代表者の着服と役員給与

1 ブログ「この取引は、誰の取引?」でご紹介できなかった事件2について、実例をカスタマイズしてお話いたします

2 基本となる事実関係は、ブログ「この取引は、誰の取引?」と同様です。
つまり、X社は、建築設備業等を事業とする株式会社です。
Aは、X社の前の代表取締役でしたが、X社において発生したトラブルの責任を取って代表取締役を辞任し、その後は、X社の平取締役として、X社の工事の受注、施工などの業務に従事していました。
Aが代表取締役を退任した後は、BがX社の代表取締役に就任し、現在に至ります。

1 事件2は、AがまだX社の代表取締役だった時期に起こりました。

2 X社は、外注業者であるE社に工事を外注して、E社に外注工事費(以下「本件外注費」といいます)を支払ったことにしていました。
しかし、実際には、これは、当時X社の代表取締役であったAの仮装行為であり、実際には、E社への外注の事実は無く、E社に本件外注費は支払われていませんでした。
Aは、X社の代表取締役という立場を悪用して、E社から架空の請求書や領収書を発行させ、帳尻合わせをしていました。
そして、X社からE社に支払われることになっていた本件外注費は、Aが着服し、個人的に使ってしまいました。

3 X社は、本件外注費を損金に算入したことにより、その事業年度において欠損金(以下「本件欠損金」といいます)が出ました。
そこで、X社は、法人税法57条に基づき、本件欠損金を翌事業年度に繰り越し、翌事業年度の損金額に算入して、翌事業年度の所得・税額を申告しました。

1 まず、本件外注費については、架空のものですから、それを損金に算入することはできません。

2 そして、架空の本件外注費を損金算入した結果、その事業年度の所得が変動したわけですから、当然問題視されます。
本件においては、架空の本件外注費を損金算入した結果、本件欠損金が発生し、それが繰越欠損金として翌事業年度の損金に算入されることにより、翌事業年度のX社の所得・税額も変動することになりました。

3 X社は、架空の本件外注費を損金算入した結果として免れた税額について更正処分を受けるとともに、翌事業年度の法人税について重加算税の賦課決定処分を受けました。

4 X社の代表取締役であるAが、架空の本件外注費を損金算入した結果、X社の税額が変動した以上、事実の仮装・隠ぺいといえるので、X社に対し重加算税の賦課決定処分がなされてもやむを得ないといえます。
本件においては、重加算税の賦課決定処分の対象となったのが、Aによる仮装行為の翌事業年度の法人税であるという点が、問題となりました。
つまり、事実の仮装・隠ぺいにより、その事業年度の所得や税額が変動したというケースとは異なるので、そのような場合にも重加算税の要件を満たすのか、という点が問題となったのです。

5 この点、国税不服審判所は、事実の仮装・隠ぺい行為が、重加算税の対象となる事業年度に行われる必要は無いという判断を示しました。
Aが架空の本件外注費を損金算入するという仮装行為をした結果、その事業年度に本件欠損金が生じ、法人税法57条により本件欠損金が翌事業年度に繰り越されて損金算入され、その結果、翌事業年度の税額の申告が実際の額と異なりました。
したがって、Aの仮装行為と、翌事業年度における異なった申告との間に因果関係があるので、翌事業年度の法人税について重加算税の対象とすることができるという結論になったのです。

1 前述のように、本件外注費が架空である以上、X社として、損金算入できません。

2 もっとも、本件においては、X社からE社に対して支払われることになっていた本件外注費額を、Aが着服して個人的に使ってしまいました。
このように、X社の代表取締役であるAが、その地位を利用して、X社のお金を着服した場合、税法上どのような扱いになるのかが、問題になりました。

3 前提として、代表取締役は、会社の給与の支給を含む、会社全体の業務全般を統括する立場にあります。
本件において、X社の代表取締役であり、給与の支給に関する権限も有するAは、その地位を利用して、E社から架空の請求書や領収書を発行させ、本件外注費相当額をX社からE社に支払ったように仮装し、その金額相当額をA自身が着服して個人的に使いました。
このような場合、Aに、X社の給与の支給に関する権限がある以上、Aが取得した本件外注費相当額は、X社のAに対する給与に当たると、国税不服審判所は判断しました(つまり、役員に対する認定賞与の問題が発生します)。

4 以前のブログで、役員賞与の損金不算入(法人税法34条)についてご紹介しましたが、毎月定額で支払われる役員報酬は損金になりますが、臨時に役員に支給される給与(賞与)は、損金に算入されません。
上記のように、Aが取得した本件外注費相当額は、X社のAに対する臨時の賞与と認定されますから、X社としては、これを損金にできないばかりか、源泉所得税の納付義務を負うことになります。

1 このように、本件外注費相当額をAが着服したことについて、X社のAに対する臨時の賞与と認定されてしまうと、源泉所得税の納付をしていないことについて、X社にペナルティーすら課せられることになります。
そこで、X社としては、Aが着服した本件外注費相当額は、X社のAに対する貸付金であり、臨時の給与ではないという弁明をしました。

2 しかし、国税不服審判所は、このX社の弁明を否定しました。法的にいえば、貸金契約(金銭消費貸借契約)の要件事実は、「借りたお金を返済することに合意して、貸付金を受領した」という事実になります。
X社として、貸付金であると弁明するのであれば、この事実関係を具体的に主張・立証する必要があります。
しかし、Aは、無断で一方的に本件外注費相当額を着服したのであり、「返済することに合意して、本件外注費相当額を受領した」というのは、さすがに無理があります。
このように、X社として、Aと金銭消費貸借契約をしたという事実関係を、具体的に主張・立証できないことから、X社の弁明は通用しないことになりました。

3 本件のポイントは、代表取締役であるAが、X社の給与の支給に関する権限を持っており、その権限を利用してA自身がX社のお金を受領することは、経済的に見て、X社が代表取締役であるA個人に対して臨時の賞与を支払ったことと同視できるという点にあると考えられます。

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