一
1 今回は、役員給与を受ける役員に該当するか、が争われたケースについて、実例をカスタマイズしてお話いたします。
2 そもそも、税法上、「役員給与」のうち、不当に高すぎる部分については、損金に算入できません(法人税法34条)。
具体的に、役員1人1人を個別にみて、その職務の内容、その会社の収益や従業員の給料の支給内容・バランス、同業種・同規模の他社の役員給与額を基準にして、不当に高いと判断された場合には、その部分を損金に算入できないのです。
従業員に対する給与は損金になるのに、役員給与については、法人税法34条による制限が設定されています。
そこで、給料をもらう人が、「役員」なのか否かが、重要な判断ポイントになります。
3 法人税法2条15号では、「役員」について、「法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人、ならびにこれら以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令で定めるもの」と規定されています。
今回ご紹介するケースは、報酬を支払った相手方が「法人の経営に従事している者」に該当するかが、争われました。
以下、具体的にご紹介します。
二
1 X社は、損害保険代理業と生命保険媒介業を事業とする株式会社です。
2 X社は、Aとの間で、委任型募集人業務委託契約(以下「本件業務委託契約」といいます)を締結していました。
本件業務委託契約においては、Aが保険商品を販売したり、サービス等を紹介したりした実績に応じて、X社がAに対し、所定の報酬を支払う取り決めになっていました。
3 X社は、本件業務委託契約に基づいてAに対して支払った報酬について、支払い時期に対応する平成23年3月期及び平成24年3月期の損金に算入しました。
4 Aは、平成24年4月25日に、X社の代表取締役に就任しました(それまでは、AがX社の取締役などになったことはありませんでした)。
三
1 AがX社の代表取締役に就任して以降にX社からAに支払われた報酬は「役員給与」に該当します。
しかし、本件において、税務署長側は、AがX社の代表取締役に就任する前に支払われた、本件業務委託契約に基づく報酬を問題視しました。
そして、この報酬全額を損金算入した平成23年3月期及び翌24年3月期について、X社の損金算入を否認する更正処分をしたのです。
つまり、税務署長側は、Aが、平成24年4月25日にX社の代表取締役に就任する以前から、「X社の経営に従事している者」に該当し、X社が、平成23年3月期及び翌24年3月期に支払ったAに対する報酬も、「役員給与」に当たると判断したのです。
2 税務署長側がこのように判断した理由は、以下のとおりです。
① Aは、平成23年3月期及び翌24年3月期において、X社の発行済み株式の過半数を保有していた。
② X社は、社内の業務の一部をB社に外注するために、B社との間で、平成24年1月17日付外注契約書(以下「本件外注契約書」といいます)を作成したが、本件外注契約書には、AがX社の代表者として署名・押印していた。
③ X社が税務調査において提出した社内文書(以下「本件社内文書」といいます)には、「Aが、前職を退職して、X社を創業した」とか、「当初はAの母親を代表者として登記していたが、実際は、自分(A)がいろいろ切り盛りして、会社をやっていた」という記載がある。これらの記載から、Aが、X社の設立当初からその経営に携わっていたと評価される。
④ 本件社内文書に、「Aは、優秀な営業マンを採用するなどのリクルート活動に邁進してきた」旨が記載されており、Aが当初からX社の人事に関与していた。
⑤ Aは、X社の資金計画に関与しており、X社設立当初から、X社の事業運営上の重要事項に参画していたものと認められる。
3 これに対し、X社は、Aが、平成23年3月期及び翌24年3月期の時点では、代表取締役でも、「X社の経営に従事している者」でもないから、Aに支払った報酬は役員給与ではなく、これらの事業年度において損金算入できると主張し、不服審査請求をしたのです。
四
1 この実例において、国税不服審判所は、税務当局の調査・主張・立証不十分を指摘して、その主張を否定しました。これは、珍しいケースと言えます。
以下、上記①~⑤で挙げた税務当局の理由について、どのように判断されたかをご紹介いたします。
2 ①について
株式会社においては、所有と経営の分離原則が取られており、株主が、直接会社を経営するわけではありません。
したがって、Aが、X社の株式を過半数保有していることをもって、「X社の経営に従事している」と評価するのは、法的ロジックとして誤りというほかありません。
3 ②について
本件外注契約書の証拠評価の問題になります。
本件外注契約書が作成された平成24年1月17日の時点では、AはX社の代表取締役ではありませんでした。
そして、本件外注契約書の対象業務は、外交員への報酬の計算という内部的なルーティン業務の一部であり、重要なものではありませんでした。
このような重要でない社内的な業務の外注契約書について、AがX社の代表者と記載されていたとしても、それはあくまで代表者でない者が契約当事者になっていることしか意味しません。
本件外注契約書がX社の内部的な、重要でない契約書である以上、これをもって、「AがX社の経営に従事していた」と評価するのは、証拠評価の誤り(本件外注契約書の証拠価値の過大評価)であると考えられます。
言い換えれば、「AがX社の経営に従事していた」と認定する上で、本件外注契約書は、裏付け証拠として不十分と考えられるのです。
4 ③、④について
(1) この点について、税務調査のずさんさが指摘されました。つまり、税務当局は、本件社内文書の記載内容を鵜呑みにして判断をしており、記載内容の裏付けの調査が不十分であると指摘されたのです。
(2) 具体的に言えば、指摘した事業年度において、AがX社でどのような業務をしていたか、X社とAの関わり、AがX社の代表取締役になる前 と後での役割や職務内容の違いといった重要な裏付け事実について、X社の他の役員や従業員に対して具体的に調査するなどしておらず、本件社内文書の記載内容を裏付ける証拠も提出しませんでした。
(3) 本件において、Aは、「切り盛りしてきたのは営業活動の範囲内に過ぎない」とか、「X社の資金繰りに関与したのは、代表取締役になってから であり、それ以前は関与していない」と反論しました。
そして、税務当局は、本件社内文書の記載内容を鵜呑みにしており、その裏付け調査を十分にしていなかったことから、Aの反論を否定するに足りる証拠を提出できませんでした。
(4) このような点から、③及び④について、AがX社の経営に従事してい
たと認定するには、理由として不十分と判断されたのです。
5 ⑤について
これについても、AがX社の経営に従事していたと認定するには、理由として不十分と判断されました。
つまり、この主張を通すのであれば、Aが、いつの時点で、X社の資金計画についてどのような役割や関与を果たしてきたのかについて、客観的な裏付け証拠をもとに、具体的に説明する必要があります。
しかし、本件において、十分な裏付け調査が行われなかった結果、これらの点が具体的に解明されておらず、かつ、裏付け証拠による立証もなされていません。
したがって、この主張は、あくまで税務署長側の一方的な言い分であり、事実認定の理由として不十分と判断されたのです。
五
1 以上述べた点のほかに、Aについて、「X社の経営に従事しているもの」であることを示す特段の主張・立証がなされなかったことから、結局のところ、Aは、法人税法上の「役員」に該当しないと結論付けられました。
2 そして、X社が、本件業務委託契約に基づいて、平成23年3月期及び翌24年3月期にAに支払った報酬は、Aの外交員としての業務の対価ですから、法人税法34条は適用されず、損金に算入されることになりました。
六
1 なお、かかる報酬は、外交員の業務に関する報酬ですから、消費税法2条1項12号に規定する課税仕入れに該当します。
2 また、かかる報酬は、所得税法204条1項4号により、外交員の業務に関する報酬に当たるので、給与等としての源泉徴収は不要です。
七
1 本件は、国税不服審判所が、税務当局に対し、安易に証拠の価値を過大評価せず、それを裏付ける事実を丁寧に調査するよう求めた、納税者にとって意義ある裁決といえます。
2 刑事事件における捜査当局の捜査と同様、当局が見立てたシナリオを裏付ける十分な客観的証拠があるのか、そもそも十分な裏付け調査が行われたのか、と厳しく追及する観点が重要です。
このようなバトルに苦手意識をお持ちの税理士先生は、是非弁護士との協同をご検討ください。