資料や説明が不十分な場合の不利益



1 税務調査においては、調査担当職員から、必要な事項について質問を受けたり、資料の提供を求められたりすることが多々あります。
そして、実際に事業をしていれば、簡単に説明できることを十分説明できなかったり、本来揃っているべき資料をスムーズに提供できなかったりした場合、それ自体が納税者に不利益な事情と判断されることがあります。

2 今回は、そのようなケースについて、実例をカスタマイズして、お話しします。




1 X社は、OA機器及び電子部品等の製品(以下「本件製品」といいます)を製造し、国内だけでなくA国のような海外の取引先に対して、本件製品を販売する事業を行っていました。

2 A国が、X社にとって大きな市場だったこともあり、X社は、A国においてB社を設立しました。
B社は、X社から本件製品を購入し、それをA国仕様に梱包して、A国内の取引先に本件製品を販売していたのです。
なお、B社は、X社の「国外関連者」に当たる会社でした。
「国外関連者」とは、国内の法人との間に、50%以上の株式等の保有関係や、実質的支配関係(役員関係、取引依存関係、資金関係等)といった特殊の関係がある外国法人を指します(租税特別措置法66条の4 1項)。
法人が、国外関連者に対してお金を支出したりすることが、寄附金に当たる場合、その額は法人の損金に算入されません(租税特別措置法66条の4 3項)

3 本件製品は、単に販売すれば終了というものではなく、欠陥の補修やアフターサービスも必要となるものでした。
そこで、X社とB社は、取引を始める当初から、以下のような売買及び業務委託に関する契約(以下「本件売買及び業務委託契約」といいます)を締結していました。
・B社がX社から本件製品を購入する(個数や価格は、発注ごとに合意する)
・B社は、A国内の取引先に本件製品を販売する。
・B社は、A国内の販売先に対し、本件製品に欠陥があった場合の補修、トラブル発生時の対応、システムのアップグレードその他のサービスを提供する業務(以下「本件業務」といいます)を行う。
・X社は、B社に対し、本件業務の費用を支払う(金額等は、その都度合意する)。

4 A国の取引先としても、同じA国内にあるB社が、アフターフォローをしてくれるということで、安心してX社の本件製品を購入してくれました。その意味で、B社は、X社のA国内における本件製品の販売活動において、重要な役割を果たしていました。

5 また、X社が、A国内で、効果的に事業展開をする上では、A国内の取引先(見込み客も含みます)の実際のニーズや予算感を、具体的に把握することが必要でした。
そのため、B社は、本件売買及び業務委託契約に基づく業務以外にも、X社から頼まれて、A国内の取引先等に関する情報収集と報告業務(以下「本件別業務」といいます)を行っていました。
この点からも、B社は、X社にとって重要な会社だったのです。




1 しかし、現実には、肝心のB社の業績が芳しくなく、経営状況が赤字で、欠損が出ていました(以下「本件欠損金」といいます)。

2 X社は、本件欠損金を補填しないと、B社の事業が立ち行かなくなり、前述したB社の有用性を考えれば、X社のA国における事業展開に支障が出ると判断し、B社に対し、本件欠損金額を支払い、補填しました。

3 問題は、X社がB社に支払った本件欠損金額の経理処理の方法です。というのも、前述のように、B社はX社の国外関連者に当たるので、寄附金をX社の損金に算入できないからです(租税特別措置法66の4 3項)。

4 そこで、X社は、B社との間で、別途、本件別業務についての業務委託契約をしていたことにしました(以下「本件業務委託契約2」といいます)。
つまり、B社がこれまで行ってきた本件別業務を、本件業務委託契約2に基づく業務だったことにした上で、X社が、本件業務委託契約2に基づく業務委託費として、B社に対し、本件欠損金の額を支払ったというストーリーを描いたのです。
X社としては、本件業務委託契約2に基づいて、B社に対し、本件別業務を委託し、その対価としてB社に対して業務委託費を支払ったわけだから、寄附金には当たらないという弁明を考えたのです。

5 X社は、このストーリーに基づいて、B社に支払った本件欠損金の額を、業務委託費としてX社の損金に算入しました。これに対し、案の定、X社がB社の欠損を補填するために支払ったお金は寄附金に当たるので、X社の損金算入を否認する更正処分等がなされました。




1 本件において、X社は、本件業務委託契約2の契約書を作成(正確には捏造)して証拠提出し、あくまで支払ったのは業務委託費であると言い張りました。しかし、国税不服審判所は、このX社の弁明を否定しました。

2 X社の弁明が否定されたポイントは、B社に業務委託費として支出した額の内訳について、X側が合理的な説明をすることができず、かつ、金額の算出方法を窺わせる資料を提供できなかった、という点です(そもそも、前述の経緯から、本件欠損金額をそのまま業務委託費の額としたので、内訳が無いのも当然です)。
そもそも、業務委託費を支払うのであれば、それが具体的にどの業務の対価なのか(どの業務と紐づいているのか)について、何かしらの文書で記録して明確になっていてしかるべきです。
また、個別の業務の対価を合算して一括して支払うのであれば、その金額の積算方法について、何かしらの文書で記録して明確になっていてしかるべきです。
しかるに、これらの資料が、X社側から提出されませんでした。
さらに、X社側に、B社に支払ったとされる業務委託費の内容や金額について具体的な説明を求めても、説明がなされませんでした。

3 相当額のお金を支出しているのに、支出した側が、そのお金を支払った理由や金額の根拠を具体的に説明できないということは、常識的に考えられません。
また、支出した側が、お金を支払った理由等を窺わせる資料が提出できないというのも、常識的に考えにくいところです。
このような理由から、X社の弁明には信ぴょう性が無いとして、否定されたのです。




1 結局のところ、X社は、本来、寄附金に当たる、B社に対する本件欠損金額を損金に算入したことになるので、この点を否認する更正処分は、適法となりました。

2 また、X社は、本件業務委託契約2を仮装して、それに基づく業務委託費であるという事実と異なる経理処理をして、所得を減らして申告したことになるので、重加算税の賦課決定処分も受けることになったのです。


六 

本件における事実経緯及び証拠関係を見る限り、どうしてX社が強気になって審査請求する気持ちになったのかは、私個人には分からないところもあります。
もっとも、本件において国税不服審判所が示したように、本来容易に説明できたり資料を提供できたりするはずなのに、それができないというのは、それ自体信ぴょう性を損なう要因であるという考え方は、事実認定をする上で、大変重要だと思います。

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