡あたり2400万円で、本件物件を売却することができました。そして、X社は、本件合意に基づいて、C社等に対して、増額した額に対する所定の本件企画料を支払ったのです。

5 このように、本件企画料は、C社等が尽力して、X社の希望価格より高い価格で本件物件を売却し、X社が想定外の利益を上げたことに対する報酬と評価できます。したがって、国税不服審判所は、本件企画料について、寄附金、交際費または使途不明金に当たらず、X社の損金額に算入できると判断しました。

このように、販売費や報酬として損金算入する上では、その支出に対応する対価が何かという具体的な紐づけを、説得的に説明できるようにしておくことが重要といえます。

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