公私混同と税務トラブル

1 法人の資産と個人のお金は別物ですし、法人の事業に無関係な支出は、法人の経費にしてはいけません。
これは、頭では理解していたとしても、できれば法人のお金を使いたいし、できれば法人の経費にしたいと思うのは、経営者の性なのかもしれません。

2 経営者の中には、屁理屈としか言いようのない独善的な考えに基づいて、自分の都合の良いように経理処理している人もいます。
具体的には、実体のない関連会社を使って、取引があるように見せかけて経費計上するとか、法人の事業に関与していない人に対し、関与しているように仮装して、給与を支払うといった手法が散見されます。

3 もちろん、税務当局も、このような脱法行為を黙認することは無く、事案によっては、徹底した税務調査を実施して、重加算税を課したり、刑事告発したりします。
今回は、公私混同の結果税務トラブルとなり、結果として重加算税まで賦課されたケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。

1 X社は、飲食店の経営等を事業とする株式会社であり、いわゆるホステスさんが接客するスナック(以下「本件スナック」といいます)を経営しています。
Aは、X社の代表取締役であり、X社の100%株主です。

2 X社は、賃貸物件を賃借して本件スナックを経営していました。
もっとも、X社は、X社の関連会社であり、Aが代表取締役を務めるB社の名義で、本件スナックの店舗(以下「本件店舗」といいます)を賃借していました。
つまり、X社は、B社に対して、本件店舗の賃料を支払い、B社が、本件店舗の賃貸人に対し賃料を支払っていました。

3 問題は、支払われていた賃料の額です。
つまり、X社は、B社が本件店舗の賃貸人に支払ってきた賃料額の2倍近い賃料を、B社に支払い、その全額をX社の損金に算入していたのです。

4 この点、税務署長側は、X社がB社に支払ってきた金額から、実際にB社が賃貸人に支払った額を差し引いた差額(以下「本件差額」といいます)について、X社のB社に対する寄附金に該当すると判断し、この点の損金算入を否認する更正処分をしました。

5 そもそも、「寄附金」に当たる場合、損金に算入できません(法人税法37条)。
「寄附金」とは、贈与に限らず、「経済的にみて贈与と同視し得る金銭その他の資産の譲渡または経済的利益の供与」を指します。
言い換えれば、対価的関係のある経済取引が無いのに、お金や経済的利益が提供されている場合、「寄附金」に当たり、支出額を損金に算入できません。

6 本件において、賃貸人に支払った賃料相当額は、本件店舗を利用することの対価と言えるので、寄附金には当たりません。
しかし、本件差額の場合、それの対価となる業務が見当たりません。
X社は、B社がX社の代わりに賃貸人に賃料を支払ってくれたことの対価であると主張しましたが、さすがに、それが本件差額の対価と評価できるレベルのサービスとは考えられず、屁理屈というほかないでしょう。
そもそも、X社が、直接本件店舗を賃借し、賃貸人に直接賃料を支払えば済む話であり、あえて、Aが代表取締役である関連会社のB社を介在させる必要が無かったといえます。
にもかかわらず、B社を介在させ、しかも、本件差額を発生させたということは、X社の経費を水増しするためだったと推察されてもやむを得ないといえます。

7 結局のところ、国税不服審判所も、本件差額が、対価となる業務を伴っておらず、X社のB社に対する寄附金に当たるので、X社の損金に算入できないという判断をしたのです。

1 また、本件では、X社がB社に対して、本件店舗の賃料とは別に支払っていた事務手数料(以下「本件事務手数料」といいます)についても、問題となりました。

2 前述のように、対価的関係のある経済取引が無いのに、お金や経済的利益が提供されている場合、「寄附金」に当たり、支出額を損金に算入できません。
この点、X社は、本件事務手数料について、本件スナックに勤務するホステスさんたちに対する支払金額の計算事務等をB社に委託しており、その対価としてB社に本件事務手数料を支払っていたのであるから、寄附金に当たらない、と主張しました。

3 ここでのポイントは、X社が本件事務手数料の対価となる業務をB社に委託していた事実があったのか、という点です。

4 税務調査の結果、以下の事実が判明しました。
① X社とB社の間に、本件事務手数料の対価業務についての契約書が無かった。
② X社とB社の業務内容が変動していないのに、B社に本件事務手数料が支払われた期間と、支払われなかった期間があった。
③ X社は、その業績内容を把握するために、月次決算表を作成していたが、その中に本件事務手数料の記載が無かった。
④ B社において、ホステスさんたちに対する支払金額の計算事務等を実際に行っていた形跡が確認できなかった。
⑤ 本件事務手数料の金額の算出基準(計算式)が不明確であった。

5 以上の点を総合的に考えれば、本件事務手数料には、対価となるB社の業務が認定できません。
つまり、X社がB社に支払ったお金を、名目上事務手数料という科目を使って損金算入し、X社の所得額を圧縮するためのものと推認されても、やむを得ないと言えます。
結局のところ、国税不服審判所も、本件事務手数料が、実際の業務と対応しておらず、X社のB社に対する寄附金に当たるので、X社の損金に算入できないという判断をしたのです。

1 さらに、本件では、Aの妻が使用していた車両(以下「本件車両」といいます)の税務上の取り扱いについても問題になりましたので、ご紹介します。

2 Aは、X社名義で本件車両を取得しました。具体的には、信販会社との間において、X社名義でローン契約を締結し、560万円の本件車両を取得しました。
所有権留保がなされているので、本件車両の自動車検査証の「所有者」の欄には信販会社の社名が記載されていましたが、「使用者」の欄には、X社の住所地と社名が記載されていました。X社は、本件車両取得に伴い信販会社に支払った金額全額を、X社の損金の額に算入しました。
もっとも、本件車両の納車先は、Aの自宅であり、保管場所も同じくA宅でした。さらに言えば、顧客情報としてディーラーに登録されていた携帯電話番号は、Aの妻のものでした。

3 本件において、もっぱらAの妻が本件車両を使用していましたが、Aの妻は、X社の役員や従業員ではなく、X社の業務に従事していませんでした。
税務署長側は、これらの事情に加え、AがX社の100%株主であること等も考慮して、本件車両の取得費は、X社からAに対して支払われた役員給与に当たると判断しました。
以前のブログでご紹介したとおり、役員給与の損金算入については、法人税法34条により、制限が規定されています。
そして、法人税法34条3項では、事実を仮装したり隠ぺいしたりして経理した役員給与は、損金の額に算入しないと規定されています。
税務署長側は、Aの妻だけが使う車両である以上、Aのポケットマネーで購入するべきなのに、X社が上記のような経理処理をしたことが、「事実の仮装または隠ぺい」に当たると判断して、損金算入を否認する更正処分をしました。
これに対して、X社が、役員給与に当たるという判断が不当であると主張して、バトルがスタートしました。

4 この点、X社が費用負担している本件車両をAの妻が専用で使っており、その使用料をX社に支払っていないので、公私混同である点は、間違いなく問題です。
しかし、「役員給与」とまで評価できるかについては、慎重な判断が必要です。
そもそも、法人が、役員に対する債権を免除して役員に経済的利益を与えるなど、実際に金銭や物品が授受されていなくても、役員に経済的利益を与えることにより、実質的に役員に対して金銭で給与を支給したのと同じ経済的効果が発生する場合には、「役員給与」に当たると考えられています。

5 本件において、国税不服審判所は、Aの妻が本件車両を個人的に利用しているにとどまるので、X社がAに本件車両を贈与した場合(この場合ならば「役員給与」といえます)に匹敵するほどの経済的効果は認められないとし、本件車両取得費がAへの「役員給与」に当たるとした税務署長側の主張を否定したのです。

1 本件において、国税不服審判所は、X社の資産である本件車両をAに利用させた、という使用利益が「役員給与」に当たるという基本的見解を示しました。  
以下、具体的に説明します。

2 Aは、X社の100%株主であり代表取締役でもあるという地位を利用し、本件車両を妻に代理利用させていたと言えます(X社に使用料は、支払っていません)。
このように、X社は、無料で本件車両をAに使用させるという経済的利益を、役員であるAに供与しているので、この経済的利益が、「役員給与」に当たると考えられます(法人税法34条4項参照)。

3 では、この「無料で本件車両をAに使用させるという経済的利益」を、具体的にどのような基準で算出するのでしょうか。
(1) 関連法令として、所得税法施行令84条の2では、法人の資産を独占して利用する場合の経済的利益の額について、「その資産の利用につき、通常支払うべき使用料、その他その利用の対価相当額(以下「資産利用対価額」といいます)」とすると規定されています。
(2) そして、この法令の趣旨を前提にして、具体的に、「資産利用対価額」の算出方法について、本件車両の取得価額を基礎として、それを使用可能期間で按分し、1か月あたりの資産利用対価額を算出します。
そして、その金額に、Aが本件車両を利用してきた期間を掛け合わせた金額を、Aに対して提供した経済的利益と考えて、その額を「役員給与」の額とするという見解を、国税不服審判所は示したのです。
(3) なお、「使用可能期間」については、減価償却費の計算における法定耐用年数を基準にすると、国税不服審判所は判断しています(本件車両の場合、普通自動車なので、6年になります)。
(4) 単純計算ですが、本件車両の取得価額が560万円とのことなので、法定耐用年数6年(72か月)で按分すると、1か月77,777円(小数点以下切り捨て)となります。
そして、仮に、Aが本件車両を1年(12か月)使っていたとした場合、77,777円×12か月=933,324円が、Aに提供された経済的利益となり、これが「役員給与」になるという考え方です。

4 なお、正確に言えば、X社は、自動車保険料、ローン契約に基づく支払利息、自動車税等の税金(以下「本件車両関連費用」といいます)も負担しています。
本件車両関連費用については、本来、本件車両を専用で使っているAが負担すべきものです。
それを、X社が肩代わりして負担し、Aに請求しないということは、その分の経済的利益をAに提供していると評価されるので、本件車両関連費用の金額も「資産利用対価額」に含まれ、Aへの「役員給与」に当たることになります。

5 では、税務当局の主張するように、「事実の仮装または隠ぺい」があったとして、法人税法34条3項により、「役員給与」の部分が損金に算入されないことになるのでしょうか。
そもそも、本件車両取得費が、X社のAに対する「役員給与」であるという税務当局の主張は、否定されています。
また、本件車両関連費用についても、X社においては、それぞれ、租税公課、保険料、または支払利息等の勘定科目で分類・処理して帳簿に記載していました。
つまり、X社としては、「役員給与」の認識に対する誤りはあったとしても、事実を仮装したり隠ぺいしたりはしていません。
したがって、法人税法34条3項は適用されないと、国税不服審判所は判断しました。

1 なお、公私混同とは直接関係しませんが、今回の実例においては、X社のホステスさんへの支払いが「給与」にあたり、源泉所得税の対象になるか、という点も争点になりましたので、簡単にご説明いたします。

2 「給与所得」(所得税法28条1項)は、雇用契約又はこれに準じる契約に基づき、使用者の指揮命令に従って提供した労務の対価として、使用者から受ける給付のことをいいます。
ポイントは、①場所的、時間的な拘束を受けているか、②継続的、または断続的に労務が提供されているか、③②の対価として支給されている給付か、という点です。

3 一方、「事業所得」(所得税法27条1項)は、自分でリスクを引き受け、自分の判断で独立して事業を営む(その結果の収益は、自分に帰属する)という点に特徴があります。

4 本件スナックにおいては、ホステスさんの給与体系、勤務時間、店舗規則等の勤務条件が決められており、それを前提にしてホステスさんを採用していました。
また、本件スナックの店長が、ホステスさんたちの出勤日及び入退店時刻の指示をしてシフトを組み、出勤日や勤務時間を管理した上、タイムカードでの勤怠管理もしていました。
確かに、お客さんからの指名等の実績に応じて、ホステスさんごとに支払われる支給金額は変動しましたが、それはあくまでインセンティブであり、時間給に上乗せされる扱いになっていました。
なお、お客さんからの飲食代金は、本件スナックに対して支払われており、直接ホステスさんたちが回収していたわけではありません。
そして、売掛金が回収できなくても、ホステスさんたちが責任を負わされることはありませんでした。

5 以上の点からすれば、ホステスさんたちに支払われるお金が「給与所得」にあたることは明らかです。
したがって、X社は、ホステスさんたちへの給料について源泉所得税を納付しなければならなかったのに、納付しなかったので、源泉所得税の不納付加算税の賦課決定がなされたのです。

投稿記事一覧へ