役員給与額の相当性の判断基準

1 以前のブログでもご説明した通り、法人が役員に支給した役員給与のうち、不相当に高額な部分については、当該法人の損金に算入されません(法人税法34条2項)
今回は、役員給与が、「不相当に高額」と判断される基準についてのお話です。

2 役員報酬については、定款で規定していなければ、株主総会決議において決定されます(会社法361条1項。多くの会社は、株主総会決議で決定しています)。
株主総会決議により、役員給与として支給できる金額の限度額が設定されているのに、その限度額を超えて支給した場合、その限度額を超えた額は、「不相当に高額」と判断され、損金に算入されません。
この点は、支給金額が、限度金額を超えているかという、形式的・客観的な基準で判断することができます。

1 もっとも、法人の役員でもありながら、同時に、従業員として、法人の仕事に従事している人について、その人に支給された金額が、株主総会で決議した限度金額を超えた場合、形式的に見れば、超過額が損金に算入されないようにも見えます。
この点について争われたケースについて、実例をカスタマイズして、お話いたします。

2 X社は、製造業を事業とする株式会社であり、役員は、A代表取締役のほか、B取締役と、C監査役がいました。
B取締役は、X社の生え抜きの従業員であり、X社の取締役就任後も、生産管理部長として、X社の業務に従事していました。
そして、B取締役は、「役員で労働者扱いの者」として、労働保険に加入していました

3 X社の定款では、「取締役の報酬は、株主総会決議をもって定める」と規定されていました。
もっとも、X社では、多くの会社と同様、株主総会決議において、報酬の総額を定め、各取締役への具体的な配分については、A代表取締役に一任していました。

4 A代表取締役は、この一任を受けて、「取締役の報酬金額に関する決定書」という書面(以下「本件決定書」といいます)を作成しました(A代表取締役の記名と押印がありました)。
本件決定書においては、各取締役に支給される実際の報酬額が記載されていました(以下「取締役報酬額」といいます)。
B取締役は、本件決定書に記載された取締役報酬額を受け取っていました。
また、前述のように、B取締役は、X社の生産管理部長としてX社の業務に従事しており、その対価として給与(以下「従業員給与」といいます)も受け取っていました。

5 この点、税務署長側は、本件決定書に明記されている以上、それに記載された取締役報酬額が、B取締役に支給できる限度額であると判断しました。
そして、限度額を超えた額、つまり従業員給与の額については、「不相当に高額」であるとして、法人税法34条2項により損金額に算入しないという更正処分をしたのです。
X社は、この更正処分が、実態を正確に反映しておらず、誤った判断であると主張し、バトルがスタートしました。

1 本件における税務署長側の主張は、本件決定書に全乗っかりと言えるものでした。
このような主張・立証方法は、前提となるロジックが否定されたり、前提とする証拠の評価が誤っていると判断されたりした場合に、全体が覆ることになるので、大変リスキーなものと言えます。

2 現に、X社側は、本件決定書の証拠評価について、厳しく主張しました。
そもそも、本件決定書は、法的に作成が義務付けられている書面ではなく、A代表取締役が、任意で作成したものにすぎません。
そして、A代表取締役は、国税不服審判所に対し、
① B取締役の取締役報酬額は、委任契約に基づいてX社からB取締役に対して支給される取締役の職務の対価であり、会社法上株主総会決議の対象であるから、本件決定書に記載した。
② B取締役の従業員給与は、雇用契約に基づく労務提供の対価であり、取締役報酬とは発生原因事実が異なり、会社法上、株主総会決議の対象とならないので、本件決定書に記載しなかった。
と説明したのです(X社の代理人弁護士さんが、入念にリハーサルをしたことが窺えます)。
このA代表取締役の説明は、役員と従業員を兼任する人に関する法律関係を正確に説明したものであり、疑問の余地がありません。

3 国税不服審判所は、本件決定書は、法的な公式書面でないことに加え、B取締役の従業員金額の額を本件決定書に記載しなかったことも不自然ではない(むしろ、法理論として合理的である)と判断しました。
そして、本件決定書に記載された取締役報酬額が限度額ではないから、B取締役の従業員給与についても、限度額を超えたことにはならず、「不相当に高額」ではない以上、損金算入できると結論付けたのです。

4 税務当局としても、本件決定書のみを安易に鵜吞みにせず、裏付けの税務調査を十分に実施していれば、本件のような失敗をしなかったのではないかと、私個人は思います。
本件決定書の証拠としての価値を過大評価した税務当局の落ち度のように思います。
そもそも、Bは、取締役の職務とは関係なく、生産管理部長としてX社の労務に従事した対価として、従業員給与を受けているわけです。
したがって、これを、「役員給与」の一部と考えて、「株主総会決議による限度額を超えていないか」とか、「不相当に高額か」という議論をすること自体、ロジックが誤っていると考えられます。

このように、証拠の価値の判断や、それに対する主張・反論の構成については、税理士先生としても慣れていないと思われます。
是非、そのような場合には、弁護士との協同をご検討ください。

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